【剥業】の所業
筆が乗って4話目です。たまたまPVの見方を知ったのですが、読んでくれている方が少しいて嬉しいです。
「…うーん…」
俺の腕は硬質な音を立てながら開閉している。前腕は、あの巨大な蟻の大顎に置き換わっていた。
「不思議と違和感は…うん、無いな…」
手をグーパーするのと同じようにハサミ部分を動かせる。なんとも不思議な感覚だ。
「これが、接業…」
なんというか、やっぱりどうしても善良な技ではないというか、明らかに悪役側の能力っぽい気もするが…
「…なんかいいな、これ…ワクワクするじゃん。」
先程までの痛みも忘れてこの新しい世界と能力に思いを馳せていたが、その時、ぐ~と腹が鳴った。
「そういえば起きてから何も食べてない…何か食べ物………」
目の前にあるのは、蟻の死体と、その蟻が運んでいた甘い匂いを漂わせる果実。こいつらが食べてるのだ、得体のしれないそこらの木の実よりかは安全だろう。蟻の肉も少し頭をよぎったが
「うん、間違いなくこっちの果物っぽいやつだな。いただきま…」
ジョキン、という音と共に果物は二つに割れた。
「…いただきま」
ジョキン、という音と共に果物は三つに割れた。
「…素直に左手でいこう。」
思った以上に切れ味が良い。普通に果物を握る感覚で挟むとすっぱり切れてしまう。鋸刃のくせに。かなりの力加減が必要らしい。それと、体に対してデカいからかなり邪魔…
「外せないかなこれ…」
早々にギブアップだ。どうにか外す方法…外して大丈夫なのかなこれ…
「ま、多分大丈夫だろう…字面的には多分これだよな…異形技【剥業】!」
そうして発動させてみると、蟻の大顎と腕の接合部がぬとりと溶け始める。今までに感じたことのない、だいぶ気持ち悪い感触と共に、大顎がごとり、と地面に落ちた。
「おぉ…」
前腕はそこには存在していなかったが、傷口も無い。少し不便ではあるが、大顎がついてるときよりは動きやすい。しかし、この大顎をここに置きっぱなしにするのももったいない。どうしたものだろうか…
まぁ、とりあえず食べながら考えよう。
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「…我らが神の!!『セイレス』様の遣いが!!!この地に…降り立ちッ!!ンましたっ!!!!!あぁ、感じます…我らが神の御力を…ッ!!!!!!」
薄暗い教会。聖堂の中で、そう叫ぶ男が一人。
「真にございますか教祖様!!!あぁ、なんという…!!!素晴らしい、我が教団の悲願がかなう日も近いのですねェ…っ!!」
恍惚とした表情を浮かべる男が一人。
「あぁ…早く…お姿を…御業を…拝謁したいっ…♡」
うっとりとした顔をする女が一人
「…みんな興奮しすぎ、…でも、たしかに。今すぐに、探しに行くべき…!!」
静かな興奮を隠せない女が一人。多くの獣が混ざり合ったような石像の前で話している。
「そ、それで教祖様…その遣い様は何処に…?」
「詳しいところはぁ~ぁ、ンまだわかりませんがッ…しかし、北の方角に、『セイレス』様の御力をビンビンゥ!!感じますねぇ…」
「では…」
「いきましょう…♡」
「ん、そうすべき。我ら…」
「「「「混ざり愛・セイレス大教団ならっ!!!!」」」ンねぇ~!」
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「…お?あれは…!!道!!!」
即席の紐に大顎を括り付けたあと、更に森を歩き続けて、もう五時間ほど経っただろうか。ようやく森を抜け、さらに街道らしきものを見つけたのだった。