もう一つの試験
今俺は、次の試験会場…リューの使っている宿の一室いた。
「え、うそ!お兄ちゃんに勝っちゃったの!?すごいすごいっ!!」
「な、なんとか、ギリギリでしたけど…わぷっ?!…えへへ。」
エピの試験をなんとか無事突破できたことを報告したらすごい勢いでギュッとされて摩擦で頭が熱くなるほど撫でられた。髪の毛無くなっちゃーう…。
…まだ恥ずかしいが、少しずつ慣れてきたと言うか、申し訳なさより嬉しさが勝つようになってきたな、リューの近距離コミュニケーション…
「よしっ!じゃあ学力テスト始めちゃおう!と言ってもたぶん見てた限り、ルシルくんなららくしょーだろうけどね!」
「ん、はいっ!!!」
そう、まだ、テストは終わりではないのだ。リューの出す学力テストが残っている。どんな問題でもかかってこい…
「クイズ!キミは常識を知っているのかっ!ルシルくんの知識を確かめま、Showっ!!!」
…何???
「え、何」
「第一問ッ!」
有無を言わさず始まる問一
「角兎は基本群れで行動します!その群れ一つの規模は基本…?」
「…5、6匹!」
「…ですがぁ、」
あるのかよこっちにも「ですが」で続くクイズ!
「繁殖期は多くの群れが合併し、100匹規模になることがあります!そう言った群れをなんと言うでしょうか!」
「えっと、大家族!」
「正解!!第二問!!そんな角兎ですが、確認されている進化先は?」
「長角兎!」
「正解!じゃあ確認されている長角兎の進化先は!!」
「り、首狩り兎!」
「…」
「…あっ、兎将軍!!」
「正解!じゃあ兎将軍の指揮する大きな群れは!」
「《兎軍》!!」
「パーフェクト!角兎たちについてはもう大体大丈夫だね!首狩り兎や兎将軍に会ったら逃げるんだよ!!危ないからね!!」
「はい!」
「いい返事!第三問!!銅角牛と紅角牛の見分け方は?」
「角の色!」
「名前の通りだね!第四問!現状で、世界にいる人間種は何種類でしょうっ!行けたら種名も!」
「えっと、人間、ドワーフ、獣人、鳥人、魚人、妖精、鬼、ドラゴネットの8種類です!」
「うん、正解!まあでもここは難しいところなんだけどね…獣人とか鳥人とか妖精とかの中でも種類がいっぱいいるから…今わかってる中で、すごく大雑把に分けたらこうだよって感じだから、臨機応変にね!第五問!お金の問題だよ!冒険者ギルドで販売している地図はいくらでしょう!」
「えーと…2000イル!」
「正解!これより高い地図は製図院の出すすごい細かくて最新のものでもない限り詐欺だよ!食い物にならないようにねぇ〜?」
「き、気を付けます…」
「うん!じゃあ最終問題!!これから先、生きていく上で1番大事なものは?」
生きていく上で1番大事なもの…?すごいざっくりした問いだな…うーん…
「お金…いや、経験?人との繋がりとか…ですかね」
「うんうん、どれも大事だねえ。でも、ここは不正解とさせてもらおうっ!」
不正解か…なんだ?1番大切なものって…
「1番大切なのは、自分の命。お金も経験も、死んじゃったらどんなものも意味ないし!危ないことがあったらすぐに逃げること。自分を過信して無理に立ち向かおうとしちゃダメだよ?」
まっすぐ、少し不安そうな目で俺の目を見つめてくる。
「…はい。もちろんです!」
「うんっ、えらいっ!!!ということで、結果は…合格です!!ぱちぱちぱち!」
「っ!やったっ!」
「ふふ、おめでとう!どうだった?難しかった?」
正直に言えば、そこまで難しくはなかった。この世界の一般常識はあまり元の世界と大きく変わるようなものでも無かったし。…まあ、そう思えたのもきっとリューのおかげだ。
「リューさんが楽しく、わかりやすく教えてくれたので、超簡単でした!」
「っ〜…!!可愛いやつめー!」
「うわぁっ!?」
抱っこで振り回される。うっ、目がまわる…
「ぎゅーっ!!ふふふー!」
下ろされてもまだぎゅーされる。うぎゅー…
「…ねえ、ルシルくん。エクストラ問題っ!」
パッ、と離された。
「エクストラ問題?」
「私とお兄ちゃんはルシルくんのこと、どう思ってるでしょうか!」
「え、えぇ?えぇと…」
「ちっちっちっちっちっ…」
「!?」
まさかの時間制限付き問題だった。ど、どう思ってるかだって…?
