横着
平原でしばらく散策していたが、確かに兎がいない。昨日まで結構いたんだけどな…昨日の今日でここまで変わるのはなかなか不思議だ。まあ、しかし今回の獲物は兎じゃないのでOK!今回の獲物は…目下で草を食ってるこいつらだ。
「鑑定」
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種族:銅角牛
固有名:
性別:♂
状態:健康
年齢:3年7ヶ月
筋力:E
体力:E
持久:F
敏捷:E
技量:G
魔力:F
精神:F
耐性:
毒F
暑G
寒F
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「やっと見つけた…」
『ンモォ〜』
一日中探してようやく見つけることができた。牛もここまで少なかったとは思えないんだが、やはり何か起こっているのだろうか。まあ、今は目の前の獲物に集中だ。
「ふふ…呑気に草食ってやがるぜ、これから狩られるとも知らず…」
ほんと、野生とは思えないほど隙だらけ。1匹であれば奇襲すれば簡単に狩れるだろう。ただ…奴らは基本2〜5頭程の群れで行動している。そして、目下に見える群れは最大規模の5頭。
その上、鮮やかな角を持つ、一際体の大きい奴が1頭。
紅角牛だ。掲示板でみた依頼の受注可能ランクはDランクから。ステータスも見れない相手だ。今の俺だと厳しい戦いを強いられるだろうが…いや。ステータスの差が大きいと言うことは、この右腕の力でどうにかなるのではないか。
…正直、もうこれ以上探したくない!!1日探してこの群れだけだ!!
「一ヶ月みっちり鍛えられた俺の実力、見せたるでこらぁぁぁ!」
木の上から飛び出して、真下の牛の首に大バサミを突き立てる。深々と突き刺さった肉の底で、ハサミを全力で閉じる。
「すまんなッ!」
『ブミッ?!』
パキョッ、と骨が折れるような、切断されるような音がした。脳の命令を受けることのできなくなった体がしばらくのみじろぎと硬直ののち崩れ落ちる。
「まず1頭ッ!」
ここからが本番だぜ。残りの4頭がこちらをじっと見据える。報復をすると言う思いが非常に強く伝わってくる、殺意に満ちた目だ…なんちゅう目だ。
「来いよ」
『ブモォォォォォォ゛ォ゛!!!』
1番体の大きいやつ…紅角牛が、大きく嘶く。それと同時、3頭の牛が同時にこちらへ突っ込んで来た。
「っと、危ないッ!」
巨体が三つ、こちらに猛突進で迫り来る光景はなかなか恐怖を覚える。が、その巨体が故に下が隙だらけだ。目の前の牛に向かって走り、スライディングで下に潜り込む。
「2ッ!」
『モ゛ッ?!』
腹に剣を突き刺し、引く。腹から色々出しながら倒れ込んだ。
「ふぅ…いや、俺やるじゃん…!」
『ブルォォォォォォォォ!!』
紅角牛が怒り心頭といった様子で嘶く。同時、そいつ含めた3匹の角がより赤くなる。角の周りの空気が揺らめいていた。
「…おい、随分熱そうだな」
「モォォ゛ッッ!!!」
突進、だがさっきまでの突進とは違う。速いッ…?!
「ッお゛ぅッ?!」
吹っ飛ぶ。なんとかガードは間に合ったものの、それでもなお車に撥ねられたような衝撃が全身を襲う。角の触れた左腕は赤黒く爛れていた。いってえ…死ぬ…
「ッ…ミニキュアっ…」
即座に体を癒す。一回じゃとても足りないが、何回も繰り返し、ある程度動けるようにはなった。
「痛ってえなぁ!!」
追撃せんと駆け出してきた牛に向け両腕を大きく振るう。
「強撃ッッッ!!」
『『モ゛ッ!?!』』
左手の鉄剣と右腕の大バサミで頭を叩き割る。
突進の勢い-俺の攻撃でこっちへの推進力は減、威力は掛け算で大幅アップだ。
「ッぐぅ…っしゃ、残り1匹!」
ダメージが無いとは言っていない。こいつらの攻撃を相殺し切れるわけもないのだ。ズキズキ痛む腕はアドレナリンと聖魔法で押さえ込み、残りの対処に集中する。
「…異形技【剥業】ッ!そして【接業】ッ!!」
自らの脚を剥業し、仕留めた牛の脚を接業ぐ。
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〈獲得部位技能〉
突進
力強い突進を行う。突進中は筋力と敏捷に大きなボーナスがつくが、直進しかできない。
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〈獲得部位〉
銅角牛の強脚
筋力+10 敏捷+5
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想像通り、いや、想像以上の効果だ。
「突進ッ!強撃ッッ!」
両腕の武器を前に構え、走り出す。目指すはあの1番デカい奴。角は、赤を通り越し、橙を越し、黄色を越していた。煌々と白熱していた。
あんなんまともに喰らったら死ぬ。
「うぉぉぉぉッッッ!!!」
『ブルルォッッッ!!!』
突進対決。勝者は、少しリーチの長い方。
『モ゛ッ……』
「ッ…ぐ…」
ドシャッと倒れ込む巨体。そして同じく倒れる小さな体。
「はぁ……はぁ…いや、ほんとに、やるじゃん俺…」
激しく動き、技能を乱用した肉体は疲労で中々動かない。
そして、胸あたりは広く焼け爛れている。白熱した角を防ぎきれなかった。
更に、紅角牛の頭に深々と刺さった大バサミは、中ほどから割れている、
「…マジかぁ。いや、まあ…」
仕方ないか…うぐぐ、残念…強かったし割とお気に入りだったのにな…。
あ、そうだ。誰かに見られる前に、脚戻しとかないと…
「剥業…接…業…」
下半身が元の体にすげ変わる感覚と共に、意識を落とした。
強い牛の群れに勝てる子供です。