ep.2 門出と少女と
こんにちは!作者です!
執筆活動の歴はあまり長くありませんが、描きたいものを書いていきたいと思っています。お時間があれば是非読んでください!
四方を巨大な壁に覆われたフォーディア王国城下町のとある病院、ルイスはベッドの上で悪夢にうなされていた。
「、、、。」
ルイスの脳に鮮明に記録された魔法学校の屋上からの景色が悪夢の中で再生されていた。
キィィ、、、
建て付けの悪い屋上の扉が開かれてルイスの視線は自然と扉を開けた人へと向けられる。
「あっ、、、あぁ、あぁぁ!」
視線の先にいたのはあの日守れなかった少女と選べなかった少女の2人であった。
2人の目には後悔や侮蔑、怨みが色濃くにじみ出ている。その4つの目は刺すようにずっとルイスを見つめ続けている。
「ちがっ、、僕は、あっいや俺、、、は」
否。この2人に対する反論の余地はなく、全ては過去にも未来にも情けなく縋りついた自身の咎なのだとルイスは思い出し、閉口する。
「ごめん、2人とも」
その言葉に応える者は誰もいない。
ー 擦り切れないフィルム 6章「いえない」 ー
「っ!!」
ルイスは勢いよく起き上がり、声にならない叫び声を喉から捻り出す。ガリガリと自身の両肩を掻きむしる音だけが病室に響く。
暗くドロドロとした何かが胃の中で暴れる。上手く呼吸が出来ず耳鳴りが収まらない。
「ハッ、、、カハッ、、、」
ガラガラ
「うっ!!」
不意に開いた扉の音にルイスの心臓がさらに跳ねる。溢れそうな涙を堪えて音の方を見るとそこには驚いた様子のライネルがいた。
「ルイス大丈夫!?」
「アッ、、ダ、、」
「嫌な夢を見たんだね。ほら、大丈夫大丈夫」
ライネルに背中をさすられてぐちゃぐちゃだったルイスの思考が徐々にまとまっていく。
「落ち着いたかい?」
「うん、ありがとう」
「、、、病院の人を呼んでくるよ」
そう言ってライネルが部屋を出て数分後にアイシャとカイネ、院長と一緒に戻って来る。院長はルイスを診て今日にも退院できる事を告げて部屋を後にした。
「ルイスさん良かったですね!今日中に退院出来ますよ!」
「あっ、、ぅはい」
「じゃあ出発は明日以降って事だねぇ。私は大魔法使い様の都合に合わせるよ」
「しゅっ出発?」
カイネの言葉の真意を探るためにルイスはライネルへと視線を向ける。
「今回の件を国に報告したら準備ができ次第第1期隊と合流してほしいという命令が速攻で返って来たんだ」
「なっ、何で?」
討伐隊が魔王四天王に襲撃されたという事は魔族勢力に動きがバレているという事。なればこそより慎重な判断が必要なのは火を見るより明らかである。
「詳細な理由は語られていないんだ。しかも私達に選択の余地も無い」
「強力な魔族を一体退けたこの功績で私たちの扱いはひとつの大きな戦力として改められたのかもしれないよねぇ。分かんないけど」
「腑に落ちない部分はありますよね、確かに」
全員違和感を感じ、数秒の沈黙が流れる。それを破ったのはライネルであった。
