戦闘実技
強かった。まだ苦戦するほどではないが、確実に成長している。特にあの右腕…開閉が速く、そして何よりも力強かった。まだ俺の方が強かったが、しかして、俺に迫るほどに。
「結構力にゃ自信があるんだがな。」
この調子だと、俺が一本取られる日も近いのかも知れない。
…本当に不思議な子供だ、ルシルは。あんなところに子供が倒れてるってだけでもおかしな事だが…妙に大人びていて、記憶もない、名前もない。あるのは、あの奇妙な力だけ。正直言って、相当驚いたし、少し恐怖を抱いた。まさか魔物と一体化するなんて。
しかし、1番怖いのは本人だろう。ひとりぼっちで、何もわからないままあんな力を持っていて。一歩間違えたらあのままのたれ死んでいたかも知れない、奴隷商にでも拾われて好事家に買われていたかもしれない。
「…救えてよかった。」
今はただ、そう思える。色々おかしなところもあるが、いい子だ。せめて、きっとあと少しの旅立ちまでは、世話を見させてもらおう。
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一ヶ月。長いようで短かった。
いつもの訓練用の空き地。そして、真剣な面持ちのエピ。
「腕のこともある、ここには俺達しかいない…本番だ、全力でかかってこい。」
「はいッ!」
試験の開始だ。
「……!」
ピンと張った空気の中、先に動いたのは自分だった。
「はぁッ!!」
先手の横薙ぎはいとも簡単に受け流された。しかしそうなることはわかっている。反撃される前に右腕のハサミを力任せに開く。
「っと、やるな。だがまだまだだ。」
エピは軽く後ろに避け、たと思った瞬間、目の前にいた。
「ぇあッ!?」
ガキンッ、という音が響く。
「…防ぐか。」
エピの木剣は、右腕のハサミにガッチリと掴まれていた。
「と、咄嗟に…」
「その瞬発力は大事だ。だが…油断は禁物だぞ!!」
「うわ嘘ッ!?ッう゛ぅっ!?」
木剣を腕力で引き抜き、腹に蹴りだ。そこまでするか!?…いや、それだけ本気なのだろう。
「…ッ!!せやぁッ!!」
すぐ起き上がり、取らされた距離を詰めるために走り、そして右腕を力任せに振るう。
「愚直すぎるぞッ!」
エピはその攻撃を撃ち落とさんと剣を振るった。…狙い通りに。
俺は何度も経験がある。水が入ってると思っていたやかんに水が入ってなかった、大きな段ボール箱が存外軽かった、と言う時に想像より大きく持ち上がってしまうこと。来ると思っていた手応えがない時、その手応えに応えようとしていた力は、消えることなくそのまま振るわれる。日常生活ならどうと言うことはないが…
「異形技【剥業】ッ!!」
「なッ!?」
戦闘中なら、大きな隙だ。
接合部が溶け、ハサミが腕と分離した。振るわれた勢いのまま、それは彼方へ飛んでいく。そして、あの力強い大バサミがあると思って振るわれたのであろうエピの攻撃は宙を切った。
ほんの一瞬、体勢を崩したエピの首筋に、木剣を突きつける。
「…い、いっぽん…!」
「…はぁ、すごいな。そんなこともできるのか。」
息を切らす音。少しして、遠心力のまま投げ飛ばした大顎が地面に落ちるドサッ、という音。しばらくの静寂の中、エピはゆっくりと立ち上がる。
「…合格だ。まさか負けるとはな。」
「はぁ…はぁ…初見殺し…、ですよ、次戦っても、きっと勝てません」
「上等だ。戦いの中で『今の技は初めて見た、ずるい!』なんて言うやつはいない。生きるか死ぬかの真剣勝負の世界だ。」
「…っ…はい、ありがとうございます。…う゛ぷっ…」
…蹴られた腹がちょっとずつ効いてきたぞ…お…
「おえっ…」
「なっ…だ、大丈夫か…?す、すまない…」
「いえ…大丈夫です、それだけ本気で向き合ってくれて嬉しかったです…う゛ッ…!」
それだけ本気で、真剣に向き合ってくれた嬉しさと、疲労と、勝った喜びとで、それはもう気持ちよく吐いた。
戦闘描写…