嵐のような2
あの後また、女将さんがいっぱいご馳走してくれた。良いのかな、という気持ちにもなったが、「そんなこと気にするんじゃないよ、私がやりたくてやってる事さね。」と言われてしまったので、お言葉に甘えることにした。
その後またぐっすり寝て、いま。ギルドへの報告へ来たところだ。
「薬草採取してきました!」
「あ、ルシルさん。おかえりなさい。薬草採取のご報告ですね!確認させていただきます。」
おねがいします、と言いながら薬草が入った袋をカウンターに出す。
「…おぉ、これはこれは。排蟲草、癒促草。魔復草に、淡光苔まで!凄いですね、そんなに生えているものでもないのに…群生地でもあったんですか?」
「南の洞窟にいっぱい生えてました!」
「南の…というと、スライムの?」
「いっぱいいましたね、スライム。」
なんだ、知ってるのか。
「なるほど、確かにあそこなら…しかし、危険も多かったでしょう、スライムの奇襲は、高位の冒険者も油断すると命を落としかねないものですし…なにより、あそこには100年級のメガ・ブルースライムがいると推測されてますから…生きて帰ってくれて良かったです。」
ふっふっふ、そいつ、私が倒しました!!
「は、はは…そんな危ないところだったんですね…今度から気をつけます…」
そんなこと言っても、今ここに出せるものでそれを証明出来るものなんてないので、とりあえず当たり障りなく答える。
「はい、まだまだこれからなんですから、本当に気を付けてくださいね…よしっ。こちらの薬草全てご納品頂けるということで、こちら報酬として、7000イルになります。」
そう言って、お金の詰まった袋がカウンターに置かれる。
「こんなに頂けるんですか?」
「普段はここまでのお支払いはできないのですが、今は入用で。北の地で、魔王種の出現が確認されたんです。そのせいで今、回復薬等の需要がとても高まっていて、買取価格を上げて採取量を増やしていこうとギルドと国が提携してるんです。」
魔王種。この世界において、他とは一線を画した力を持つ個体のこと。その力は、たった1体で国ひとつ滅ぼすほどだとか…そんなやつを相手にするなら、回復薬はいくらあっても足りないほどだろう。
「そうなんですね…」
「嫌な話ですけど、冒険者の皆さんも傭兵として駆り出される可能性が高いです。ルシルくんは、多分大丈夫だとは思いますが…」
「なるほど…ありがとうございます、教えてくれて。」
「いえ!こちらこそ、ご納品ありがとうごさいます。」
納品を終えた俺は、そのままギルドを出た。その時、聞き覚えのある声がした、
「ん、ルシルだ。」
センカだ。そして、横には女性と男性が1人ずつ。女性の方は、センカと似た、和装っぽい服装をしているが、センカと違って上品さを醸している。
男性の方は…威圧感がすごい。ただでさえ大きいであろう身体が、様々な種類の肉厚な金属板で造られた全身鎧によってさらにその厚みと幅を増している。そして、手に持つ大斧は柄だけでも彼の身長の1.5倍ほどはあろうというサイズのもので…肉厚で、刃の潰れた斧頭部分をふくめると、彼の身長の倍ほどはありそうだ。
「あら、センカ。知り合いかしら?」
「ん、アイラのとこのお客さんで、アイラのおきにいり。私の友達。」
「アイラ…あぁ、帳の魔女の。確か、センカとマヤノの友人でしたか。…おっと、すいません。ご紹介が遅れましたね、少年。私の名はツィギィレア。ツェギィレア・ロンティです。センカと仲良くして下さり、ありがとうございます。」
「マヤノよ。よろしくね。ルシルくん?でいいのよね?」
ツィギィレアは膝を折って、マヤノは中腰で、目線を合わせて丁寧に挨拶をしてくれた。
「あっ、は、はいっ。ルシルです。よろしくお願いします!」
そう言って、軽く礼をする。
「あら〜、良い子じゃない。アイラが気に入るのも分かる気がするわ。」
「教養が豊かですね、きっといい子に育ちます。…さて、では我々はこれで。南にある洞窟に、少し用事がありまして。」
南の洞窟?俺が行ったところだろうか。
「気をつけて行ってきてください!!」
まぁこの人達ならなんの問題もないだろう。
「うむ、ありがとうございます、少年。」
「ばい。」
「じゃあね〜、ルシルくん。」
3人は、そうして人混みの中へ消えていった。
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「あの少年…えぇと、ルシルでしたか。不思議な気配でした。あの少年と、もうひとつ、あの少年そのものよりいくらか強い力を感じました。」
「そう?私は何も感じなかったわ。」
「ルシルのこともいいけど、今はセイレス様のお力がもっかい確認された場所見に行くのにしゅーちゅー。」
「あぁっ!!そうですね、その通りです!!私とした事が……あの洞窟内に感じたより"濃い"セイレス様のお力の残滓を浴びに行くんでしたねッ!!!」
「ちがう、てがかりあつめ。情報しゅーしゅー。」
「うふ、気持ちは分かるけど…ダメですよ、教祖様に叱られちゃいます。」
「…失礼しました。…おっと、時間を無駄にしすぎましたね、申し訳ありません。急ぎ向かいましょう!!」
全身鎧の大男と、2人の少女は、人気の無い路地に入る。そして、大男が2人を抱えたかと思うと、跳んだ。周囲に突風を起こしながら、宙を踏み締め、男は南の洞窟まで走り出した。




