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魂鎮めの巫女は祓わない  作者: 初月みちる
第二章 咄咄怪事
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迸る求知

いつもより長いです。まだまだ長いパートは続きます。

「なるほどな……ミシャグジ様は建御名方命に負けたのを恨んでいないと……まあそうだろうな。祠も残っているし、大国主命みたいに囚人同然の扱いを受けていないし」


武瑠の気迫に負けて洗いざらい話した幽子。今は真っ赤になって俯いている。


「お前が依代を正確に当てたのは、ミシャグジ様が小学校低学年の男児の姿で現れたからだったんだな……」


流石に年齢までは言い当てることはなかったが、妙に正確だった理由は理解した。正直当てられた時は本当に驚いたものだ。


「祟り神って言われてたのは嘘だと思いたかったわ。日本神話の神様の祟りとミシャグジ様の祟りは違うもの」


武瑠は頷いた。


「それにしてもお前、ミシャグジ様と縁が出来たのは別にいいが、まさかキスしてたとはな。お前がさっき変だったのはこれのせいか」


射抜くような瞳を向けられて、幽子はたじたじとなる。


「お、怒んないでよ。というか何で怒ってんのよ」


武瑠はため息をついた。


「お前が唇に手を当てて顔を赤くしてたらそういうことをしたって疑うのが普通だぞ」


「答えになってないわ!」


しかし全て話してしまうと急に二人はぎくしゃくし始めた。しつこく武瑠が縁結びについて追及するせいである。


「どう考えてもお前、その反応ならミシャグジ様に惚れてるだろうが……」


(だから何でそうなるの!)


「惚れてません! というかミシャグジ様よ? 神様よ? ミシャグジ様がそんな邪なこと思うはずないのよ!」


あの混じりけの無い笑顔が眩しい。何故かすぐにミシャグジ様に会いたくなった。


「本当か? 惚れてないんだな?」


ずいっと顔を近づけてきた。顔の前で両手を激しく振りながら叫ぶ。


「惚れてないわよ。というかそんな人なんていないわ」


何故かそこで晴れやかな笑顔をされた。鳶色の瞳が優しげに揺れる。一体さっきの言葉のどこに満足のいく要素があるというのだ。


(何でそこで笑うのよ。しかも胡散臭くない本当の笑顔で)


「そうかそうか。ならいい」


「何でさっき怒ったの?」


訝しんで幽子が聞いたがはぐらかされた。面白くない。


「いや、俺の勘違いだったから」


「……ふーん?」


一転して上機嫌になった武瑠を疑惑のこもった目で見ている幽子。瞳に猜疑心が見て取れる。


(まあ怒ってないし、何か嬉しそうだからいいか)


「あ、そういえば私と天野君は縁が深いんだって。大国主様が教えてくれたよ。だから下社で建御名方命の声が天野君にも聞こえたんだって。建御名方命は武神だから天野君に共鳴してるのもあるけど」


「は? そんなやり取りがあったのか? もっと早く言えよ」


口調はぶっきらぼうだが上機嫌なので武瑠の声に棘はない。それどころかさっきよりも嬉しそうだ。


「なるほどな。封印する側は霊力を通しながら施すから何かしらの縁が出来てもおかしくないみたいだ」


「そんなものかな……」


幽子は考え込んだ。それを見た武瑠は、思わず声が低くなり、鳶色の瞳が陰る。


「何だよ。俺と縁があるのが嫌なのか?」


(だから何でそうなるの……)