「え、えーと、えーと。その…だ、大事…?」
「残念!」
どうやら違ったらしい。ちょっとショック…
「正解は…超!大事!でした!!」
なんじゃそりゃ、と思うより先に、ドアがバンッ!と勢いよく開いた。そこには…大きなチキンとケーキを持ったエピが立っていた。
「試験突破、お、おめでとうルシルッ!!」
大きな声でそんなこと言って机に料理を置くエピを、ポカンと見ることしかできなかった。
「…リュー…ッ!」
驚いて何も言えずにいると、エピは恥じらいと怒りが混じった目でリューのことを睨んだ。そのリューはと言うと「あ、あれっ?おかしいなぁ…もっと喜んでくれると…」
と少し困っていた。
喜んでいないと言うより…驚きが強すぎて他の感情が追いついていない。
「えっと、こ、これは…?」
「…リューがな、きっとお前なら合格するだろうからならお祝いしたいと言って用意してたんだ。祝うのは賛成だったんだが準備が早すぎる、と言っても聞かなくてな。結果的に合格してくれたからよかったがな。」
「さ、サプライズで驚いてもらいたくて…だから、お兄ちゃんにも今のお願いしたんだけど…って、えっ!?」
ポロポロと涙が溢れ始めた。驚きが落ち着いたのと共に、いろんな感情が溢れ出してきた
「び、びっくりさせすぎちゃった!?ご、ごめんねっ?!」
「っ、いえ…嬉しくて、…ん、へへ…いろいろ、ありがとうございます…!」
すごく長い期間一緒にいた訳じゃないが、こっちで初めて会った人たちだし、命の恩人だし、すごくよくしてくれて、優しかった。2人に出会えたのは本当に幸運だった。ありがとう神様。
「ぅ、えへへ!ううん、おめでとうだよ!」
「なんでお前もちょっと泣くんだ。…まあ、喜んでくれたのなら恥をかいた甲斐もあった。改めて、おめでとう、ルシル。さ、食おうぜ。冷めちまう。」
「ぐすっ、そうですね……いただきます!」
「ずびっ…いっぱいたべるぞーっ!」
エピが持ってきた二品以外にも、宿の女将に色々頼んでくれていたようで、いろいろな料理が部屋に運ばれてきた。その日の夜は、とても楽しくて、長い夜だった。
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翌朝。
2人が必要だろうと持たせてくれたお金と荷物を持って、宿を出る。
「…少しの間でしたが、本当に、本当にありがとうございました!」
「あぁ、気をつけるんだぞ。お前なら大丈夫だとは思うが、死ぬなよ。」
「うぅ…ルシルくん、もう少しいてくれても…ううん…ずびっ、がんばってね、ずっと応援してるからぁ…!!」
何度でも言える、本当に最初に出会ったのがエピとリューでよかった。
「はい、ありがとうございます!!!じゃあ、いってきます!」
「あぁ、行ってこい。」
「元気でね…!!!いってらっしゃぁい!!」
こうして、俺は新たな旅に出た。青い空と、白い雲が輝く、新たな旅立ちにはもってこいの日だった。
そして、遠くの緑が輝く草原に、白い雲がひしめく、新たな旅立ちにはもってこいの日だった。
「…行っちゃったね。」
「あぁ、寂しくなる。だが、ルシルならきっとどうにかなるさ。賢くて強い子だ。…さぁ、俺らも行くぞ。お前がルシルのサプライズやら選別の荷物やらをあれもこれもと詰め込んだせいで、俺たちの経済状況は少し危うい。」
「うぅ…反省してます…でも、後悔はしてないよ…!」
「はぁ…ま、怒る気も無い。いい出会いだったしな。またどこかで会えるといいが。」
「うんうん!次会った時はもっと強くなってびっくりさせてあげなきゃね!!よーし、じゃあ…またいつかルシルくんに会うために!お金をいっぱい稼ぐために!新しい冒険に、しゅっぱーつ!!!」
物語にはならないけれど、こう言う冒険もきっとあります。