源泉
クリスはずっと川沿いを歩いていた。
夕暮れが近づくころには、川幅はどんどん細くなり、とうとうあちこちの岩から染み出す湧き水のようなものになっていった。
でも周りの地形をみると、まだ緩やかに登り坂は続いていく。
「今日はここまでにして、どこか平らな地面を探そう」
少し斜面になっているが、なんとかテントを出すことができそうな広さの場所を見つけたので、邪魔な木を倒してしまうことにした。
ここであの魔剣が大活躍だ。
「まさかこのゴルデスの魔剣をこんなことに使うとは思わなかったわ」
クリスが、ライシャの地で買い求めたこの剣は、ゴルデスという名工の作品だ。
旅に反対したケビンに自慢するためにわざわざ買ったのだが、お金を払う時に躊躇するほど高かった。
ホテルに帰った時に、自己嫌悪に陥った。
ケビンに自分の正しさを見せつけるためだけにこんな散財をするなんて、本当に愚かな人間だ。
でもその時のバカな自分が、今の自分を助けている。
倒した木は、何かに使えるかもしれないので、ポケットにしまっておく。
でも木の根は邪魔なので、ベックが作った土木作業用の魔道具で引き抜いた。
この優秀な魔道具が一台売れ残ったのが悲しかったが、これも手元にあって良かった。
でもベックが作った他の魔道具は、先輩のおいちゃんたちの魔道具と一緒に全部売れてしまったのだから、すごいことだ。あの鼻水垂れのベックが、立派になったよねぇ。
そしてアイミが餞別に持たせてくれたこの分不相応なテント。
アイミは自分たちがクリスを町に呼び戻し、家業を継がせてしまったことを悔やんでいたのだと思う。
「このテントは私の最高傑作よ。壊したりしたら承知しないんだから」なんて高飛車に言っていたが、本当にアイミらしい。
なんだか皆に助けられてるのかな。
さあ、アイミのテントの中に入り、歩き続けた一日の疲れを癒そう。
夕食に、朝獲ってきたアサリの酒蒸しをする。これがなんともいいダシが出ていて美味しかった。上に散らしたノビルやクレソンにも味が染みていて、満足の一品だった。
疲れたのでご飯は炊かずに買い置きのパンを食べた。明日の朝、多めにご飯を炊いておこう。ポケットに入れておけば、いつでも炊きたてだ。
ジージー鳴いている虫の声を聞きながら、ソファベッドに横たわり、クリスは静かに眠りに落ちていった。




