ドクター・ジンマのミステリーカルテ Neo
「自殺も同然だな」
倒れた病人を介抱し治療に当たったのは、若者。妙に堂に入った動きなので医療従事者かと思えば、そうではないと後から言い出しました。従事しようとしていた時期もあるが、医大で勉強しているうちにバカらしくなって中退、知識は拾った程度に持っているだけ。今披露した心臓マッサージは教習所で習った、と措置をしてから言い出す始末。患者が落ち着いたからいいようなものの、中途半端な知識で人の体を触って死んだらどうするんだ、と皆が責めました。救急車が来たって同じだろう、と悪びれる風もない若者は、ジンマと名乗りました。ドクター・ジンマ……資格を持たないが故に医療行為は緊急時しか行わないという「ドクターくん」は、こいつが死なない程度なら出てこなかった、と平然と語りました。
患者は、普段から病弱。骨格の位置取りは見た目から誰でもわかり、発音、歩き姿、眼鏡や腕時計などの装飾品……まずいんじゃないかと思っていたら倒れた。倒れる前から思っていたからすぐに動いて、救急隊員が来る前に終わらせることができた。倒れるまで何もしなかったのかと聞けば「資格がないから」と言います。資格がないのに治療をしたらそれは医療行為、法律に違反してブタ箱に送られる。治そうと思えばあっという間だから焦りはしなかったと言います。患者が彼で、治すのが自分ならどうともない。当然のことのようでした。
倒れた原因は、神経組織の圧迫。脊椎に負荷がかかりすぎている、と「ドクターくん」は語りました。誰しも胃袋と呼吸器官は必要量を使っており、人工的に手を入れない限りこの若さで死ぬことはない。問題があるとすれば、心臓。自分の意志に関わらず常に動き続ける心臓は、外力とかみ合わなければ日々体をずらしていき、ずれた筋繊維は脊椎を……私が聞いてわかるものであるはずがなく、「ドクターくん」は説明を諦めました。患者が目を覚ましたら、健康体操でもするようにと言い残して「ドクターくん」は去りました。一つだけ、お役立ち情報だ、と私に伝えて。
病巣には、使い方がある。お互いにぶつけて相殺することも、お互いにぶつけて悪化させることもできる。要するに、オレもあんたもみんな病人なんだ。「ドクターくん」が立ち去った後到着した救急隊員が患者を搬送し、今は問題なく生活していると聞きます。