先程から怒ったり笑ったり忙しい人だ。そのうち百面相しながら歩きそうだと幽子は思った。


「……嫌じゃないわよ」


武瑠の凄むような視線が怖くなり、幽子はしどろもどろに告げる。


「そうか。それならいい」


だがやはり上機嫌なのは変わりない。クラスに居る時のように貼り付けたような笑みを浮かべている武瑠を見ているよりもずっと今のような笑顔の方が好感が持てる。


「なあ、九鬼。お願いがある」


「な、何? 私にできることなら……」


これはまた唐突な発言である。武瑠の話は時々脈絡がない。あまり人のことを言えた立場ではないのだが。


「毎日お前に封印を施す直前にお前の霊力を俺にくれないか?」


何が来るかと身構えたが、幽子にとって簡単なことなので肩透かしを食らった気分になる。


「あ、そんなことならいくらでも。毎晩お世話になってるし」


ふっと笑うその顔に釘付けになった。手品で取り出したかのような極上の笑みだった。


「ありがとな。お前の霊力は力強くて優しいからどうしても欲しくなるんだ」


「なっ……」


そんなことを言われるなんて露ほども思っていなかった幽子は瞬時に首までゆでダコのように赤くなった。思わず両手で顔を覆うが、耳まで真っ赤なのは隠せなかった。


「期待してるぞ。ほら、あれが上社本宮だ」


もうこれ以上追及されまい。タイミング良く目的地についたことを幽子は本気で感謝した。






「建物多い気がする。やっぱり本宮は違うね」


白い石でできた立派な鳥居を目の前にして上社本宮の全体図を広げて顔を突き合わせる。本宮にはざっと十以上の建物が存在しており、そのいくつかは重要文化財に指定されている。


「参道もなんか3つくらいあるし、規模からしてさすが一之宮って感じだな」


白い鳥居の建っているこの参道は北参道と呼ばれている。一番大きな参道らしいがこちらが正門と言うわけではないらしい。


「正門じゃないのかここは……でも広いからここからだと回りやすそうだな」


「そうだね。立派な狛犬さんもいるし、ぱっと見こちらが正門っぽい」


特に回る順番にこだわりを持たない二人は北参道から幣拝殿を見るルートを選んだ。鳥居をくぐって左側に手水舎があり、そこで清めようとしたが、


「ん? かすかに硫黄の香りが?」


あるはずのない匂いが鼻腔を僅かにくすぐる。もしやこれは……


「温泉? が湧いてるの? ここも?」


「そうらしいな。どうせなら温泉で清めたい」


手水舎の右の小さな手水舎に目が行く。手水舎と呼ぶにはだいぶ小さい。せいぜい一人でしか清められないような大きさだ。柄杓が二つあるのでぎりぎり二人で清められそうだがだいぶ狭くなるだろう。狛犬か獅子か不明だが何かしらの獣を模した小さな石像の口から硫黄のかすかな匂いと共に湯気の立つ液体がちょろちょろと出ていた。


「わーい! 温泉手水舎!」


予期せぬ出会いに思わず口元が緩む。明神湯と呼ばれるその手水舎の温かい湯に感動しながら清めたら、その先に大きな御柱が見えた。


(あれ? 色違う)


他の神社の御柱はもっと灰色がかった色をしていたがこちらの御柱は茶色い。木の種類が違うのだろうか。かすかに眉をしかめて一周してみる。


(あれ、裏側が削れて平らになってる)


正面からは分からなかったが裏側が平らになっていることに気づいた。色といいこの有様といい、他とは一線を画しているようだ。


「ここの御柱だけは樹皮を剥がないで生木のまま運ばれるぞ。通常御柱は祭の一年前に伐採されて皮を剥いで準備するんだが、本宮だけは切りたての木を使う」


武瑠の説明に得心がいく。生木は重たくて運ぶときに重さで削られて平らになるのだな、と。


「えっ、そうなの? ああ、だから色が違うし後ろが削れてるのね……」


格が違うからだろうか。まさかそんな所で違いが見つかるとは思わなかった。


「九鬼、面白いものを見せてやるよ」


ニヤニヤしながらこちらを見る武瑠。手を引かれてついていくと神楽殿などがある建物ではなく社務所のある方角へ足が向いた。社務所って何か面白いのかと疑問に思ったが、武瑠が向かったのはその近くにある木でできた鳥居だった。


