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金剛天帝 Vajra Deva Indra  作者: クロイオウエンカ
第2降臨到較下界品(こうりんとうかくげかいぼん)
11/34

11節 貴人(きじん)

 下界の極東(きょくとう)に位置する“東方葦原王国とうほうあしはらおうこく”。

 国土は多くの島々で構成されている。その中で王が支配しているのは、王都“央阪(おうさか)”とその周辺の“冠西(かんさい)”と呼ばれている地域のみだった。他の地域は名目上、王の配下である貴族たちに治められていた。

 貴族たちの領土は独立した国のようで、それぞれに軍隊や別な法律を持っている。唯一、変わらないことと言えば、貴族が専制君主として、強い権力を持っているぐらいだろう。

 そんな専制君主の1人、北東の地“善台(ぜんだい)”を支配する善台伯爵(ぜんだいはくしゃく)(ふいご) 桜花(おうか)哀愁(あいしゅう)に満ちた面持(おもも)ちで飾り窓の外を見ていた。視線の先には瓦礫に下敷きなった愛車があった。

 年代物のレトロな電気自動車だ。

 なんでも、伯爵領中に空から瓦礫が降り注いだらしい。車以外にも広い庭の花壇だったり、離れにある小屋だったりが瓦礫の下敷きになっている。

 そんなことよりも、伯爵にとって愛車がぺしゃんこになったことが1番のショックだった。今年で36になる伯爵だが、長年(ながねん)()()った愛車がスクラップになるのは、いくら歳をとっても耐えられなかった。思わず背広(せびろ)のまま、書斎(しょさい)のソファに寝転がり涙を流す。眼帯をつけた右目からは涙が流れなかったが。

 コン、コン。

 書斎の扉が音をたてる。

 伯爵はハッとした。

 急いで乱れた背広をなおし、「どうぞ」と呼びかけた。

「兄さま……。いえ、閣下(かっか)

 誰かが入ってきた。

 伯爵が扉に目を向けると、そこには背広を着た太い眉の女性が立っていた。右目には伯爵と同じく眼帯をつけている。

 彼女は鞴 菜花(なのか)。善台伯爵の腹違いの妹。仕事は伯爵の秘書をしている。

 その腕には紙の(たば)(かか)えられていた。

「菜花か。それは?」

 菜花は、紙の束を伯爵に(わた)した。

「例の資料でございます。今、お届きになったようで」

「ほぉ。やっとか」

 伯爵は資料に目を通す。印刷された活字や、白黒の写真やらが一面に()め込まれていた。1番うえの表題には『鉄の神(ロウデーヴァタ)計画』と書かれていた。

「もう1つ。雨形公爵(あまがたこうしゃく)閣下から手紙が届いております」

親父殿(おやじどの)……いや、公爵閣下が……?」

 雨形公爵は善台の西隣、雨形を支配している貴族だ。

 伯爵や菜花の実父にあたる。

 菜花から封筒が渡された。封筒の表面にはなにも書かれていなかった。

 中身をだしてみると、数枚の紙がでてきた。

 活字が書き連なっていることから、なにかの資料なのがわかった。

 1番うえの紙を手に取って読んでみる。

 菜花も横からのぞいていた。

 読み終わると菜花から、声があがった。

「ふぅん。“第弌号道路(だいいちごうどうろ)”までだしてくるとは」

 第弌号道路とは雨形と善台を結ぶ道路の1つ。最短距離であるため、他の道路よりも車通りが多く、その関税(かんぜい)で得られる収入も大きい。

 雨形公爵の所有物であり、公爵領の主要な財源の1つになっている。が、手紙にはそれと、善台伯爵が所有する“あるもの”を交換して欲しいと書いてあった。

「感心はしますが、公爵閣下の考えの(あさ)はかさが目に見えるようです。これはわたくしめが雑紙(ざつがみ)置き場においてきます」

「いや、待て」

 資料をまとめようとする菜花を伯爵は制止した。

「何故です? もしかして、道路が欲しくなったのですか?」

「違う、違う」

 伯爵は首を振りながら口角をあげた。

「せっかくの機会だ。からかってやろう。閣下の阿呆面(あほうづら)(おが)めるかもしれんぞ」

「なにを企んでいらっしゃるのやら」

 菜花は呆れた視線を伯爵にむける。


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