「まぁ何にせよ私達は一度依頼を受けて国から命令されたんだ、行く他ないよ。ルイス、出発は明日でいいかい?」
「うん、明日出発しよう」
その会話を聞く何者かの存在は誰も知らず、また後世のどの書籍にも残されていなかった。
そうして夜が明け、一堂は再び城壁を抜けた。
「そう言えば合流とは言っても第1期隊は今どこにいるか分かるの?ライネル君」
出発してまもなくカイネが疑問を口にし、ライネルは国の通達書を広げて確認する。
「彼らは今スタン村で魔王の伝承について調査しているらしいね」
「私行ったことありますよスタン村!あそこの温泉とっても気持ちよかったですよ!」
「へぇ〜、そこって到着までにどれくらい掛かるか覚えてるぅ?」
「えっと速馬で2日間弱かけて行ったので、、、」
そこまでアイシャが話すとルイスは素早い手つきでポケットから羊皮紙を取り出し文字を書き始め、カイネとアイシャはその様子を見つめる。
スッ
「ありがとう、ルイス」
ライネルが差し出された羊皮紙を受け取り、ルイスはグッと親指を立てる。
「えっとルイスの計算だと寝食や一期隊の進行を考えるとだと2ヶ月弱掛かるみたいだね」
「今の一瞬で計算できちゃうなんて凄いですね!」
「ふふん、そうだろうとも!私のルイスは凄いんだよ!」
「恥ずかしいからやめてくれない!?」
「あ〜喋ったぁ」
「あ、あぁ。すみません」
そんな調子で会話を続けてパーティ一行は森の入り口で立ち止まり、ライネルが口を開く。
「さて、この森を抜ければヘンテ村だ。森の中では特に警戒を強めていこう」
「私はか弱い女性だから先頭はライネル君お願いねぇ、ふぁあ〜」
「分かりました。ルイス、魔力探知を頼むよ」
ルイスはその言葉に黙って頷き、ローブのフードを再度深く被る。
「ルイスさん、魔法使う所を見させていただいても構いませんか?」
「は、、、い。だっだ大丈夫ですよ」
「えへへ、ありがとうございます!」
アイシャの屈託のない要望にルイスはフードで顔を隠して対応する。
前衛2人と後衛2人に分かれて並んだことを確認してからライネルが剣を抜きながら一言。
「よしっ、入ろっか」
ザッザッ
森の中では木漏れ日が体を照らし風が木の実の爽やかな香りを運んで、虫の鳴き声がライネルの鎧の擦れる音をかき消す程響いている。
「ん?」
「ルイスさん、どうかしましたか?」
「あっいや、、何でも、、、」
そんな2人の会話は森の中に溶けて、何事もなかったように更に一行は森の深部へと歩を進める。
ザワ
「!」
右斜め前方の魔素が大きく揺らぎ始めるのをルイスは感じとり、思考する。
生物は代謝を行うことで魔素に干渉し、魔族と魔物は他生物と比べて代謝が激しい。つまり
「ライネル、2時の方向に魔物がいる!」
「分かった、全員戦闘準備!」
「よぉし、眠くなって来たトコだし頑張ろうかなぁ。」
各々は戦闘体制をとり、ルイスは深呼吸をしてからパーティ全体に魔法をかける。
「身体強化魔法。」
瞬間、短い唸り声と共に狼型の魔物が薮から現れてライネル目掛けて飛び掛かる。
ガキィン!
