書籍化『断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました』
「あなたを愛することはない」と竜人王子のツガイ認定プロポーズを断った女騎士が、前言を撤回するまでの紆余曲折【書籍「断罪ハピエン」収録】
とあるヒト属の王国に、麗しい竜人の王子が訪れた。
「我が国ではツガイを見つけられなくてね。ツガイ探しの旅に出ているのだよ」
強く美しく、ツガイ相手を溺愛してくれる竜人。ヒト属の女性にも人気がある。純愛や溺愛に夢見る乙女たちが、夜会にこぞって集まった。ヒト属の最も大柄な男性よりも、一回り大きな竜人の一行は、会場の中でもくっきりと際立つ。
「はあー、素敵。美しさとたくましさのいいとこどりではありませんか」
「浮気の心配がないって、安心ですわよね」
「いつまでも新婚のように溺愛してくださるんですって」
ヒト属の少女たちは、トロンとした目をして竜人を見つめる。
「まあ、シルヴィア王女殿下がいらしたわ」
「まさか、殿下も竜人を?」
「殿下、婚約者が他国にいらっしゃるわよね」
「あらあらまあ」
「それなら、もう殿下で決まりではないですか。私たちの出る幕がございませんわあ」
「あら、ツガイに身分は関係ありませんわ。私たちだって、可能性がありますわ」
「では、もう少し近づきましょうよ」
少女たちは、さりげなく、少しずつ、ジリジリと竜人たちに寄っていく。ところが、竜人の王子は、さっと跪いた。その前にはシルヴィア王女。王女はさっと頬を染め、周りにいた女性たちはため息を吐く。
「やっぱりね」
「そんなうまい話、ないわよね」
「持てる者が総取りする世界よね」
「知ってましたわ」
ちょっぴり恨めしい目で竜人の王子を見つめる貴族女性。
「みつけた。あなたが私のツガイだ。どうか、私の妻になっていただけないだろうか」
竜人王子は感極まった様子で、そっと手を伸ばす。
「はっ?」
「ええっ?」
「なんで?」
会場中に疑問符が飛び交う。竜人のブライアン王子が愛を乞うたのは、シルヴィア王女の護衛、グウェンだったから。伯爵令嬢のグウェンは背が高く、髪も潔く刈り上げ、男装の麗人といった風情。ひそかに慕っている令嬢も多い、男前な護衛騎士なのだ。
グウェンは顔色ひとつ変えず、バッサリ切る。
「ご冗談はやめてください。困ります」
「本気も本気だ。私の魂があなたをみつけた」
「お断りします」
しおー。だが、それがいい。素敵。女性たちの目がうっとりとグウェンに注がれる。そう思ったのはブライアン王子も同じだったようで。とろけるような微笑みを浮かべる。
「冷たい表情でさえも美しい」
「やめてください。率直に申し上げて、気持ち悪いですね」
うわー、率直すぎー。相手、王子ですよー。さすがに周りがざわめいた。
その日から、グウェンを口説き続けるブライアン王子の姿が目撃されるようになる。
「美男美女ですわ。お似合いですわ」
「どちらかというと、美男美男という感じですけれど」
「いずれにしても、目の保養ですわ。美の掛け算ですわ」
「でも、グウェン様、ちっともほだされませんわね」
「わたくし、イヤよイヤよもだと思っていたのですが。どうやら違うようですわね」
人々は首を傾げる。竜人で王子で美形。しかも浮気の心配がない。いったいなにが不満なのか。
「ひょっとして、グウェン様には他に好きな人がいらっしゃるのでは」
「そうですわ、きっとそうですわ」
「ブライアン殿下のあまりの美麗さに、その可能性がすっかり頭から抜けていましたわ」
ブライアン王子にツガイ認定された、時の人グウェン。そのグウェンの意中の人とは。王都で賭けが始まった。
「冗談じゃない」
王都の小さな飲み屋で、ドンッとビールグラスをテーブルに叩きつける時の人。
「みんなで、よってたかって。私が誰を好きだろうが、私の勝手じゃないか」
同僚のレオニーが苦笑する。
