日記
やっと異世界チート物語らしくなってきましたよ!
ポケットからものを取り出すことに、なんとほぼ制限がかからなくなりました。
一日一回が、一日五回になり、あと二日ぐらいは五回の接続制限だと思っていただけに、拍子抜けしたと同時に歓喜しました。
もちろん一番に取り出したのは「作業用手袋」です!
必要不可欠の物だったのに、順番が何度も後ろにまわってましたからねぇ。
手袋を使うと、テントの中にあるストーブに、焚き木を入れ、火を熾すのが超簡単にできました。
ストーブの焚口を覗くと、炎が赤く燃え上がり、木が過ごしてきた最後の輝きを由香里に見せてくれる。
炎って、ホント疲れを癒してくれるなぁ。ずっと眺めてられる。
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しかしいつまでもぼんやりと火を見つめてばかりはいられない。
開け離れたテントの戸口から入ってくる陽の光が、だんだんとオレンジ色になってきた。ずっとヒョーヒョー吹きすさんでいた風は、夕方になるころにやっと静かになり、地平線にようやく落ち着いた雲を海の上にやさしくたなびかせている。
さぁ、夜を迎える準備をしましょうか。
由香里はランプを出し、燃料を入れると、ストーブの焚口からちょっと枝に火を分けてもらって、つまみを回して上げたランプの芯に灯をともした。
光はやわらかくテントの中を照らし、机の上に並べた食材に影を作っていく。
まずは、鴨をオーブンの中に入れてしまおう。
ストーブには引き出し式のオーブンが付いていたので、チャイブやパン粉をお腹に詰め、体にオイルとスパイスを塗りたくられた鴨は、ゆっくりとオーブンの中に入っていった。
ようし、これで後は待つばかり。
お酒でも飲みながら、ずっと気になっていたクリスの日記を読んでみましょうか。
由香里はチーズとクレソンのサラダを皿に盛って手元に置くと、グラスにたっぷり赤ワインを注いだ。そしてゆったりとソファに寄りかかり、ポケットから取り出した日記を開いた。
レスレクシオン. 1の日
復活祭が終わったら、仕入れの旅に出る。
今年は独立の年。記念すべき年の出来事をこの日記に記していこうと思う。
昨日、両親の墓参りをして、アイミにお別れを言いに行った。ちゃっかりお土産を頼まれたが、帰るころには涙ぐんでいた。
遠洋航海にはまだ危険が伴う。私の身を案じてくれたのだろう。
成功を手にして、解散した店の皆にまた戻ってきてもらえるように頑張らなければならない。
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え、重いんですけど。
ものすごい使命感を持って、旅に出た結果がコレですか?
由香里が申し訳なく思っても何も変わらないんだけど、なんかごめん、と言いたくなる。
実は、ポケットからものを取り出すことには制限がなくなったようなのだが、外に出していたものをしまうことが出来なかった。
制限が解除されたっぽいと浮かれて、テントをしまおうとしたらできなかったんだよねー。
だからテントは朝出したまま、ここにある。
クリスの記憶の開放がカギになるんじゃないかと思って、日記を読んでみることにしたのだが、昼間、鴨を狩った時のようなデジャブは訪れなかった。
まぁ、焦ってもしょうがない。
日記を読むのもちょっと怖くなったので、一日分ずつ読んでいくことにしよう。
今日はある意味一つの節目になる。
素直に今の状態を喜んで、ごちそうを食べてお祝いしよう!




