28節 金剛杵(ばさら)
ロウデーヴァタの体の中を落下していく暗寿。
静かにレイの名前を呼んだ。
「レイさん……」
「いくわよ……暗寿さん」
レイの顔が眼前に現れた。
暗寿は逆さまなので、レイの顔が上下反対に見える。
「本当に大丈夫なんですか……?」
レイは首をコクっと動かした。
実は暗寿が地面に倒れたときに、レイが話しかけていた。
そこで、“一発逆転の作戦”を教えられた。
「そうしないと死んじゃうじゃない。あたしの仲間入りね」
「そうしますと、猊下を殺せなくなりますね……」
「まだ、言ってんのそれ?」
「だって、猊下を殺すために私に近づいたんですよね?」
「えぇ……まぁ、それもあるけど……」
「私は猊下を殺すための道具なのですよね……。ならば、家に帰ってまた鍛錬をしないと……」
暗寿さん……。レイが寂しそうにつぶやいた。
「……わかったわ。じゃあ、早速だけど、口を閉じてくれないかしら」
はい。と暗寿は口を閉じた。
レイはすっと暗寿に顔を近づける。
やわらかい感触が唇に広がった。
「んんん……!」
なんと、レイの唇と暗寿の唇が密着していた。
暗寿が起こったことに気がついたときには、すでに離れていた。
衝撃の余り声がでなくなる。
こ、これって、チュウ……。
暗寿は口を開いて顔を赤くする。
そこからレイが暗寿の中に入った。
憑依に慣れたのか、すぐに体は主導権をレイに渡した。
「『解脱』!」
レイがそう叫ぶと、体に巻きついていた鎖が体から離れた。
『解脱』は使用者を束縛から解放させる神通力。
レイ(暗寿)の体を縛っていた鎖も束縛の1種である。
だから、『解脱』が効いたのだ。
自由になった暗寿。その口からレイが吐きだされた。
暗寿の体の拒否反応で締めだされたのだろう。
レイは苦しそうに笑顔を浮かべ、暗寿にウィンクした。
暗寿は右腕の義手を外してうえ(ロウデーヴァタの頭)の方に断面を向けた。
「『金剛手』」
絶体絶命だったからか、今まで感じたことがない強さの雷電が、体の至る所全てに流れた。
肌が、毛が、(左の義手も)金色に煌めき、体中に象形文字やレリーフが浮かびあがる。背中や頭からは卒塔婆や武神像が沢山生えてきた。
ビリリッと右腕の断面から小さな電気が放射したかと思ったら。
「『大金剛因陀羅』ァァァ‼」
体中の電流が全て、右腕から一直線に放たれる。
それは空に向かって落ちていく稲妻のようだった。
雷撃が激烈な勢いでロウデーヴァタの頭に到達する。
「ぐぅあああぁぁぁぁ‼」
ぶっしゃあぁぁああああぁぁ‼
稲妻は頭を丸ごと溶かした。それと同時に電流の放出が途絶える。
体も元に戻った。
「レイさん……やりましたよ……」
「えぇ……やったわね……」
どんどん意識がなくなっていく。その狭間で、暗寿はレイの姿を目に焼きつけた。