奇特な鍛冶屋
センカ達と別れた後、街をぶらついて食べ歩きをしながら露店を眺めていると、一つの店が目にとまった。
「なんだこれ…」
少し奥まった路地にあったその店には、この世界で見た事もないような武器の数々が並んでいた。それは、棒の先端に丸鋸が着いているような見た目のものだったり、棘だらけの円盾だったり、排気口のようなものが着いている大剣、なにやらボタンが着いている剣…
「…気になるか?坊主。」
露天の店主がこちらを見て聞いてくる。目つきの悪い赤い髪の男だった。
「はっ…はい。どういう武器なんだろうって…」
「…ふっ。例えばこいつはな、敵に突き刺してこのボタンを押すと、そいつの体ん中で大きく拡がってから切り離される。ハラワタを直で攻撃するから生き残りづらい、生き残っても体内にこいつの欠片が残るから、治癒魔法も効きにくいっつー武器だ。使い捨てなのと、剣を刺したら大体勝負が着いてる場面が多いってのが難点だな。」
えぐいけど難点が大きいな。
「うひ…じゃ…じゃあこれはどういうものなんですか?この剣。」
「これか?これはな、こん中には火と風のグリフが刻まれててな、そいつに魔力を通すことで、すげえ推進力が生まれる。それでたたっ斬るって武器だな。そこまでの魔力を出せるヤツはほとんど魔法使いになってるってのと、見た目の割に重いのが難点だな。」
さっきから難点が多いな…だが、魔力なら割と自信があるぞ。
「この円盾は…」
「棘が着いてっからこれで殴れる。ただ、作ったあとに気付いたんだが、棘つけちまったせいで円盾としての機能はほとんど失っちまった。」
「えぇ…」
大失敗すぎるだろ…だと、こっちの丸鋸武器も…
「ほんでこいつは、ほんのちょい魔力を通してやれば先っぽの円刃が回る。回さなくてもまぁまぁ強いがな。難点は…だいぶ重たい。」
…確かに難点ではあるかもしれないが、聞くだけだと案外悪くないな。こういうの好きかもしれない。特に見た目が。性能の割に見た目が無骨すぎてかっこいい。
「それぞれいくらですか?」
衝動買いは昔からの悪い癖だが、後悔はしたことが無い。
「おっ!!!そうだなぁ、今日初めてのお客さんだしなぁ、うーん…まけて、一律10000イルでどうだ?お小遣い足りるか?」
安い。こんな見た目だが、相当な高品質なのが作りの丁寧さからわかる。こんな安くていいのだろうかってくらい安い。
「自分で稼いだお金です!一応冒険者やってるのでっ。じゃあじゃあ…この大剣と、円刃のやつください。」
「へぇ、若いのに中々やるじゃねぇの。……良いぜ、売ってやる。有名になったらしっかり宣伝してくれよな?黒金の翼工房のナンバー5、アインの自信作達だ。大事にしてやってくれな。」
なんだかすごそうな肩書きだ…後でアイラさんに聞いてみよう。
アイン、というその男が武器ふたつに何か札を貼ったかと思うと、その武器は一瞬のうちに札の中に収まるようにして消えていった。
「き、消えた…」
「持ち帰り用のサービスだ、札を破ればまた出てくる。」
「そんなことが…ありがとうございます!」
20000イル、決して安くは無いが、いい買い物をした。
しばらくぶらついた後に、宿に帰る。
「おや、おかえり。」
「ただいまかえりました…アイラさん、黒金の翼工房って知ってます?」
「あぁ、あのおかしなもんばっかり作ってる…それがどうしたんだい?」
「そこのナンバー5って人から武器買ったんですよ」
「ふぅん、いいじゃないか。高かったろう?」
「いえ、まぁそこそこはしましたけど、でも結構いい物の割にとっても安くって。1本10000イルで売ってくれました」
「…騙されてないかい?見せてみな。」
訝しげな顔をして、そう言って来たアイラさんに応えて、1つ札を破る。丸鋸のほうだ
「…こりゃ驚いた。このおかしな形は間違いなくあそこのもんだろうが…10000イル?これがかい?」
とて驚いている様子だった。詐欺…だったか?
「そりゃ、破格も破格さね。そりゃ、鍛冶屋なんて奇特な奴らばかりだけど…いいかい?ルシルくん。こいつはちゃんと買ったらあと1桁か…場合によっちゃ2桁は増えるくらいのもんさ。」
「ひぇっ…」
詐欺どころか、1等くじだった。
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「いいのかアイン。あの円刃武器、お前の最高傑作だって言ってなかったか?あんなガキんちょに…それもあんな格安で売っちまって。もっと、少なくとも100000イルは取るべきだろうに。」
声が聞こえた方をむくと、そこにはウィグ師匠がいた。
「あ、おやっさん。どうしてここに?」
「お前の武器は工房の中でも特におかしなもんだから、見てくれる奴がいるか心配になって見に来たんだ。そしたら、丁度あんなことしてるもんだから。」
「はは、心配性っすねぇ…いいんすよ。俺の武器は、欲しそうな人の手に渡るのが1番っす。それに、あの子にはなにか特別なものを感じたんで。」
「そうか。お前がいいなら、何も言うまい。」
「っす。」




