非常の齎す喧騒の産声
「おい、情報急げ!」
「こりゃ一体全体何が起こってやがる…?」
今日のギルドは昨日よりやや賑わっていた。ギルド職員たちが忙しそうに駆け回っているし、冒険者達も色めきだっている。
「あ、あの…」
「お?おぉ!昨日の坊主じゃねえか、あんときゃ悪かったな!坊主くらいの歳で角兎をあんだけ狩れんなら上々だぜ、見かけによらないもんだな!!」
昨日絡んできた大男を見つけたので声をかけてみた。悪い人ではなさそうなのは分かってるしな。
「いえ、こんなですから…。むしろ心配してくれてありがとうございます。それで…みなさん一体どうしたんですか…?こんなに慌てて…」
「あぁ、それがな。南の平原の調査に行った連中が妙な物を見たらしい。いや、何も見なかったと言う方が正しいか…」
「え?…どういうことですか?」
何も見なかったなら別に良いんじゃないか?
「何も見なかったんだよ、本当に、何も。牛も鳥も狼も虎も…兎も。」
「…確かに、おかしいですね…。」
明らかな異常事態だな。数分歩いていれば探さずとも何か魔物を見つけられる平原だぞ?
「他にも、脇目も振らず平原を北へ駆けていく角兎の群れを見たとか、その北に行った調査隊が半壊したとか。Cランクで固めたなかなかの精鋭だったらしいぞ…なんとか帰ってきた奴らの話だと兎軍がいくつもあったんだとさ。ただの繁殖期じゃこうはならねえ、何か起こってるぜ…今は北に行かないほうがいいかもしれんな。」
神妙な面持ちの大男はそう言うと、顔を近づけてきた。何ッ…
「ひっ」
「…まだ噂だけどな…兎共の『魔王』の仕業って話もある。」
「…!」
魔王。この世界で、国すら滅ぼす脅威として恐れられている存在達。そのうちの一つが、何か行動を起こしている…。
「…まずくないですか?」
「あぁ、噂が本当だったならばな。だが、前回兎の魔王が確認されたのは500年以上前だ。そんな奴が今になって顔を出すとは思えない…まあ、注意するに越したことは無いがな。」
「なるほど…ありがとうございます!えっと…」
「あぁ、そういえば名乗ってなかったな!Dランクのドルトンだ。よろしく頼む。」
「あ、えっと…Fランクのルシルです。お願いします、ドルトンさん。」
「おう!…っと、すまん。話し込みすぎちまった、美味い依頼がなくなっちまう!ちゅー訳で俺はそろそろ行くぜ。元気でやれよ!」
「はい、すいません、ありがとうございました!」
ドルトンと別れ、掲示板を見る。確かに、昨日に比べて平原北の捜索依頼が増えていた。
まあしかし、そんな危険な地での捜索。もちろん今の俺は受けれるランクにない訳で。自分にできることをやるしかないのだ、ということで。今日は銅角牛の討伐に向かうことにした。
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-明緑の平原に広がる真白い恐雲は、その美しい緑を土茶色へと変えながら。進む、進む。
-我へ集え、同胞よ。草食む軍勢は、王をもって。我等が国土を増やさんと、我らが威光を示さんと。規律を持って。同胞を迎え、進む、進む。
-地を均し、生をも均し。有象無象の殖え育む地へ、我等が恐怖をいざ届けん。我等が種に栄光を。我等の子達へ安寧を。
__弱肉どもは、粛々と。強きを喰らい地を踏んで。恐怖を以て征服す。
こわいです。