破砕
さて、戦うにしてもどう戦うか…まともな武器は剣ひとつしかない。一応、選択肢に突進系があるにはあるが…取り込まれたらただじゃ済まないだろう。あまり積極的にやろうとは思えない。であれば、できることと言えば、念入りに準備をするくらいだ。
今持っているのは、大量の薬草と少しの荷物。
改めて考えて、だいぶ無謀な挑戦だろう。自分の5倍はあろうかという巨大スライム。詳しくは分からないが、少なくとも自分よりそれなりに格上なのはわかっている相手。しかし、だからこそワクワクする…ロマンがあるというものだ。
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「…さて、やってみるか。」
人の頭大くらいの石を括り付けたロープを構える。初撃が最も重要だ。確実に、外さないように。
「…喰らえッ!!!!」
振り回し、勢いをつけたそれを、その勢いのまま投擲する。
『ゴポッ…』
ドプンッ、という音と共に、その石はスライムの体内に沈み込む。
しかし、それ自体では大したダメージを受けていない…どころかノーダメージと言った様子だった。
「だがな、お前みたいなデカくてひんやり、水分豊富なやつには…」
"赤熱するまで熱された物体"はよく効くだろう。
あの石は、魔力回復の草を貪りながら俺が必死に紅角牛の角で温めてあげた子だ。
『ゴポッゴポゴポッ…?!』
石の周りの粘液が泡立つ。同時くらいに、石は内部圧の変化により破裂。赤熱するほどの石の内部の熱は、周囲の粘液を瞬時に気化させるのには十分なものだ。
体内、という密閉空間。そこに十分な熱が加えられ、一瞬で気化、その気体の体積はもとの何倍にも膨張する。それにより起こる現象を、俺の知識ではこう呼ぶ。
「スチーム・エクスプロージョン!!」
スライムの一部が膨張、破裂する。まぁ、あの程度の石じゃこんなもんだろう。ならば、必要なのは数。どんどん投げ込む。
「おらおらおらァ!!」
1度に作れるのは3個が上限、1セット作るのに10分くらいかかってる。作ってる間に冷めちゃうのをどうにかまた熱して…を繰り返して、4時間ぐらいぶっ続けの作業だった。もう身体疲労も精神疲労も限界だ。
「頼むッ!くたばってくれッ!!」
『ゴボッ…コポッ…ゴボボッ…』
水音が鳴る。ドスッ、と、脇腹から何かが聞こえた。嫌な予感がする。恐る恐る見ると、硬化したスライムがこちらに伸びて脇腹に突き刺さっていた。
「ッ!?」
咄嗟に剣で叩き切る。そんなことも出来るのかお前。見るに、硬化軟化自由自在だな。あのまま刺さりっぱなしでいたら体内に…考えたくもない。
「そりゃまぁ、大人しく死んでくれるわけもないよな。」
『ポゴゴッ』
スライムは、身体を震わせると、槍で突くようにいくつもの身体を伸ばしてくる。
「危ない危ないッ!?」
走りながら、また石を回収し構える。数には限りがあるので外したくない。
「っらぁ!!」
投げた石は、しかし表面に弾かれた。部分的に硬化させてガードしたのか。
「ど、どうしろってんだ!!」
攻撃は止まず行われる。どこかに隙はないか、隙…!!
「っ!そこっ!!!」
スライム槍が引っ込むタイミング。硬化したままだと粘体を体へ戻せないのだろう、あのタイミングならばどうにか攻撃が通る。
「狙うのムッズかしいなぁもう!」
上手く投げ込み続けて、たまに弾かれながらも、なんとか順調に身体を削り続けられている。まともに入ったのは20発ほど。目算だが、既にもとの体積の2/5程度にまでなっている。直径もせいぜい3、4m。だが、小さくなったぶん狙いが難しくなってきた。それに、もう残弾も14発しかない。
と、そのとき、急にスライムがぐぐぐ、と小さくなった。
「…お?」
倒したか…?…と思ったが、そんな様子じゃないな。
「…第2形態ってか?」
俺と同じくらいの大きさになったそいつが、勢いよく飛びかかってきた。
人の頭大の石の重さは5~7kgらしいです。それを振り回しながら投げる、大変ですね。