「なんじゃこれ」


そう口にするのが精一杯だった。北参道の鳥居には劣るがどっしりとしたその鳥居には何と鳥居を支える足がついているのである。何だか厳島神社にある大鳥居を連想させた。そこまで大規模な物ではないのだが造りがそっくりである。


両部鳥居(りょうぶとりい)という形式だ。かつて湖面がこの近くまであったから水に浸かる前提で建てられたらしいぞ」


「え、湖面までだいぶ距離あるのに! ってことは昔は諏訪湖って今よりも大きかったんだ。まあ神代は諏訪の海って呼ばれてたみたいだし……」


(厳島神社は平安時代の建物だけど……鳥居が水に浸かっている前提で建てる技術はそのさらに昔から存在したのね……)


幽子は古代人の技術力の高さに感嘆のため息を漏らした。


「さすが古代人ね。まだまだ知らない技術とか失われた技術って意外に多いのかもしれないわ」


「な? 面白いだろ?」


歯を見せて笑う武瑠。よくこんなこと知ってるなと思ったが、朋樹か陽子が色々と武瑠に教えたからかもしれない。


「ええ。まさかこんなものがあったなんて……それにしてもよく知ってたね」


「兄貴に聞いたんだ。九鬼に聞かせる面白い話をな」 


(え? まさか私のため?……いや、ないでしょ)


頭を猛烈に振る幽子。今日は何だか情緒が安定しない。それもこれもミシャグジ様と武瑠のせいである。


「兄貴の方がもっと詳しいガイドしたと思うがな」


「え? それは違うと思うけど」


いきなり目を逸らされたが、幽子が否定したことにより再び目が合う。武瑠の瞳に戸惑いが見て取れた。


「割りかし楽しんでるよ? 天野君のガイド。それに私は朋樹さんにガイドしてもらったことはないわ。なのにどうしてそう言い切れるの?」


答えない武瑠にさらに言い募る。


「確かに天野君は人に何か教えるの苦手って感じはするけど、私は嫌なんて思ったことないよ? 自信持ちなよ。教え子か弟子だか何だか分からないけど教えられてる本人がそう言ってるんだから」


息を呑む武瑠。至って真剣な幽子は真っ直ぐに武瑠を見つめていた。


(反則だろ、それ……)


片手で顔を覆ってため息をついた。今日は幽子に振り回されっぱなしだ。それもこれもミシャグジ様に幽子が会いに行ったせいだ。


(余計なことを、って思ってたが少しだけ感謝しよう)


「……ありがとよ」


やっとの思いで声を絞り出す。苦し紛れに聞こえたのだろう、心配そうな視線が先程から感じる。


「よし、じゃあメインの神楽殿とか幣拝殿に行くか」


「……う、うん……」


やっぱり今日の武瑠はどこか変だ。追及したいところだがはぐらかされそうな予感がひしひしとする。


(ほとぼり冷めてからでいいか)


再び手を引かれてさっきの御柱まで戻ってくる。


「御柱の後ろを見てみろ」


「あれ、そういえばこれ何だろうね」


御柱の観察に夢中で目に入っていなかったらしい。縄と幣がかかっている岩壁の手前に盛り上がった岩がある。その左側には石でできた細長い物が刺さっていた。


「右が御沓石(おくついし)、その脇には「天逆鉾(あめのさかほこ)突き刺さっているぞ」


「すごい! なんか神話に出てきそう! その、天逆鉾とか。天沼矛(あめのぬぼこ)に似てる?」


「少し違う。日本神話じゃなくて中世にできた神話に天逆鉾が出てくるな。中世は仏教も広まっていた時代で天沼矛の解釈が変容して天逆鉾という形で広まっていたとか。ここだけじゃなくて高千穂山の頂上にもあるらしいぞ」


(昔からあった訳じゃないのね)


