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転生つぎはぎキメラの冒険譚  作者: ぐみうみさんば
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転生

稚拙な文章ですが、お楽しみください。

 今日もまた、何事もなく過ぎようとしていた。運命的な出会いも無ければ、不思議な出来事もない。大学へ行き、友人と何気なく話して。そんななんでもない日をいつも通りになんとなく楽しみながら、すっかりオレンジに染まった空を眺めながら、帰路についていた。そんな毎日は、少しだけ退屈だった。

 

 このままお爺ちゃんになってなんとなく退屈なまま死ぬのだろうか。こんな何でもない自分でも何者かになれる日がいつか来るのだろうか。なんて、あまりにもふんわりとした不安を抱きながら歩いていた…その時、突如強い浮遊感が体を襲った。

 足を踏み出した先には地面がなかった。乱雑に並べられたカラーコーンの中央、マンホールのふたがあるはずの場所には、ぽっかりと穴が開いていた。

「うわぁッ!?」

 いくらなんでも不注意が過ぎた。しかし、後悔先に立たず。重力によって体は下方向へと引かれていく。

(やばいぞ!?ってか工事してる側もカラーコーンの設置もうちょっと気をつけろよ、というかもしかすると死ぬんじゃないか!?今HDDには見られたくない物が、あれを遺して逝くのはまずい。というか死ぬのは怖い。お爺ちゃんどころか今死んだら本当に何もないまま終わっちまう。嫌だ。せめてもうちょっと何かしてから死にたかっ__)

落ちていく。走馬灯が、思考が、濁流のように流れていく。無駄なことを考え、死に怯え…間もなく、体が地面に触れた。体から嫌な音がする。頭の位置に、何か固いパイプのようなものがあった。鈍い音と何かが割れる音が脳に響く。ベルトの金具とコンクリの床が火花を生み出し、空気に引火した。響く爆音。

 俺の二十年弱の人生は、何者になることもなく、いとも簡単に幕を閉じた。




「目を開けてください…」


声が聞こえる。鈴のような、美しくも可愛らしい声だった。俺はあの絶望的状況から助かったのか?

いや、確かに死んだはずだ。あんな役満じみた大事故で生きてるわけがない。

困惑しつつも、その声の言うとおりに目を開ける。視界には奥行きを感じない白と、一匹の動物が映った。

「気付きましたか。」

なんの動物か、と言われると難しい。気高いライオンのような顔、背には白鳥のような美しい羽が生え、前足は熊のように太い…あまりに多くが混ざりすぎているのだ。しかし、それなのに緻密な芸術のようで、神々しささえ感じる。目を背けられない。

「人の子よ。残念ですがあなたは死んでしまいました。」

その声はその動物から発せられているようだった。

反対に、こちらは声を発することができない。自分の体が見えない。

しかし、落ち着いていた。というよりは、見惚れていた。こりゃ夢だとか言って現実逃避する気も、取り乱す気も起きなかった。それほどに、目の前の存在は圧倒的だった。

「不注意な上に不運でしたね。少し愚かで、とてもかわいそうな人の子。」

動物はクスクス、と笑みをこぼす。本来であれば腹立たしいはずのその仕草すらも、美しい。

「ふふ、そのように見つめられては恥ずかしいですよ。それに美しいだなんて。」

こちらの思考は筒抜けのようだ。

「それと、私を動物と呼ぶのは些か不遜ですよ。私は、接剥の男神『セイレス』。人の子よ、ようこそ、私の神域へ。」

 神々しいと表現したが、それどころじゃなかった。正真正銘の神だった。


「さて、そして私があなたをここにお呼びした理由なんですが…実は、ただの私の気まぐれなのです。」

…気まぐれ?


「はい!偶々私の目に入ったあなたが、偶々死んで。その魂の形が、私にどこか似ている気がして。運命的で、愛おしく見えてしまったのです。そこで、あなたにまた、新しい生を与えてさしあげようかと思いまして、ここに連れさせていただきました。ただ、元居た世界、そして元の姿で生まれなおすのは不可能です。なので、あなたが居た世とは異なる世界にて、元のあなたとは異なる姿で、ですが。」


 なんというか、ひどく一方的だ。しかし、生まれ変われるというのなら、断る理由もない。むしろ大歓迎だ。願ってもない幸運だ。是非にでもお願いしたい。

「神とはそういうものなのですよ。一方的で、独善的。私はこれでも人に近い方なのですよ?」

思考が筒抜けだ…とてもやり辛い。すいません神様。

「ふふっ。では、善は急げですね。今から、あなたに新たなる生を与えます。」

そう言って、神が俺の体にそっと触れる。すると、触れた部分から光がこぼれ、少しずつ、互いの体が透けていく。

異世界に行ったら、俺ももう少し変われるだろうか。何かをなしとげられるだろうか。

「私は、あなたのその変わりたいという欲を、何者かになりたいというささやかな願いを、応援します。

これは__」

もう自分の体も、神の体もほとんど見えない。

「そんな私からの、贈り物です。」

神様が触れている部分に、少しの熱を感じる。


そして、意識はどろりと、溶けるように消えていった。

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