「みんな、暇なんだよ。それに、ネタとしてはおもしろいからさ」
「ひとごとだと思って。こっちは、仕事にまで支障が出てるってのに」
「まあねー。でもシルヴィア殿下はおもしろがっていらっしゃるから」
部下に横取りされて、最初はムッとしていたシルヴィア王女。今ではワクワクした目を隠さない。「わたくしの初めての賭けですわ」なんてホクホク顔でグウェンに話しかける。返事のしようがないではないか。
「でもさ、何がイヤなの、マジで。条件は最高じゃないのよ。王子だよ、一生お金に困らない。しかも浮気しないんだから、安泰じゃん」
レオニーが首を傾げてグウェンを見る。
「私、お坊ちゃまが無理なんだよね。できれば拳で語り合いたいっていうか」
「グウェン、あなたも本当は伯爵令嬢なんだよ。そこんとこ、忘れないでよ」
「護衛騎士になったときにさあ。両親に、私を娘じゃなくて息子として見てって言ったんだよね」
レオニーが頭を抱える。
「それに、私、結婚したくないから。一生働きたいんだよね。せっかく子どもの頃からの夢だった護衛騎士になれたのに。なんで他国に行って嫁をやらなきゃならんのだ。そんなの、私の人生設計にない」
グウェンは新しいビールをグビグビ飲む。
「いつか後悔しない? 子どもを生める年齢って限られてるよ」
「後悔したら、そのときまた飲んだくれるよ。今はね、子どもも夫も、欲しいと思わない。だって、私の命はシルヴィア殿下に捧げたんだ。子どもと夫がいたら、シルヴィア殿下を一番に考えられなくなりそう。それが怖い」
グウェンが怯えた目をしている。
「真面目すぎる。仕事だよ、人生と命を捧げる必要はないよ」
「シルヴィア殿下に護衛として選んでいただいたとき、本当に嬉しかったんだ」
グウェンは幼女のときから男らしかった。姉弟とごっこ遊びをするときは、必ず姫を守る騎士役を買って出ていた。プレゼントは人形ではなく、剣や盾を欲しがった。誰かを守りたい、誰かに必要とされたい。その思いが強かった。
どんな人形よりかわいらしい姫様に、「あなたにします」そう言われたとき、生まれてきてよかった、そう思った。
「あいつ、なぜ姫様をツガイ認定しなかったんだ。だったら、話は簡単だったのに」
シルヴィア王女の婚約者は隣国の王子だが、あまり評判がよろしくない。もし、シルヴィアが竜人の王子にツガイ認定されたら、大手を振って婚約を解消し、竜人の国に嫁ぐことができただろう。
「あの、空気の読めない、お坊ちゃんめ。こうなったら、拳で分からせてやる」
ダンッ グウェンの鉄拳がテーブルを粉砕した。
グウェンは店主に平謝りして、テーブル代金と迷惑料を上乗せして、支払った。
翌日、ブライアンを呼び出したグウェン。単刀直入に切り出した。
「あなたを愛することはない。どうか国に戻ってください」
「分かりました。では、帰る前に、グウェン様の鍛錬に参加させてもらいたい。いかがだろうか」
「まあ、一度なら。でも、人の姿のままで頼みます。竜になられると、大騒ぎになりますから」
「もちろんです」
黙々と走り始めるグウェンに、ブライアンは淡々とつき従う。グウェンが少し速く走ろうが、高低差の激しい道を行こうが、ブライアンは息ひとつ乱さない。走り終わって、訓練所で懸垂、腕立て、綱登り、素振り、いつも通り取り組むグウェン。ブライアンもなんなくこなしている。
鍛錬が終わって、ふたりで水を飲む。グウェンの中のブライアンの好感度はかなり上がった。
「驚きました。すごく鍛えていらっしゃるのですね」
「竜人は人より強靭な体にできていますから」
「もしできれば、剣の訓練にもおつき合い願えないでしょうか。素振りだけでは物足りなくて」
「喜んで」
グウェンは最初は遠慮していたが、しばらくすると遠慮なく打ち込むようになる。グウェンが全力で打っても、揺らぐことのないブライアンの体幹。グウェンはすっかり感心した。
