寄る気配
洞窟内の草が発していた光とはまた違う種類の光。そう、太陽の光だ。
「ち、地上…!!やった…っ!!!」
壁や天井にぶつけたりして、小さな傷が随分増えたころ、ついに地上に辿り着いた。
「王都も見える…。よし、もうひと頑張りだ…」
そう思って、しばらく歩いてると、遠くから何かが飛んでくるのが見えた。
「ん…なんだ…?」
一瞬身構えたが、聞こえてきた声は聞き馴染みのあるものだった。
「ルシルくんっ……無事かい?」
少し息を切らしたアイラさんは、地面をえぐりながら着地し、ぺたぺたと体を触ってきた。
「んわっ…は、はい、なんとか…」
「傷だらけじゃないか…。ちょっと待ってな…《安寧》」
そう言ってこちらに手をかざすと、かざした手から暖かな闇が俺を暗く照らし、気付けば全身の傷はほとんど治っていた。
「わ、すごい…!ありがとうございます」
「大したことじゃないさね。…ところで、薬草採取じゃなかったのかい?随分と手酷くやられたみたいだけど…」
「そ、それが、その…たまたま見つけた洞窟の入口が崩落しちゃって。それで、とりあえず奥に行こうと思ったら…」
「あぁ…こいつに出会っちまった、って訳さね?」
そう言って脚をツンツンしてきた。くすぐったい…。
「うっ…そ、そうです。それで、そいつの奥にこの出口があって…。」
「なるほど…あの牛だけでも大したもんだと思ってたのに、また随分な奴を…」
「あ、あの…ところで、前もそうだったんですけど、どうやってここを?」
「ん?あぁ、ちょっとね、ルシルくんの気配を察知できるようにしてるのさ。」
「えっ?」
「そりゃ、ルシル君みたいな小さい子…珍妙な子を何もせずほっぽり出すのは危ないだろう?あ、ただずっと見てる訳じゃないよ。あんまりにも遅いようだと、探知をかけて探しに行ってるってわけさ。」
子供につけるGPSみたいだ。
「そんなことまでしてくださってたんですか…ありがとうございます。」
「んやぁ、勝手にやってる事さ。生きててよかったよ。」
そう言って、ぎゅ、と抱きしめられる。あったか柔らかいい匂いッ…
「うぎゅ…」
とても恥ずかしいが、とても安心してしまう。溜まってた疲れがどっと襲い来る。
「…すいません、安心したら力抜けちゃいました。」
「ふふ、そうかい。じゃあおばさんが運んでやるとするかね。」
アイラさんはそのまま俺を背負…わず、抱っこで歩き出した。
「…あの、せ、背負わないんですか?」
「ふふ、まぁまぁ。」
さっきみたいに飛んだりせず、ゆっくりと歩いて王都に帰った。
__________
「お、おいッ…!!なんだこれなんだこれなんだこれッ!!?」
北の地で戦うある冒険者達は、焦燥を隠せぬ様子だ。
「お、おかしいだろ…!!こんなの…ありえない…!!だって、あんなの、"魔王"が居なきゃ…!!」
一糸乱れぬ隊列で、あるひとつの目標に向かって進む"大軍団"はそう遠くないうちに到達しそうな距離にまで近付いていた。
「伝令ッ!!伝令ーッ!!!!」
その恐るべき軍団が確認され、伝記が残っているのは3件。そしてその全てにおいて、最後は国の滅びが綴られていた。その軍団の名前は、《恐怖軍》。
「軍団規模、目算推定10万!!うち、角兎75000、長角兎25000、首狩り兎5000、兎将軍1000!!!《恐怖軍》と推認!!!」
その軍を率いる、王の名は。人を恐怖に陥れる"皇"の名は。
「魔王種【白原の恐皇『恐怖の皇兎』】の出現の可能性大!!!!事態黒・赤!!狼煙を上げろッ!!!!!」
「事態黒・赤!!狼煙上げッ!!!」