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2 狭間の世界

 ミケーラがふと目を開けると、周りは暗闇で、自分の体だけ白く光っているのがわかった。


「ちょっと貴女(あなた)

「わっ!」


 急に声をかけられ振り向くと、同じように体が白く光る綺麗な女性と青年が立っている。透き通るような銀髪と赤紫色の瞳を持ったその女性は、ほんの少しだけ口元が上がっているように見えた。


「あれぇ? あんた確か聖女様に怪我させちゃった人じゃない?」


 昔、気前のいいお客に連れられて行った王都の祭りで見かけたことがある。美しく恐ろしい女だと教えてもらった。


「そうよ」

「王子様と婚約破棄して処刑されるんじゃなかったっけ!?」


 ミケーラが病気に罹る少し前、大ニュースとなって国中大騒ぎになっていた。皆その話題に夢中になって、誰もが自分こそ真実を知っているとばかりにあることないことしゃべり続けていた。

 唯一共通していたのは、王太子の婚約者であるレティシアが聖女パミラに嫉妬し、殺そうとしたという話だ。結果、王太子とは婚約破棄となり、国の宝ともいうべき聖女を害さんとしたとして処刑が決まったと聞いていた。


「もうされたわ」

「はあっ!? じゃああんた幽霊!?」

「貴女もね」


 なんと彼女達が会話している場所は生と死の狭間の世界だったのだ。ミケーラは別に信心深いわけではなかったが、自分が死ぬ瞬間をなんとなく覚えていたのもあり、この状況をあっさり受け止めた。


「それであんたは?」


 もう一人いた黄金の瞳を持つ青年に声をかける。先ほどからレティシアの側で少し寂しそうに笑っていた。


「僕はレティシアの守護精霊みたいなもんさ。君らの契約を仲介するためにここにいる」


(守護精霊?)


 彼の言っていることは何もわからなかったが、なんだか神々しいし、浮世離れした雰囲気をまとっているし、こんな綺麗な男の人は見たことがないから、本人の言う通り人間ではないのだろうと納得し、ミケーラはそれ以上追及しなかった。


 ミケーラの強みは世の中の出来事をあっさり受け止めることだった。そんなものだと受け入れるのだ。理不尽なことも、とても簡単には信じられないようなことも。これは彼女があの辛く厳しい世界で生きていくために得た、心を守る手段でもあった。


「貴女にお願いがあるの。見返りを考えたらそう悪い話ではないわ」 


 悪女レティシアの願いは彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐だった。


「えー! そんなに悪い奴なのあいつら!?」

「そうよ、とっても悪い奴らなの。あんな奴らに不覚を取るなんて、悔しくて死にきれないわ」


 そう言うわりには、レティシアは他人事のように淡々と話している。


「なんであたしなの?」

「そうねただの偶然……運命ともいうわね」


 今度は噂通りの悪女のような、少し怖いが引き込まれるような微笑みだった。ミケーラはあるのかないのかわからない心臓がドキッとした気がした。


「……復讐って、どうやって?」

「やり方は任せるわ。貴女なら大丈夫」


 何のことはない、と相変わらず美しい顔と声で淡々と話す。


「丸投げ!?」

「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」 


 どうやらレティシアはミケーラの最期の願いを知っているようだった。ミケーラは貴族の暮らしに憧れていたのだ。彼女の仕事相手はいつもそのような身分の人達だった。


 世界の端が白んでいるのが見え始めると、急に美しい青年が声を上げた。


「早く決めて! 君もレティシアもあの世に行ってしまう!」

「えええ!!? や、やるわ!?」


 ミケーラが急いで頷くと、あっという間に世界が真っ白になった。


「私は最後にいい娘を引いたみたいね。よろしくミケーラ……」


 レティシアの声が木霊した。

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