いわゆる
由香里の前で口を開けた間抜け面をして海を眺めているのは、いわゆる『妖精』とかいうものなんだろうか?
いや、頭がぼんやりしてるからまだ夢をみてるのかもしれない。だいたい蝶々の羽をつけた小人が人間の言葉を喋っていることからしておかしすぎる。
「ほぇ~、船から嵐の海に落っこちちゃったんですかぁ。よく生きてましたねぇ」
ボロボロになっている訳を聞かれたので答えたら、のんきな声でそんなことを言われた。
「それは私もそう思う。砂浜で目が覚めた時には、天国に来たのかと思ったし……」
「アハハ、残念ながらここは天国じゃありません。クリスさんが13年間生きてきた世界ですよ」
あっけらかんと笑いながら由香里の方を向いた妖精(仮)は、うんうん頷きながら知った風な口をきいた。
由香里としては、ツッコミどころ満載である。
「……あの、自信満々なところ悪いんだけど、あなた、人違いをしてるんじゃない? 私の名前はクリスとかじゃなくて『由香里』なんだけど。それに、あなたは誰?というか、絶対に人じゃないし……もしかして、妖精、だったりする?」
由香里がそう言うと、妖精(仮)はガビーーーンとでもいうようなショックを受けた顔をした。
「も、も、もしかして、クリスさんは記憶喪失になっちゃったんですかぁ?! 大丈夫ですか?頭とか強く打っちゃったりしたんじゃないですかぁ?」
記憶喪失? んなバカな。
記憶はハッキリしてますとも。
小林由香里、29歳。そろそろ婚活したら?って親に言われて、友達と一緒に街コンに行く途中…………ん?行く途中にどうしたんだっけ…………。
それに、街コンに行くのに船になんか乗らないよね。
由香里の顔色が徐々に悪くなってきた。
「まさか、まさかだけど、私ってとっくに死んで、知らないうちに転生してた、なんてことあったりする?!」
妖精がいるのが現実なら、
これっていわゆる、
異世界転生っちゅうやつなんじゃないですかぁ??