蠢く粘体
あれから、しばらく途方に暮れていたが、ほかの出口があるかもしれないという希望を持って、洞窟を奥へ奥へと進んでいる。この洞窟が光る草や苔でいっぱいなことと、あれから崩落が広がることはなかったのは幸いだった。
「しかし…出口どころか、下っている気がするぞ…」
出口が見つかる気配はない。しかし、もうどうすることも出来ないので進む。
この孤独感と無力感は何だか懐かしい、こっちの世界に来た時以来だ。
「来て早々片腕を失ったのもなんだか懐かしッゴボッ!?」
ただ歩いていただけだった。突然、"溺れた"。一瞬何が起こったのか分からなかった。だが、この感覚…顔の周りに青いなにかがまとわりついている。引き剥がそうと手を伸ばすが、掴めない。粘度が高いが液体のようだ。俺のこの世界の知識によるとおそらく…ブルースライム。
「げほっ゛ぉ…!?!…ぅがっ…ッ…がぼっ…ご、ぉ゛っ…」
口の中に入り込んでくる感覚…まずい、このままだと窒息死…そうじゃなくても肺に入られたら確定で死亡だ。この世界死の危険が身近すぎる。どうにか、どうにか…ッそうだ!
「赤熱突貫!!」
全身に血が巡り、筋肉を限界まで稼働させている感覚。同時、角に何かが収束する感覚を感じる。これが魔力というものだろう。
そして、角が赤熱しはじめる。すぐに気泡が立ち、ぶくぶくという音を立ててその粘体は溶け落ちていく。
「っげほっ、けふっ…はぁ…はぁ…」
口と喉に残った粘体を残らず吐き出す。あ、危なかった…!えっちな本っていうかニッチな本展開になってしまう所だった。当たり前だけど普通に殺しにくるんだもんな。
「なんだこいつ…」
溶け落ちたそいつを見てみる。既に死んでいるようだ。よく見てみると、粘体の中に綺麗な丸い石のようなものがある。…試しに接いでみよう!
「《接業》!」
とりあえず無い方の腕に接いでみた。
すると、さっきのやつと同じ青い粘体が腕からズルズルと生えてくる。
「うわっ…」
とりあえず鑑定
_______
ブルースライムの心魔晶 魔力+10
追加部位技能
硬化
粘液部分を硬化させる。どの程度の硬度にするかは使用者の自由。
_______
「なるほどなるほど…」
しばらく腕を振ってみたが…悪くない気がする。非常に自由度の高い粘液部は、ある程度伸ばすことも出来る。硬化の度合いによっては鞭のような使い方もできそうだ。それに、不思議な感触でなかなか楽しい。そうして、スライムの腕をぶら下げながら洞窟の奥へと歩いて行った。もちろん、頭上に注意しながら。
「多いなスライム…」
ボトボトといっぱい落ちてくること…この洞窟はスライムの住処なのだろう。
_____
種族:ブルースライム
固有名:
性別:
状態:健康
年齢:4日
筋力F
体力G
持久E
敏捷F
技量E
魔力E
精神F
耐性:
毒:E
暑:F
寒:F
_____
スライム1匹1匹はそれほど強くない。奇襲にさえ気を付ければ負けることは無いだろう。
そんなこんなで洞窟を暫く進んでいると、一際大きな空間に出た。そして、目の前には…
「っひぇ…でっか。」
その広い空間の大部分を占める、一際大きなスライムがいた。
「鑑定…効かないよね。」
えぇと、確か…ヒュージブルースライム?だったか。長生きスライム100何匹かが集まって進化した姿らしい。…それにしてはちょっとでかいか…?…いや、こんなもんだろう。確かこいつは紅角牛と同等、たまにそれ以上の個体もいると聞く。
…どうする、逃げるか…?いや、ここに来るまで一本道。分かれ道らしきものも、まして、出口らしきものもなかった。逃げるったってどこに逃げるんだって話だ。
じゃあ突っ切る?あいつがデカすぎて無理だ。仮にできたとして、もしもあの奥が行き止まりだったら?背後から襲われることになるな。
だが、だったらどうする?正直、紅角牛達との戦いは巨蟻の大顎あってこそだった気がする。今の俺ではこいつを倒せるのか、だいぶ怪しい……
………
……
「……………やるか。」
やるんですか?