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金剛天帝 Vajra Deva Indra  作者: クロイオウエンカ
第2降臨到較下界品(こうりんとうかくげかいぼん)
15/34

15節 道具(どうぐ)

 部屋に取り残された暗寿とレイ。

 暗寿は腕にはめられた鉄の腕をジィーと観察していた。

 金属特有の光沢。そして(にお)い。

 元の腕とは一味も二味も違うが、腕が戻ってきたようで嬉しかった。

 まぁ、動かないんだけど。

「ちょっと、いいかしら?」

 レイの顔が鉄の腕をすり抜けて現れる。

 義手はすり抜けるらしい。

「わっ!」暗寿は驚いた。

「底國さんに2つ提案があるんだけど?」

「て、提案ですか……?」

 今までの経験上、若干嫌な予感がした。

 (いぶか)()な視線をレイに向ける。

「そう勘繰(かんぐ)らないの。あたしも底國さんが眠っていた3日間、色々考えていたんだから」

 プンプンとレイの頭から湯気がでていた。それが、なんか可愛く見える。

 レイは咳ばらいをして説明をはじめる。

「1つ目の提案はズバリ、神通力の炎症を抑える方法よ」

「炎症を抑える……?」

 暗寿は首を傾げる。

 暗寿は神通力を使うと、体にものすごい痛みが流れる。

 レイ曰く、暗寿の体に神通力が馴染まなくて炎症を起こしているとのことだった。

「まず、底國さんの(しゅ)となる神通力は、『金剛手(ヴァジュラ・パーニ)』よね」

「えぇ、まぁ……」

「その能力は、『体の中で電気を発生させ、電流として体中に流し、肉体を強化する』であっているかしら」

 正直、自分の力で神通力を使ったのは1回ポッキリだったのでわからなかったが、つい首が頷いてしまった。

「そこでね、思ったんだけど。炎症を起こした原因って、体が馴染まなかったていうのもあるけど、電流を流し過ぎたってこともあるんじゃないかしら」

電流の流し過ぎ……。

「電流を全て体の一部にだけ流す『金剛殺死掩蓋ヴァジュラ・ヴリトラハン』を使った後、電流を流した部分がかなり痛くなっていたじゃない」

 そう言われるとそんな気もするような。

 確かに、廃墟では右腕がかなり痛くなっていた。

「でね、ここからが提案なんだけど。発生した電流をいきなり全部、流すんじゃなくて少しずつ流していくのはどうかしら。そうすればある程度は炎症を抑えられると思う。それを繰り返していくことで、神通力も体に馴染むだろうし、電流を沢山流したときも炎症が起こらないようになるかもしれないし」

 確かにそうすれば、炎症を抑えられそうであるが。

「そんなことできるんですか?」

「『金剛殺死掩蓋ヴァジュラ・ヴリトラハン』ができたのだからできるわ。多分、発生した電流はある程度自分の意志で動かせるわ」

 それもそうかもしれない、と納得しそうになる。

 実際にやってみる価値はあるかもしれない。

 むしろ、実際にやってみたくなった。

「で、2つ目の提案なんだけど」

 暗寿が神通力を使う前にレイが話しを進めた。

「……」

 なにも言わず、レイが暗寿にゆっくりと近寄ってきた。

「今度はなんでしょうか……?」

 レイから離れるように少しずつ後退する。

 まだ、暗寿は顔をこねられたことを根に持っていた。

「取り憑いていいかしら?」

「え、あっ、はい……」

 暗寿が口を半開きにすると、レイがそこからシュルシュルっと暗寿の中に入っていった。

 その光景は蛇が穴の中に入っていくようであった。

「よし、久しぶりね」

 暗寿の口からレイの言葉がでる頃には、体の主導権は完全にレイが握っていた。

(で、なにをするって言うんですか?)

 心の中で暗寿がレイに問いかける。

 レイは無言で両方の鉄の腕を見つめて、『金剛手(ヴァジュラ・パーニ)』と唱えた。

 すると、鉄の指が動きだした。

(わっ……動いた!)

