新たな名前、新たな街
5話目です。物語を作るのって難しいんだなと実感しています。
…街道らしきものを見つけたまでは良かったんだ。だけど、その道が続く先を見ても街や村のようなものが見えない。
「俺ぁ…もうだめだ…」
歩けど歩けどそこにあるのは何もない道。偶にあるのは読めない看板。森を抜けるのに消耗した体力の回復も出来ないままこの道を歩き続けていたら、さすがに死んでしまうかもしれない。
「はぁぁ…」
失意のままに、その場にがっくしと膝をつく。相当疲れた…そういえば今日は歩き詰めだ。日も暮れてきているし、今日はここらで野宿でもするとしようか。原始的だが、葉っぱでも集めて毛布代わりにでも使おう。
「これでよし、と…ふぁ…休むとなると、どっと疲れ、が…」
そうして、横になったとたん、意識はすぐに夢の底へと沈んでいった。
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気付くと、奥行きを感じない白い空間に立っていた。
ここは、神様がいた場所だ。
「はい、御存じの通り私の神域です。」
本当にびっくりした。声がした方を見てみれば、やはり美しく畏ろしい、くすくすと笑っているセイレス神の姿があった。この存在感があってよく気付かなかったな、俺…
「それは、私が気配を消していたからですよ、愛しき眷属。」
何故そんなことをしていたのかは聞くまでもないみた…え?眷属ですか?
「はい。私の力を与えたあなたは、私の愛しき眷属です。誇らしい事ですよ、この世界の長い歴史を通しても、私の眷属は少ないですから。」
セイレス様にこの世界へと遣わされたと考えれば、確かに眷属で間違いないはないか。それに、まあ別に悪い事ではないだろう。むしろ、セイレス様相手なら個人的にとても嬉しい事だ。俺にとっての恩人…恩神なんだから。…というか、どうして俺はここに?もしかしてまた死んじゃったりしたんですか…?
「いえ、一日目を生き残れて偉いですね、ということで。あなたの夢をお借りさせてもらいました。それと、贈り物。ご満足してもらえて嬉しいです。」
贈り物…この身体と技能のことだろう。接業と剥業、使ってみたが確かにかなり強力だろうものだった。重ねてありがたや…
「生物、無機物問わず、まさしく全てを接げる最高の技能です。さらに失楽園は……おっと、使ってからのお楽しみにしておきますね。」
すごく気になるところで…まぁ、そういうんなら今度使ってみます。
「はい、ぜひそうしてみてください。ではそろそろあなたも目覚める頃でしょうから」
あ、そういえば鑑定と適応も神様が?
「適応はお渡ししましたが、鑑定はお渡ししてませんね。確かに必要な技能でした。きっと智神あたりからの優しさですから。存分に使ってください。」
おぉ…そうでしたか。であれば智神様にも感謝を…
「はい、そうしてあげてください。では改めて、私の愛しき眷属。悔いの残らないように、存分に生きてくださいね。」
そう言って微笑む神の姿は、やはり畏怖と尊敬、そして愛らしさを感じさせた。
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「ん…ん?」
ガタゴトという音が顔の直下から聞こえてくる。
「何事だ…え?」
体を起こして見てみれば、馬車か何かの荷車の中のようだった。
「あ、目を覚ました!目を覚ましたよお兄ちゃん!」
「お、本当だ…おい、大丈夫か坊主。あんなところで…」
そして、その中には一人の少女と青年が座っていた。
「え…ん?えぇと…」
「あぁ、そりゃそうか、まだ混乱してるよな。すまない。」
「でも、もう大丈夫だからねっ!!」
そう言って少女はこちらに抱き着いてくる。驚きと照れと状況理解で脳みそがパンクしそうだ…
「あ、大丈夫…です、たぶ、ん…」
「ほんとに?なら、よかったぁ…って、いやよくない!!!」
少女は一旦離れたかと思うと、またこちらの肩を掴んで叫んでくる。
「おい、やめないかリュー。」
「あっ…ご、ごめんね!」
「い、いえ。大丈夫です…けど…これは一体?」
とりあえず落ち着いたようだったので、二人の話を聞いてみることにした。
まず、二人の名前はエピとリューと言うらしい。近くの_と言っても比較的と言う意味で普通に遠いらしい_ルースという小さな町から王都フォルヘルムという場所に行く途中で、俺を見つけたという。
「驚いたよ、少し酔って風にあたっていたら葉に埋もれた坊主が居たんだ」
「死んじゃってるのかと思ったけど…まだ息してるみたいだったから、急いで運び込んだんだ。本当に生きててくれてよかったぁ…」
…確かに考えてみれば俺の今の姿は8歳ほどの少年…しかも右前腕がないときたもんだ。あんな森にいて、俺が生きているのは奇跡としか言いようがないだろう。実際、だいぶ危なかったし…まぁ、なにはともあれ救われたことには変わりないんだ。
「ありがとうございます、拾ってくれて。」
「ううん!!いいんだよ、人として当たり前のことをしたまでだから!!」
そう言うリューという少女の笑顔はとてもまぶしかった。
そのあと、エピ、リューに色々なことを聞かれた。どうしてあんな場所にいたのかとか、どこから来たのかとか、そういえば名前はなんだ、とか。
だが、俺はすべてに上手く答えられなかった。自分が森の奥の神殿に生まれた魔物で、異世界から来ました…なんて、とても言えないし。名前も、もともとあったはずの名前は、もやがかかったように出てこなかった。
「…つまり、どうしてあそこにいたのかも、自分がどこから来たのかも、名前すらも分からない…坊主はそう言いたいのか?」
「…ごめんなさい。でも、本当で…」
「だ、大丈夫!!大変だったんだね…お兄ちゃん、そんな言い方ないでしょ!!」
「う、す、すまん…でも、そうか。名前も分からないとなると不便だな…」
たしかに、名前がないって言うのは、何かと不便だ。…そうだな…
「じゃあ…よければお二人が決めてくれませんか?」
「俺たちが?」
「名前を?い、いいの?」
「はい、僕を見つけてくれたお二人につけてもらえたら嬉しいです。」
少し悩んだ素振りを見せたのち、エピが
「…分かった。」
とうなづいてくれた。
「ありがとうございます!!」
「と言っても、名前とか考えたことないよぉ…」
そうして、二人は顔をつき合わせてうんうんと悩み続け、しばらくの時間の後に、俺のこの世界での名前が決まった。
そうしている間に、馬車は王都の門の前に到着したのだった。