ブライアンに「滞在期間中は一緒に鍛錬したいです」と控えめに言われ、グウェンは思わず「喜んで」と言ってしまった。
あっしまった、と思ったけど。ブライアンの嬉しそうな笑顔を見ると、撤回できなかった。
まあいいか、どうせ数日のことだろう、そう自分に言い聞かせる。
ところが、ブライアンは一向に帰らない。ブライアンと同行していた外交官たちが帰国したというのに、ブライアンは数人のおつきの人たちと共に残っている。
「ブライアン、いつまでいるんだ」
「もう少しだけ」
「他の竜人は国に帰ったじゃないか」
「もう少しだけ」
「おいおい」
グウェンが何を言おうが、ブライアンは柔和な笑顔でのらりくらり。ちっとも帰る様子が見えない。王子なのに、いいのか。でも、ブライアンと鍛錬を始めてから、グウェンの筋肉はさらに引き締まり、剣術の腕は数段伸びた。それを思うと、帰ってしまうのは残念な気もする。でもなあ、やっぱりなあ、それは誠実ではないよなあ。
「私はひどい女だ」
「そうねえ」
「あなたを愛することはない、なんてひどいことを言ったくせに。ぬけぬけとブライアンを利用している」
「そうねえ」
「クソみてえな女だ」
「そんなことはない。あなたは私の太陽です」
「げえっ」
いつもの飲み屋で、いつものように同僚にくだを巻いていたのに。いつの間にか右側にブライアンが座っていた。左側の同僚レオニーはニヤニヤしている。
「私はグウェンと一緒に鍛錬できれば、それで幸せなのです。いつまでも一緒に鍛錬しましょう」
「いやいや、王子が何言っているんだ。それはさすがにダメだろう」
「家族はいいと言っているのです。だから大丈夫です」
「いやいや、おかしいから、それ。それに、シルヴィア様が他国に輿入れされるから。無理だよ」
「私もついて行きます」
「いや、何言ってんの。そんなことできるわけないじゃない。竜人の王子だよ」
ところがブライアンはどこ吹く風。グウェンが気づいたときには、国王とシルヴィア王女の許可までとりつけてしまっていた。
「シルヴィアを護衛するグウェンを、ブライアン殿下が護衛してくださるそうだ。ありがたいことだ」
「竜人の王子殿下が護衛についてくださるなんて。わたくしの価値が爆上がりなのですわ。おかげで、新たな縁談が豪雨のように降ってますの」
シルヴィアは、ミルクを前にした猫のようにご機嫌だ。尻軽で浮気することがほぼ確定の今の婚約者より、もっといい殿方を。シルヴィアはニマニマしながら釣り書きを眺めている。
「お父様と話し合ってね、婿入りしてくれる人にすることにしたわ。だってブライアン王子殿下をおいそれと他国に渡すわけにはいかないじゃない。竜人の王子でグウェンに忠誠を誓っている。つまりは我が国に忠誠を誓っている、みたいなものじゃない」
「そう、なのでしょうか。よく分かりませんが」
グウェンは居心地が悪くて仕方がない。ブライアンのことをまた利用してしまっている。何も、返せないのに。
「グダグダ言ってないで、つきあってみればいいじゃん。お試しってやつ」
「王子相手にそんな。不敬だろう」
「鍛錬の相手させてるのに、何言ってんだか」
「うっ」
「ブライアン殿下、いいと思うけどなあ。権力でグウェンを囲い込んだり、連れ去ったりしないじゃない。自分にできることをして、グウェンの心が変わるのをずっと待ってる。誠実だよ」
「そうだね」
ツガイ認定すると、理性が吹っ飛び、相手を強引に従わせる獣人もいると聞く。連れ去って既成事実を作って逃げ場をなくしたり。権力と腕力で外堀を埋めたり。執念深く、容赦無いのが、ツガイを前にしたときの獣人。そう思っていた。だから、ブライアンにツガイ認定されたとき、心の底から本当に迷惑だったのだけど。
いつの間にか、マブダチになってしまった。恐ろしい。これも策略なのだろうか。
グウェンはビールをグッと飲み干す。
「ブライアンと腹を割って話してみる」
