33節 客人(まれびと)
底國 暗寿は鍛錬の一環として腹筋をしていた。
うえは背心、したは短パンのカジュアルなスタイルだ。
全身滝にうたれた後のように、汗でびっしょり濡れていた。
「258……259……260!!」
暗寿はバタッと倒れた。
「お疲れ暗寿さん」
暗寿の視界にニュッと女の子の顔が現れる。
雪のように綺麗な白い肌……では、ありきたりなので、ここは『姫路城の外壁のように綺麗な白い肌』と言おうと思う。
そして、長い髪は肌と同じく綺麗な白色をしていた。
「レイさん」
暗寿は女の子の名前を呼んだ。
「もう終わり? せめて264回まで頑張ればいいのに」
「某新聞社は関係ないでしょ⁉」
「某新聞社ってなによ⁉」
「私もわかりません‼」
暗寿は起きあがる。
白い女の子はレイ。数日前、暗寿の前に現れた幽霊だ。
「レイさん思ったのですが……」
暗寿は空中に浮かんでいるレイの首から太もも(レイには足がない)までに目を向ける。
「なによ?」
レイは訝し気に暗寿を睨んだ。
「なんですか、その恰好は⁉」
レイはいつものブレザー姿ではなく、露臍上衣を身にまとい、丈の短いステテコをはいていた。どちらも白一色、露出が多い。
「あぁ、これ? あたしの私服」
「私服⁉」
レイ曰く、此岸にくる際、彼岸から持ってきたのだと言う。
「なに、なんか悪いの?」
レイの視線がさらに強くなる。
「いや、そういうわけでは……」
暗寿は強く首を振る。
悪いってわけではないのだが……。
露出が強すぎてまともに見れない。
暗寿が自分ではなく彼女が助兵衛なのではないかと思いはじめたときだった。
部屋の扉が大きく開け放たれた。
「暗寿ちゃん」
そこに立っていたのはボブカットの人間だった。
暗寿を下界で匿ってくれた人間、掛上 灯だ。
「どうしたんですか?」
「なんか、暗寿ちゃんの友達きてるで」
「友達?」
下界にきてから友達なんか作ってない(天帝国でも作っていないが)。
「この前のお祭りの時会ったとか言うてるけど」
「お祭り?」
「多分、1か月前にあった制旬(下界の祟り神)祭のことやろ。けど、そん時、暗寿ちゃんはいなかったなぁ」
「はい、いませんね」
暗寿がきて1か月もたっていない。
「暗寿さん」
レイが話しかけてきた。
「もしかすると、明王衆かもしれないわ」
「明王……」
明王は天帝の手先。下界を見張っている。
暗寿がそいつらに見つかったら、かなり厄介なことになる。
「居留守するしか無いわ……」
レイがそう言った時だった。
「おじゃまするでござる~」
知らない黄色い声が聞こえてきた。
「あら、もしかして……」
灯が廊下に視線をやった。
「ここでござるかっ‼」
扉の脇からひょっこり女の子の顔が出てきた。
長い桃色髪と赤い頬が特徴的だ。
「あ、あの……」
暗寿と女の子の目が合う。
「会いたかったでござるぅぅぅぅぅ」
女の子が暗寿に抱き着いた。
「ぐへっ」
突然に体を圧迫されたので暗寿の口から悲鳴が漏れる。
「本当に会いたかったでござる、底國暗寿ちゃん」
女の子は耳元でささやいた。
「赤目の蛇の倒し方を教えて欲しいでござる」
はっとして暗寿は女の子の目を見た。
渦を巻く目がギラギラと怪しく光っていた。
皆様おまたせしてしまいすいません。
35節です。
次回からは諸事情で不定期の投稿になります。
またおまたせする形になってしまい、すいません。