小さな肉体、大きな力
俺と同程度まで小さくなったそれは、弾丸の如くこちらへ跳んでくる。
「ッ速いッ!?」
先程までとは打って変わって、その速度は牛共と同程度…いや、それ以上になっていた。
「なんだそれッ…!?」
俺の教えてもらったヒュージ・ブルースライムは、同種を取り込む《同化》と、身体を硬くする《硬化》の2種の能力しか持ってないはずだ。
思えば、こいつはやけにデカかった。気のせいかと、勝手な思い込みで、ヒュージ・ブルースライムだと思っていたが、こいつまさか。
「メガ・ブルースライム……」
やらかしたな、喧嘩売っちゃったよ、紅角牛なんかより数段各上のやつに。
『コポッ、グポポッ……ゴポッ』
いくらか音を立てたかと思うと、また突進をかましてくる。
「ッ!セー、ふッ゛!?」
ギリギリで避けれた…と思ったのも束の間、切り返しての連続突進。かろうじて背骨は避けられたものの、脇腹に1発食らってしまった。
「かはっ゛…!?…ひゅっ…っゔ…」
高速で、硬質で、大きさに対しての質量の大きいものによるとてつもない衝撃。上半身が消し飛ぶかと思うほどのそれは、軽いこの身体を吹き飛ばすには十二分だ。地面を転がり、壁にぶつかる。呼吸ができない。肺から空気が全て押し出されるような感覚と、激しい鈍痛。内臓の位置がおかしくなってるような…いや、内蔵が破裂しているような不快感さえ覚える。だが、生きてる。スライムの腕を緩衝材代わりに使ったおかげか、どうにか意識がある。
「っはッ…は…ッ゛、よく、生きてるなッ゛…!!…ミ、ミニキュアッ…」
フラフラと立ち上がりながら、回復魔法で無理やり痛みを軽減し、体に鞭打って再び相対する。逃げるのは無理。明らかに俺よりも速い。精神疲労も肉体疲労も限界。相手を見誤ってたこともあって、現状の勝率は極めて低いだろう。とても近くで死が俺を手招いている。
「…。さ、ぁ…来いよ。お前も、俺にしてやるよ」
諦める要素はなかった。
『ゴボボッ』
再び突進の構えを取ったそいつは、体側に刃のような形を形成して飛びかかってきた。なんとか身をかわすが…それでもギリギリだった。返す刃は避けられなかった。
「っぎゃい゛ッ?!…?!?」
下半身と上半身がさよなら。
「ッ゛……ぁ…」
血が流れている。命が流れている。奴は、それを啜り、そしてこちらへ寄ってくる。俺を捕食せんとして、再び体を大きく戻し、俺に覆い被さる。
命の炎は、この瀕死で尽きかけているが、こんな瞬間こそ、明るく輝くものだ。
『ゴボッ…ジュクッ…』
捕食が始まった。だが、俺はまだ生きている。
一か八かすぎる賭けだ。あまりにも無謀な"神頼み"。死の危険の方が大きい。
だが。この世界に俺を送ってくれたあの神様のくれたこの力は、きっと、大きな力だろう。
「がぼっ…か、混沌技【失楽園】ッ!!!」
熱い。腕の心魔晶が、頭の幾本かの角が、耳が、尾が、全身を覆う毛皮が。融けるように身の内に入り込んできたそれは、心臓あたりでひとつの塊になったように感じた。
刹那、身体から湧き出るように、総てを討たんと全方位へと爆発する閃光。
それは、混ざりあった結果産まれた、純粋なエネルギーだった。
「ッあ゛ぁぁぁ゛ッ!!!!!」
身を灼くような激しい痛み。それが産んだ結果は、すぐに分かった。
『ゴポッ
恐るべき存在だったそれは、内側から爆発四散した。
「ッ゛、はぁ、つ、つんよ゛…」