「よっ!カイネさん!」
ライネルは魔物の牙を剣で受け止め、そのままカイネの方向に魔物を吹き飛ばす。
「はぁ〜いよっ!!」
カイネの拳でバキッと魔物の骨が折れる音が森に響き、すかさずアイシャが詠唱をする。
「切断魔法!」
肉が裂ける音と同時に魔物の首から青色の血が吹き出し、その肢体は痙攣した後に完全に停止する。
魔力探知に反応しなくなった魔物の死骸を見ながらルイスは顎に手を当てて考え耽る。
「やっぱりさっきのは僕の勘違い?」
「ルイスさん!ルイスさん!今の魔法どうでしたか?」
「あっ、えぇっと、、、。」
「距離が近いよ、アイシャちゃん。大魔法使い様が困ってるよぉ」
「えっ?近いですかね!?」
カイネの指摘に従いアイシャが離れるとルイスは数秒間考える素振りをしてから言葉を紡ぐ。
「体外の魔素をマナに変換する動きはスムーズで良かったと思います。しかしマナで魔法陣を形成する時間は実戦で使うには少し長すぎる気がしました。これが今後のアイシャさんの課題でしょう」
「え、、えぇっとつまり、、、?」
「いくつかのアプローチ方法はありますがマナ制御の基本練習が最善であると僕は思います」
「な、なるほど!勉強になります!」
魔物の死体から骨や牙を取りながらカイネは欠伸混じりに呟く。
「大魔法使い様は魔法の事になると饒舌なのねぇ、私は殆ど言ってる内容分かんなかったけど」
「ふむ、これは使えるかも」
「ん?ライネル君は何書いてるの?」
「ルイスの女性克服法だよ」
「過保護ねぇ」
そうしてルイスの解説と魔物の素材収集を終えて一行は更に奥へと進み続ける。
日が傾き、木漏れ日がオレンジ色に染まり出してもうすぐヘンテ村に着くという所でルイスは不意に立ち止まる。
「ルイス、どうかしたかい?」
ライネルのその質問にルイスは答える。
「この森に入ってからずっと付けられてる気がするんだ。」
「えっ?」
その言葉に呼応するかのように後ろの魔素が揺らぐ。
「小さな魔素の揺らぎだったから小動物だと思ってたんだけど、ずっと追って来るのはおかしいよね。」
確信を持ったルイスは右手をその方向に向けながら薮に話しかける。
「、、、」
依然として薮からは何の音もしない。嫌な沈黙が続き辺りにはうるさい程の虫の音が響くばかりだ。
「出てこないならこっちにも考えがある。3、2、、」
ガサガサッ
「うっ撃たないでぇ、、、」
「えっ!?」
薮からツギハギのボロ布に身を包んだ白髪の少女が出てきた。瞬間ルイスは先頭のライネルの後ろまで飛び退く。必然的に最後尾になったアイシャが一番少女と近くなる。
「ま、迷子ですかね?」
「えっと、えっと、、ごめんなさいっ!」
「謝らなくて良いんですよ」
「うっ、、、うっ、、、」
「ど、どうしましょう?この子今にも泣き出しそうなんですけど、、、」
目に涙を貯めた少女にアイシャは困惑して他のパーティメンバーに助け舟を求める。
「とりあえず泣き止んでもらわないとねぇ」
カイネはゆっくり少女に近づいてからしゃがんで目線の高さを合わせて頭を撫で始める。
「急に色んなこと言われてビックリしたねぇ」
「うっ、、、うっ、、」
「うんうん、お姉さんは味方だよぉ」
そうしてカイネが少女を撫で始めて数分後、少女の嗚咽はみるみる内に小さくなっていく。
「お母さんとお父さんは?」
「お母さんはあっち。お父さんは、分かんない」
「、、、」
少女が指差す先は先程まで一行が目指していたヘンテ村の方向であった。
「そっかぁ、お母さんはヘンテ村にいるんだねぇ?」
「うん、、、」
「じゃあお姉さんたちと一緒にお家まで帰ろっかぁ?」
「うん、、」
そのやり取りを見てアイシャは目を輝かせる。
「おぉ!カイネさんは子供との接し方が上手ですね!私泣かれてばかりだったのに!」
「歳の離れた弟がいたんだぁ、そのお陰かもねぇ」
カイネに倣ってアイシャも目線を少女に合わせてから話しかける。
「一緒にお家に帰りましょう!お姉ちゃんが守ってあげますからね!」
「うぅぅ、、、」
少女は話しかけられるとカイネの影に隠れてしまい、アイシャは肩を落とす。
その様子を見てやっぱりというカイネの呟きは虫の音に紛れてしまい誰の耳にも届かない。
「、、、ひとまずはこの子をお母さんの所に返してあげよっかぁ」
「そうしましょう!」
そうして少女と共に一行はヘンテ村へと再び歩み始めた。
ー 勇者アイシャの英雄譚 序章『歩み』ー
道中、アイシャが話し掛けるもその度に少女がカイネの影に隠れた所までは後世の人々は知らない。
この度はお読みいただきありがとうございました!
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