嵐のような
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うさぎさんたちは、かぞくがいっぱい。ぱぱも、ままも、おとうとも、いもうとも。とってもしあわせだったけど、おうちがせまくなってしまいました。そこで、うさぎさんたちのおうさまはいいました。
『同胞よ。我が愛しき民たちよ。我等は、殖えねばならぬ。』
きゅー、きゅー!と、なかまたちはいいました。
『輝かしい栄華を。子々孫々の繁栄を。我等の手で掴まねばならぬ。なれば、滅ぼすのだ。“我らの土地”を占領する不届共を。』
きゅっ!と、うさぎさんたちはとってもうれしそうにいいました。
『無論、無疵では済まぬ。だが、今征かねばならぬ。この命に代えようとも…家族らの、繁栄のために。』
うさぎさんたちは、ぱぱと、ままと。おにいちゃんと、おねえちゃんと、とにかくみんなで。まっすぐすすみはじめました。じぶんたちのおうちに、おっきなたてものをたててすんでる、わるものたちのもとへ。
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「…ぅん…?」
いつの間にか寝てしまっていたのか。目を開くと、客室の天井があった。女将さんが運んでくれたのだろう。
身を起こして、あくびをつきながら部屋を出て、階段を降りる。
「もぐっ…もむもむ…アイラ!!おかわり!!」
「どんだけ食うのさ、もう無いよ。」
「!?…そんな…」
呆れた様子の女将さんと、がっくし、と言った様子で肩を落とす少女がいた。
何…?
「お。おはよう、ルシル君。よく眠れたかい?」
「ん、おはよー少年。」
「あ、お、おはようございます…?」
とても親しげに話しかけてきたその少女は、和装に近い格好をしていた。もちろん、日本のそれとは違うところも多いが…世界が違くとも、似たような文化が発展する事もあるのか。
「そうだ、ルシル君も食うだろ?朝飯。」
「あ、はい!頂きます!」
「?!あるんじゃんアイラ!」
「まさか他の客の分まで食う気?」
「…む。」
その少女はバッと立ち上がり抗議するも、一言で黙らされていた。
「ごめんねぇ、古い知り合いなんだが、どうにも食い意地ばっかり張ってるやつなんだ。はい、お待ちど。」
「ありがとうございます、いただきますっ!」
ローストビーフと葉野菜が挟まれたパンは、やはりとても美味…なんだが…
「……じゅるり…」
「……あの…あ、あげませんよ。」
「…」
口元を拭いながら、すごい近くで見つめてくる。まるで獲物を狙う野獣のようなギラギラとした目で…と、その時こちらを見ていたその顔がグッと上がった。
「ふぎゃっ?!は、はなしてアイラっ…」
見ると、見えない何かにつままれるようにして、その少女の体が浮かんでいる。
「お前ってのはほんとに、動物じゃないんだ、意地汚い真似するんじゃないよ」
「わ、わかった。わかったから、は、はなして…」
「…はぁ。」
少女の体が、ゆっくりと地に下ろされる。その後、ぺそぺそと泣く少女を傍目に、朝食を食べ終わった。
「こほん…おみぐるしーとこをお見せした。改めて、少年。私はセンカ。『大海』のセンカと呼ばれたこともあったけど…でもセンカでいい。」
朝食を食べ終わると、その少女…センカがこちらに寄りそう言った。
「大海?」
「ン、懐かしい2つ名さね。センカはこれでも元Aランクの冒険者だったんだ。街1つ覆う大火事を1人で鎮火したとか、7日で迷宮ひとつを水没させたとか…無尽蔵なのさ。それで、『大海』。10年くらい前だったっけか…」
「水の魔法が、ちょっとだけ得意なだけ。」
「すご…」
とんでもないな…そんな人と知り合いの女将さん…アイラさんは何者なんだ…?
「えっと、ルシルです。Fランクの冒険者をやってます。」
「ん。る、し、る…いいね。冒険者、がんばれ、ルシル。」
「は、はい!ありがとうございます。」
「ん。じゃあ、私はやることがある。ばいばい。」
そう言うと、センカは立ち上がり、アイラさんに重たそうな袋を投げて、扉を押して出ていく。そして一言。
「釣りはいらない。」
そう言いながら、外の朝日に飲み込まれるように去っていった。か、かっこいい…
「ひぃ、ふぅ、みぃ…うん、ピッタリさね、まいど。」
聞かなかったことにしておきたい言葉が聞こえてきたが、あまり気にせずに、今日の冒険の準備を始めることにした。