「いいんじゃない。こんだけ尽くして待ってくれてるんだもん。デートぐらいしてあげたら」
「デート。ここでごはんでも食べるか」
「いいんじゃない。ふたりがどんな話をしたのか、王都中の人が知ることになるけどね」
グウェンがさっと後ろを向くと、グウェンをガン見していたおっさん連中がスッと目をそらした。
「聞いていたのか」
「そら聞くだろう。あの色気のイの字もなかったグウェンが、デートってんだから」
「祝杯あげたくもならあな」
おっさんたちが真面目な顔でグラスを掲げ、グイッと飲み干した。
グウェンは伯爵令嬢だが、見た目も中身も男っぽいので、飲み屋のおっさんたちと気が合うのだ。だからといって、自分の初デートを知られたいとは思わない。
「ここは、なしだな」
「そうねー」
「どこに連れて行けばいいのか」
「グウェンがグウェンらしくいられる場所がいいよ」
「訓練所か」
「そこ以外で」
「うむむ」
同僚で友人のレオニーが優しい目でグウェンを見ている。グウェンは考えすぎて気持ち悪くなってきた。
「グウェンと一緒なら、ブライアン殿下はどこでも喜ぶと思うよー」
「そうかな」
「気楽にね」
「うむむ」
考えて考えて、オエっとなるほど考えて。グウェンはブライアンを買い物に誘った。買い物デートは沈黙が気にならず、お互いの価値観を知るのにピッタリだと、シルヴィア殿下とレオニーに言われたから。
「ここは裏通りにあって目立たない店なんだが。掘り出しものの武器が売っている」
「それは楽しみだね。私の手に合う籠手があるといいのだが。グウェンの剣を受けていると、どうしても籠手に負担がかかるからね」
「オヤジに相談してみよう」
グウェンは重々しく頷いて、武器屋のドアを開ける。
「おやっさん、この人に合う籠手、頼むわ。金ならある」
グウェンは貯めていた金貨が入った袋を、ドンッと机に置く。サッとブライアンが袋を取り、グウェンのカバンに戻した。
「金なら私も十分あるから、勘弁して、グウェン。自分で買うから」
「いや、今日はお詫びの意味もこめているから。私に払わせてくれ」
「お互い、プレゼントしあったらいいんじゃないすかねえ」
武器屋のオヤジがニカッと笑う。グウェンは、うんと頷いた。
「いい考えだ。なら、私は短剣だな。投げやすいヤツがいい」
「籠手と短剣ね」
グウェンはいくつも並べられた短剣を、的に向かって次々と投げていく。薄くて軽い両刃の短剣を選んだ。
「太ももにベルトして、そこにしまっておきたいんだ。できれば五つぐらい」
オヤジが短剣を収納できるベルトを出してくれた。
「これなら刃の全体が革の中に収まるから、太ももを傷つけることもない」
「いいね」
グウェンはニコニコしながら革ベルトを太ももに巻き、短剣を五つ収めた。
「投げナイフは、敵に投げ返されるからなあ。致命傷が与えられるように、刃先に毒を塗り込んでおいてもいいかもしれんぞ」
「それこそ投げ返されて、殿下に当たったら危ないじゃないか。投げ返せないように目を狙うよ」
「そうだな。お前さんならそれもできるだろう。オマケの研ぎ石をつけてやろう」
「いつもありがとう」
仲良く新しい武器について話しているグウェンとオヤジの隣で、ブライアンは籠手を慎重に調べている。
「うん、どれも気に入った。全部いただこう。ただし、グウェンに払ってもらうのはひとつだけだ」
ブライアンはさっさと籠手と短剣とベルトの代金を机の上に置く。
「毎度あり」
オヤジがササッとお金をしまったので、グウェンには止めることもできなかった。
「仕方ない。ではこの籠手の代金を払わせてもらうよ」
「ありがとう」
コトリと金貨を置くと、オヤジとブライアンが揃ってお礼を言う。
「籠手は、ここに届けてくれるかい」
ブライアンがサラサラッと紙に届け先を書くと、オヤジは親指を上げた。
「また来てください」
「ああ、また来る。グウェンとふたりで」
グウェンは喉がうぐっと詰まって、モゴモゴ挨拶した。
