表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

ポケットの中には

ポケットの中には必ずビスケットが入ってるはず!


子どもの頃からの思い込みかもしれないが、なんかポケットといったらパブロフの犬のように反応してビスケットって言いたくなるのよねぇ。そして叩いたら中身が増えるかもしれないと期待してしまう。

児童曲による幼少期における刷り込みというものは、大人になった今でもここまで影響を与えてしまうんだな。


そんなパブ犬状態の由香里が、叩こうが懇願しようが、ポケット収納の中からビスケットどころかわずかな食べ物すら出てくることはなかった。


「なんで何にも出てこなくなったのよ。さっき飲んだ頭痛薬は、真昼の幻だったの? このグロポケのとんかちポケットめ!」


空間を力任せにエイエイ叩いている由香里を呆れた顔で見ていたポランは、ため息をついて言った。


「クリスぅ、もうやめなさいよ。それでなくても体力が落ちてるのに、もっと疲れちゃうよ」


「だって何か口に入れないと、ここから動けそうにないんだもん」


「もしかしてそのグロポケを使うのに、何かの制限があるんじゃない? 魔法使いは自分のギフトのことがなんとなく勘でわかるんだって。ちょっと落ち着いて、自分のギフトと向き合ってみたら?」


小さな妖精に冷静に説得されて、さすがの由香里もわが身が恥ずかしくなった。


ちょっと興奮し過ぎてたか。でも、このポケットが使えないと、こんな誰もいない何にもない場所でこれから一人でどうしたらいいの。

……そうか、この焦る気持ちがダメなのね。落ち着け自分、深呼吸するんだ。

息を吸って、吐いて~。もう一度、吸ってー、はい吐いてー。


何度もスウハァしているうちに、やっと少し頭が冷めてきた。頭痛薬も効き始めたのか、ズキズキしていたたんこぶの痛みも遠のいてきたような気がする。



クゥ、キュルルルル。

今度はお腹の音が由香里の集中力を削ごうとする。


でも腸が動き出したってことは、身体が元に戻ろうとしているサインだよね。

さ、とにかくギフトへの問いかけを試してみますか。


ポケットさん、ポケットさん。あなたはどうして動かなくなっちゃったの?

目を閉じて静かに身体の中に語りかけてみる。


…………………………………………


しばらくは何もなかった。

ざわめく風の音や、林の方から聞こえてくる甲高い鳥の鳴き声しか耳に入ってこない。


けれど次第に、どこからか頭の中に「なにかわかるモヤモヤ」が染み出てくるような気がした。

これはどういったらいいのか説明の仕様がない、とらえどころのない謎現象だ。


やっぱりポランの言ったとおり、これは「勘」としか言いようがない。


とにかく由香里の勘はこう言っていた。

ポケットは成長していくスキルだ。成人して使用回数や収納容量が増えていたけど、記憶を失ったことで接続箇所が一部リセットされてしまった。


ガーン、マジですか。

もしかして、初期の一日の使用回数は一回とか言いたいんじゃないよね。


……………………


ゲっ、どうやらそうらしい。


そんなことなら、さっき薬じゃなくて食べ物を出した方がよかったのか?

いやいや、頭が痛いと何も考えられないから、薬を出しといて良かったともいえる。


ふぅ~、今更どうしようもないことをグダグダ考えていても仕方がない。


「こうなったら、自力で食べるものを探すしかないか!」


「わっ、びっくりした。何かわかったんですかぁ?」


由香里が考え込んでいる間、暇だったのか、河原の上をふらふら飛んでいたポランが、元の石の上に戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