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脱出計画

海から帰り、昼食はゴーシュ(カサゴ)の煮つけを食べた。

ショウガやノビルを入れて、甘辛く日本風に煮たのだが、クリスはライシャで食べた物より美味しいと思った。

前世の記憶がよみがえるというのも、悪くはないな。


昼からは、セリやクレソンなど、今まで採取してきたもので近場に生えていたものをもう一度採りに行く。その後ですべての空き容器に川の水を汲んでおく。


そう、クリスの意識が完全に復活したと同時に、ポケットスキルもすべてが元に戻った。

つまり、この地を離れて旅立てる用意が整ったということだ。


離れる、というのはこのはじまりの草原だけでなく、この(たぶん)も含んでの旅立ちだ。


無謀にもそんな計画を立てたのは、<乗り物>と<魔道具>、それにポケットスキルの存在があったからだね。



クリスには二つの選択肢がある。


⒈ 消極的脱出……ここで細々と狩猟採集生活をしながら、いつか来るかもしれない船を待ち続ける。


⒉ 積極的脱出……今、持っているものすべてを駆使して、外海に挑む。


もう29年間生きてきた由香里としては、世間のわずらわしさのない島生活にも魅力を感じる。ただ、限りなく不便なことと、一人で生活していて怪我をしたり病気になった時のことを考えると、先行きに寂しさを感じる。


島からの積極的脱出には生死をかけた危険が伴う。

海は広い。人が住んでいる土地に行きつくのは、二、三割の確率もあればいい方かもしれない。


けれどケビンや、アイミたちを思い出したクリスには、ほかに選択肢はないし選べない。


ここが島ではないかと思った時、脱出を(ひる)む気持ちも、もちろんあった。

奇跡的に拾った命だ。惜しんでも無理はない。


けれどよくよく考えた時、由香里にしろクリスにしろ「死」への忌避感が前より少し薄れているように思う。

クリスは創造神・思念者がこの世界を造った時の話を思い出していた。


『世界の果てには何があると思う? そこにはすべての魂の集合体が集まっている。集まっているといっても何万もの魂の寄り集まり、というような数の概念はない。すべてが我であり、すべてが個々人でもあるのだ。高次元になると数や時間、距離や物質、自分や他人、そんな目に見えるような現象はすべて超越してしまう。


幸福で心安らかな安寧の地


けれど、どこまでも変わらないその場所では、心の揺らぎも覚えない退屈な状態もまた、永遠の時を得ている。


そこに変化を求めたものが幾人か現れた。

そのものたちは、変化が起こりえる三次元の平原に、宇宙を想像し、星々を造り、生き物をばらまいた。そこで生きる生きものもまた、世界の果てにいる我でありそなたであったのだ。


神の言葉  第一章 創世紀  その一 』



初めて聞く話だったが、異世界で一度死んでいる由香里にとって、何か腑に落ちる、どこか懐かしいものを感じる言葉だった。


この話が真実なら、ここですることは一つのように思える。


愚直に、懸命に、楽しんで、心震わせて、「生きる」ということだ。



これからやろうとしていることは、退屈の対極にある。

さあ、冒険だ。

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