武器屋を出て、ブライアンに次の計画を明かす。
「湖に行って、魚を獲って、焼いて食べよう」
いつもの飲み屋の個室に行くことも考えたが、絶対に盗み聞きされると思ったので、やめた。
森の奥の湖。静かで、人目を気にする必要がなく、危ない魔物も出ない。ピクニックデートにピッタリだと、家族に言われた。気を利かせた家族が、必要な道具類を手配してくれている。
既に石が組まれ、焚き火用の木の枝も積み重ねられている。野菜やお菓子、酒まで木箱に入って置いてあった。
「魚を獲ってくるから、ブライアンはここで火をおこしてくれないかな」
「分かった」
ブライアンは野営もしたことがあるらしく、手際よく焚き木に火をおこしている。
グウェンはズンズンと湖のそばまで行くと、パパッと服を脱いだ。もちろん全裸ではない。ちゃんとした肌着を着ている。遠くでブライアンが奇声を発しているが、気にしない。
ザブンッとグウェンは湖に飛び込んだ。静かに泳ぎ、潜っていくと大きな魚がいる。
シュバッと銛を突く。いくつか魚を仕留めると、悠々と泳いで岸に戻った。
「さあ、焼こうか」
ブライアンは口をパクパクさせている。きっとお腹が空いているのだろう。魚に鉄串を通し、焚き火の周りの地面に刺す。
フワッとグウェンの頭にタオルがかけられた。
「風邪をひくといけない。拭くよ」
ブライアンが遠慮がちな手つきで、グウェンの髪を拭いてくれる。犬になった気分でくすぐったい。自分でやるって言おうと思ったけど、なぜだかそのままゴシゴシされるにまかせた。
火に燻されてグウェンがすっかり煙臭くなった頃、魚が焼け、グウェンの濡れた肌着も乾いた。グウェンは服を着て、魚をブライアンに渡す。
「熱いから、気をつけて」
フーフーしながら食べる熱々の焼き魚。最高だ。ワインをグラスに入れ、ブライアンに渡し、自分も飲む。
「おいしい」
ブライアンが明るく笑った。グウェンはじっとブライアンを見つめ、口を開く。
「ブライアン。あのとき、あなたを愛することはない、なんて失礼なことを言った。すまなかった。そんな無礼な私の訓練相手になってくれて、ありがとう」
ブライアンは真面目な顔をしてグウェンを見ている。グウェンはワインをガブッと飲んだ。
「結婚がどんなものか、想像もつかないけど。ブライアンがいいなら、いずれ結婚してください」
「喜んで。いつまでだって、待つよ」
ブライアンは心から幸せそうに笑った。
割とすぐ、グウェンとブライアンは結婚した。竜人とヒトの間に、子どもは生まれにくいという話だったが、ものすごく元気な、玉のような娘が生まれた。
グウェンは体が戻ったら、すぐにシルヴィア王女の護衛に復帰し、シルヴィアの度肝を抜いた。
「せめて、一年ぐらいは育休を取りなさいな」
「いえ、もう十分休みました。仕事をしていないと、落ち着きません。それに、娘の世話は、私よりブライアンの侍女の方がうまいのです。そして侍女は竜人なので屈強です。安心して娘を預けられます。私は娘をかわいがる専門でいようと思います」
グウェンはキリッとした顔で、やや情けないことを言っている。
「辛くなったらすぐ休むのですよ」
「はい、ありがとうございます。何かあったら、ブライアンが代理をしてくれます」
グウェンの背後には、ブライアンが立っている。
「シルヴィア殿下、ご安心ください。いつでも妻とシルヴィア殿下を抱えて、飛んで行く準備は整っています」
「ありがとう」
シルヴィアは少し引きつった顔で、おかしな夫婦に礼を言う。
やや脳筋な女騎士と、彼女を溺愛する竜人王子。ふたりに守られて王国は繁栄するのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
2024/7/14頃発売の書籍『断罪を返り討ちにしたら国中にハッピーエンドが広がりました 』に、加筆修正した本作が収録されます。