孤独ではないグルメ
「ほい、おまちど。」
「銅角牛のステーキ、ソースは好きなの使いな。ほいでこっちは甘辛炒めね。それからスジ肉のシチュー。サラダとパンは好きなだけ食べな。」
目の前にズラっと並ぶ料理に、目を見開いて輝かせることしかできなくなっていた。おいしそう…!!
「…ふ、何ぼさっとしてんのさ。早く食べちゃいな、冷めるよ。」
「は、はいっ!いただきます!!」
ステーキは、それだけで濃い肉の旨味がガツンと脳を殴りつけるような暴力的な味。適切な処理をしてなければ、的確な焼き加減でなければこうならないだろう。そこに、ある木の実を使ったソースをかける。ブワッと広がる香りは、ニンニクのそれに近いだろうか。脳が食欲に支配される、フォークが止まらない。それなりの大きさがあったと思うのだが、一枚ペロリと平らげてしまった。と思ったら、もう一枚出てきた。
「はいよ、まだ食うだろ?」
「ふぁ、ふぁいっ!」
甘味と旨味のある香ばしいソース…そう、これはオニオンソースだろうか。うん、これもうまい。これは…見たことがある、ディアボラ風に近いだろうか。これもうまい。肉を食う手が止まらない。
「本当に美味しそうに食べるねえ…。よし、じゃ私も食べようかね…。あーむっ…」
「…!」
たっぷりソースをかけた肉をパンに挟んで…なるほど、そう言うのもあるのか。真似してみよう。
うん、ソースがパンに染みて、少し硬いパンを柔らかくしてくれる、そしてソースと肉汁を吸った最高のパンが、肉を優しく受け止めてくれる…これはいいぞ…
だったら…こんなのもいいんじゃないか?
パンに甘辛炒めを挟んで…
うぉっ、美味いっ!これもまた強い味で、パンとの相性抜群だ。いくらでもフォークが進むぞ。
そして、ここだ。ここでシチューをひとすくい。
もぐっ…
……!!…これは…美味い。1番美味い!肉の旨みがたっぷり滲み出たスープは、程よく熟成された葡萄酒で…いや、葡萄酒だけじゃない。多様なスパイスや、もっと色々…とにかく、これまでで1番繊細で強烈な旨さだ。
「はぐ、はぐ、がつがつ。もぐ、めり…」
「ふふ、慌てて喉に詰まらせないでおくれよ。」
「っ、ふぁぃっ?!」
お約束のように詰まらせた
「あーほら、言わんこっちゃない…ほら、お水飲みな」
「ん、ごくっ…ぷぁ!…すいません、ありがとうございます。」
「んーん。それで…まだ食べるかい?」
「はいっ!」
「ふふ…はいよ。」
その後、8回くらいおわかりした。
「ご、ごちそうさまです…」
お腹いっぱいだ、食べすぎてちょっと戻しそう…。
「今日もまた随分食べたねえ、一体この体のどこに入ってるのさ?」
ぽんぽこお腹を叩いてくる。うっ、やめて…
「そんなに美味かったかい?」
「はい、とっても美味しかったです…!今まで食べたことないくらい…絶対また食べたい、です…」
あんまりに美味しいからって食べすぎたな…眠くなってきた……
「そりゃ、嬉しいこと言ってくれるね…今度はまた別のとってきな、作ってやるから…って、ありゃ。寝ちゃってる…。ふふ…いっぱい頑張ったんだねえ、えらいぞルシル君。」
軽く頭を撫でながら、その子の事を眺める。2、3ヶ月に一回、泊まりに来る常連君たちが急に連れてきた子だ。あれよあれよと言ううちに冒険者になって、たった2、3日でこんな大物を獲った。帰ってこないからと思って心配でつけてた追尾魔法おっかけたら、銅角牛と紅角牛と一緒に倒れてるんだ、それはもうびっくりした。でもやり切った顔で倒れてたから、まあ、いい冒険だったんだろうね。不思議な力については、まあ…そう言う子もいるって事で。
「しかし、あの力…もしかしてあの子の…」
コンコン、と扉の方から音がする。
「はいはい、今行きますよっと…おや、噂をすれば…センカじゃないか。相変わらず変わらないねえ。」
「ん、変わらない!アイラもね。って…その子は?アイラ、ついに子供が?」
「や、お客さんだ。これでも冒険者でね、良くしてくれてる。…食べすぎて寝ちゃったんだ。可愛いだろう?」
「…しょたこん。」
「ちがっ、ただ可愛いなって言っただけだって。」
「…ま、いい。アイラ、わたしの神様…セイレス様の遣いがおりたったって教祖様に聞いたんだけど、何か噂とか聞いてない?森の祭壇とか見に行ったんだけどもうどっかいっちゃってた…近くには頭のないありんこ1匹だけいただけなの。」
「…おや、そりゃよかったじゃないか。うぅむ、だが…聞かんねぇ、そう言う話は。姿形はわかるのかい?」
「いろんな魔物とか、人とかがくっついた見た目。いっぱい変わって、わかんない。」
「そんな化け物がいたら速攻で噂になるだろうね」
…ただこりゃあ…やっぱりルシル君の話、っぽいねえ…。
「…そっか、しらないか…ざんねん…うー、疲れた!今日歩きっぱなし。久しぶりにアイラのご飯食べさせて!」
「はいよ、ちょっと待ってな…ちょうど新鮮な食材を仕入れられたんだ。」
「うぉー、アイラのごはん、たのしみー!」
「この少年が取ってきてくれたんだ、感謝しな?」
「ん、そうなの?すごい。感謝、感謝。」
その後、1頭分くらい食べに食べてから、客室に勝手に入って寝た。自由だねえ、この子…
「はぁ…好きにした分、しっかり金は払ってもらうさね。」
うおぉん、俺はまるで人間火力発電所だ。