「不思議な物があるのね……諏訪大社って神仏習合だっけ?」


「どうなんだろうな。建立当初はそんなことなかったと思うが、後々どこかのお寺と習合したとしても何ら不思議ではないな……」


「神仏習合多いよね。延暦寺も日吉(ひえ)大社と習合してるし……」


「そうなのか? ……ああ、だから室町時代とか戦国時代に延暦寺の僧兵は神輿を担いで強訴してたのか。何でお寺が神輿かつぐのか全然分からなかったがそれなら納得がいくな」


「神仏習合かどうか陽子さんに聞いてみよ」


やはり彼女の好奇心と洞察力にはついていけない。何とか追い縋っている気がしてもどかしい。


「あ、お相撲さんの銅像だ」


目の前に階段があるのにそちらには目もくれず、左側へと足を進める幽子。奇しくも全ての神社で左回りでの参拝をすることになった。


「雷電為右衛門さんって言うのね。信州の名力士……」


余程偉大な力士だったのだろうか。銅像まであるとはかなりの実力者だったに違いない。説明書きの看板のすぐ下に彼の手形があるがその型の大きいこと。自分の手の二倍以上は大きい。


「相撲の発症地は案外諏訪かもしれないな」


武瑠が呟く。完全に思いつきだったが幽子は食らいついてきた。


「そうかも! 建御名方命は武甕槌命と力比べしてたし、十分あり得ると思うの」


「なるほど。力比べで相撲か……筋は通りそうだ」


(知らないことが多いな……姉貴に聞くか……)


力士の像の後ろに何やら池が見える。清祓池と言うそうだ。池の中央には二羽の鶴がいる。


(鶴って北海道にいるものだとばかり思ってたわ……)


古代には諏訪にも存在したかもしれない。それか神様が鶴に化けていた可能性もある。


(駄目ね。分かんないわ)


「お、池の後ろに酒樽が」


下社春宮で見た酒樽も何故か鎮座していた。全く下社春宮にあった物と同じである。


「陽子さん喜ぶよね。でもお酒買えないしなあ……」


お酒を堂々と買えるのは陽子だけである。


「別に酒じゃなくても、お前がくれるなら何でも姉貴は喜ぶだろうよ。あいつは妹が欲しかったんだからな」


「そうだったのね。だからあんなに良くしてくれるのか」


(それだけじゃないと思うがな……)


最後の呟きは武瑠の口の中で消えた。


清祓池をそのまま進むと五穀の種池があった。説明によると農家の人々が種もみの浮き沈みで豊凶を占ったと言われる池と書いてあったが、水溜りくらいの大きさしかなかった。ちなみに周りを木の柵で囲まれて入れないようになっていた。


(そりゃそうだ。こんなに小さいんだから水溜りって勘違いされるもんね)


「ちゃんと残してあるんだな。やっぱり作物のことは死活問題だから必死になって当たり前か」


こういった小さな物も残っているのは素晴らしいことだと思う。見落としかけたとしても、かつては重要な神事がここで行われてきた証左なのだ。必ず誰かが価値を見出している。種池の向かいには上社本宮の案内図があり、なんと親切に順路が矢印で書いてあった。どうやら今回っているのは正規ルートではないらしいが、真っ直ぐ拝殿に向かう矢印でなく、左回りに大回りして拝殿を見るルートを示してあった。ほぼこの矢印通りに参拝してることになる。


(神社って左回りが正解なの?)


出雲大社も確か左回りで参拝した気がする。左上位だからかなと幽子は予測した。


「たまたま左回りに来たが正規ルートとほぼ被っていたとはな……途中で社務所方面に行っていたが」


「ホントだねー。案外左回りが神社の正規ルートかもよ。左の方が上位って考えがこの国にはあるし」


しかし上社本宮は敷地が広い。まだ下半分全て回っていない。細かいところも見ているからかもしれないが、あまりのんびりしていると今日の帰りに間に合わないかもしれない。残り時間はあと1時間くらいか。