 指はしばらく動くとピタッと固まって動かなくなった。

 レイがまた『金剛手(ヴァジュラ・パーニ)』を唱えると、再度、指が動きだした。今度は指だけではなく、手首も動いている。それはまるで本物の手の動きのようだった。

「もしかしてと思って、義手に電流を流したの。そしたら、見事に大正解。義手は自由に動いたわ」

 マジか。

 これまで通りの生活ができるってことじゃないか。

 よし、これはいい知らせだ。

 暗寿は心の底で目を輝かせていた。

 その口からレイがにゅっとでてくる。

「つぎは底國さんがやってみなさい」

 体の主導権を取り戻した暗寿。

 早速、『金剛手(ヴァジュラ・パーニ)』を唱える。

 体の中で電気が発生した。

 暗寿はその電気に意識を集中させる。

 量を調整しつつ、電流を義手に流していく。

 しかし、義手は動かない。

「レイさん、動きませんよ」

 暗寿から不満の声があがった。

「底國さん。神通力はイメージよ。義手に電流を流すとき、どんな感じに動かしたいか想像しないと動かないわ」

 そういう原理だったのか。

 どんな感じに動かしたいか……。

「わかりやすいジャンケンのチョキにしてみます」

 暗寿は頭の中でジャンケンのチョキを思い浮かべた。

 指を2本立てて、それ以外を全て曲げる手の動き。

 そして再び、腕に電流を流した。

 両手の指が動く。手は(かに)(はさみ)のようなポーズを取る。

 しかし。

「あら、ひねくれているわね」

 レイから笑い声があがった。

 確かに、暗寿の両手は指が2本だけ立っている形を作っていたが、立っている指は中指と薬指だった。

「えぇ! どうしてでしょう!」

 ちゃんと頭の中で思い浮かべたはずなのに。

「底國さん、もしかして指が2本立っているところにしか注目してなかったんじゃないかしら」レイは指摘する。「ちゃんと立てる指も考えないないとダメなのよ」

「そこまでシビアなんですか……」

「脳だって体の1つ1つに指令をだしているんだから」

 脳が無意識でやっている処理を、1つ1つ意識的にやっていかなくてはならないのか……。

 いくらなんでも面倒すぎる。

「まぁ、慣れると普通にできるわ。今日から特訓(とっくん)ね」

「特訓ですか……」

 そんな予感は薄々(うすうす)感じていた。

「なにビビッてんのよ」

「ふぇっ?」

 暗寿の背中をレイがバッと叩いた。

 気合を入れたつもりだったのかもしれない。

「底國さん。一緒に御修羅に殺しましょ。天帝の座にはあなたがお似合(にあい)いよ」

 暗寿の頭に先程のレイの言葉がよぎった。

『御修羅を殺せなくなっちゃう……』

 その言葉さえ聞かなかったら、暗寿はつまらない気持ちにならなかったのかもしれない。

「………………」

(天帝という言葉を(えさ)にたらせば私が食いつくとでも思っているのでしょうか)

 暗寿の怒りがグツグツと煮えたぎる。

 ブクブクと心の鍋を満たす感情に泡が浮かんできた。

 この様子だともう少しで沸騰(ふっとう)しそうだ。

(わかりました)

 暗寿は優しく目尻(めじり)をあげて、レイを見据(みす)える。

 鍋がガタガタガタガタと揺れてドバァと熱湯が噴きだした。

「じゃあ、やってやりましょう、2柱(ふたり)で」

 どっち道、母親の仇はとりたいと思っていた。

 向こうがこっちを道具だと思っているなら、こっちも向こうを道具だと思おう。

 御修羅を殺すためにレイを利用してやる……道具として……。

(けど……レイさんは私の恩人ですし……。道具だなんて……)

 い、いや、絶対に道具として利用してやる……。

 け、決定……。もう決めたから……。

 頭の中を右往左往させている暗寿を尻目にレイは暗寿を見つめてにんまりと笑顔をつくった。

「そうこなくっちゃ」


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