「一理あるな。何をもって正規とするかは分からんが……」


「特に理由ないかもね……何か気になった物を見かけたらふらふらと足がそちらに動くからあんまり気にしたことないー」


出雲大社ではがっつり正規ルート通っていたことは内緒にしておこう。

さらに先に進むと右手に天流水舎(てんりゅうすいしゃ)と呼ばれる建物が見えた。どんなに晴れた日でも雫が三滴、屋根の上の穴から落ちると言われている不思議な場所である。小さな狛犬が天流水舎の側にちょこんと鎮座して何だか可愛らしい。


「水が落ちてるんじゃなくて下から湧いてたりして」


何気なく言ったのだが武瑠が笑いを噛み殺したのを幽子は見逃さなかった。


「え? そんなに変なこと言った?」


「俺笑ってないぞ。自意識過剰だな」


「嘘ばっか。笑いを堪えて変な顔になってたよ」


(ちくしょう、バレたかよ)


幽子は変なところで鋭い。颯太もそんな人だったなと今更ながら思った。自分の機微には疎い癖に他人の機微には敏感なところもそっくりだ。幽子は怒るかもしれないが、二人は間違いなく血縁関係にある。


「先に拝殿を見るか? それとも神楽殿にするか?」


話を頑張って逸らそうとした。幽子がむくれなければいいが。


「ん? ……えーっと、じゃあ神楽殿で。大きな注連縄見たい!」


5秒ほど迷って神楽殿を選んだ。個人的には幣拝殿の彫刻も好みだが、神楽殿のあの独特な建物や雰囲気の方が趣があって好きだ。


「ここの神楽殿は注連縄ないぞ。その代わり別の物が見られる」


神楽殿を選んでくれて助かった。神楽殿は天流水舎の向かいにあるのだ。拝殿が先なら階段を登らなくてはいけない。


「え、そうなの? そこは上社と下社の違いかな。何か楽しみ!」


同じではないのが残念だが、違いを見つけるのもまた一興だ。

天流水舎の向かい側が神楽殿は江戸時代後期に建立された建物だ。古い建物に見えるが下社の神楽殿よりは新しいかもしれない。大変大きくて立派な建物で、下社の神楽殿のように障子で閉ざされておらず、中が見渡せた。


「あ、神楽殿に大きな太鼓が! かなり大きいね! 普通の太鼓の何倍の大きさかな」


周りをぐるりと回ると太鼓の側面に龍の絵が力強く描かれているのが見て取れた。何やら文字も書いてあったがよく読めない。


「あれは大太鼓だ。あれには一枚皮が張られていて一枚皮の太鼓では日本最大級らしいぞ。直径は約1.8メートルもあって、元旦の朝にだけその音色が聞けるんだとか」


直径が幽子の身長よりずっと大きくて驚く。ひょっとしたら武瑠の身長と同じかそれ以上の大きさを誇っている。


「え、あれ一年に一回しか鳴らないのか……もったいないー。除夜の鐘じゃなくて年明けの太鼓なんだね。一年の始まりにはぴったりかも」


張り詰めた冬の空気を破るが如く、力強い音色が轟いて一年の始まりを告げる大太鼓は確かに神楽殿にあるのにふさわしい。


「てっきり神楽殿でお神楽の拍子を取るのに太鼓を鳴らすのかとばかり思ってたよ」


「お神楽に太鼓はたぶん使わないんじゃないか……? 神楽殿で実際にお神楽を舞う巫女はいたと思うが」


幽子のイメージ通りに想像してみたが、何だかしっくり来ない。太鼓の音色はお腹の底に響くのでお神楽にはふさわしくないだろう。


「いたっ」


考えに耽っていたが幽子の小さな声で中断された。


「傷が痛むのか?」


少しだけ、と返答があった。幽子の手を取り、もたれさせる。


「ベンチがないからこれで我慢してくれ」


武瑠の不器用な優しさがありがたい。せっかくなのでお言葉に甘えよう。先程からピリピリと膝裏が存在を主張してきてかなり辛かった。


「ありがとう。天野君は優しいね。ちゃんと怪我を」


幽子の声はお腹に響く低音でかき消された。



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