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 時速700キロで走る仙人は、峨眉山(がびざん)の中腹でピタリと停止しました。


 幅の広い一枚岩、見下ろすと崖っぷち、バックは山肌の絶壁です。


 そして左右には、ダンベル、バーベル、トレーニングベンチ等々、筋トレ器具が揃っております。


 空には、北斗!


 北斗七星がみかんみたいに、不吉に光ります。

 そして松の木がゴウゴウと、音を立てて揺れます。


「ここがオレの寝床、そして向かいの山頂を見ろ、あー、霞がかって見えないかもしれんが、立派なジムがある。」

「ジムですか!?」


「そう、セイオウボジム。マシンもプールもプロテインバーも完備、時代を先取りしたジムだ!」

「なんと!」


 そう、トレッドミルもアブドミナルもあるのです。


「今からボスに挨拶して来るから、その間、ダンベルを持っておくといい。」

「わかりました。」


「この辺にはモンスターがたくさん生息しているから、襲われたら黙って殴るといい。」

「殴るんですか!?」


「そうだ。力こそパワー、交渉は甘え。雑魚モンスターにすら殴り勝てないようでは、とうてい仙人にはなれないと思え。」

「はい、わかりました!」


「そうか、それを聞いて安心した。では、行ってくるぞ!」



   ダダダダダダダダダダダダダダダダ



 鉄冠子(テツカンシ)はガッツリとした山肌を、あっという間に駆け抜けてしまいました。



  ヒュー……



 杜子春はたった一人、岩の上に立ったまま、静かにダンベルカールを始めました。


 一時間後、全身がじんわりと筋肉痛になった時、突然、空に声が上がって、


「そこにいるのは何者だ。」


 杜子春は、静かにダンベルを下ろし、深呼吸をします。


 虎です!


 らんらんと目を光らせた虎が一匹、こつぜんと岩の上におどりあがって、杜子春をにらみつけながら、ひと声高くたけります。


 そして頭上の松の葉がざわざわ揺れて……


 蛇です!


 消防車のホースよりも強靭な大蛇、炎の舌をチラチラさせて、降りてきます。


 杜子春はしかし平然と、眉毛も動かさずに立っています。


 虎と蛇は睨み合い、やがて一斉に飛びかかります!


 虎に噛まれるのが先か、蛇に噛まれるのが先か……



   ガブッ ガブッ



 噛まれたッ!!



 これは痛いッ!!!



 ……



 よく見ると、無傷ッ!



 圧倒的、無傷ッ!



 霞プロテインを吸った杜子春は、鉄人ッ!!



 杜子春の肌は、新品の冷蔵庫のようにツヤツヤだぁ!


 対して虎と蛇には、ヒビ! 牙に亀裂が入るッ!!



「ふんっ」ボコボコ

「「 ぎゃー 」」


 あんなに大きな虎と蛇は、大砲の玉のように綺麗に飛んで、岩にぶつかり大破してしまいました。


 杜子春はほっと一息、ダンベルを空にかかげ、ワンハンドトライセプスエクステンションを始めるのでした。



 しかし山の天気は変わりやすいと言います。筋トレしていると、突然、天候が荒れます!



 一陣の風ッ! びゅう



 墨のような雲ッ! ゴロゴロ



 うすむらさきの雷ッ! ビシャァン!



 そして雨がドウドウ!!



 嵐だッ!!



 杜子春、しかし動じないッ!!



 山がひっくり返るかと思う暴風雨でも、ダンベル両手に不動の構えッ!



   ビシャァァァァァン!!!



 雷でも、無傷ッ!



 すると、雲が渦巻くッ!?



『ギャーオ!』



 ドラゴンだ!



 学校サイズのドラゴン!! しかも2匹!!!



 西にファイアドラゴン、東にサンダードラゴン!



 虎や蛇とはサイズが違うッ!!



『グオオオオオオオオ!!!』

『ギシャァァァァァァ!!!』



 その剛腕、高層ビルのごとし!!



 ミサイルのごとく襲いかかるッッ!!!



   ピタッ



 止めたッ!



 杜子春、なんと、小指で止めるッ!!



 ドラゴン、あんぐり!



 矮小なる人間、取るに足りない存在、圧倒的パワー差で潰れて当然、それが逆転、ドラゴンの爪、児戯のごとしッ!!



 認めぬ、認めぬぞぉ! 偉大なるドラゴンが人間ごときに──



「おあたぁ!」


『『 グオゴばぁぁぁ!? 』』



 爆発四散!



 見事にワンパン!



 さぁ次は誰だ!



 天使か、悪魔か、それとも神か!?



 来た!



 黄金の鎧!!



 身長3メートルの、神将だ!!!



「ドラゴンを一撃で屠る猛者、どれほどの者かと思えば……おい小僧、名を名乗れ。」



 しかし杜子春は、黙然と口をつぐんでいます。



「むむ、返事をせぬか? そうか。しなければ、しないで勝手にしろ。出でよ我が眷属たち!」



 神将は、向こう側の山へと、(ほこ)を振りおろします。



 闇がさっと裂けると、おどろいたことに、無数の神兵が、雲のごとく空にみちみちて、それがみな槍や刀をきらめかせながら、今にもなだれこもうとしているのです!



「こやつらは先程のドラゴンとは格が違うぞ、天地開闢より数多の神々と斬り結び、今なお戦いながら、技を磨き続ける猛者ぞ。ちょっと筋トレをかじった若造とは訳がちがう!」



 高らかに叫ぶ、金色の神将。

 しかし杜子春、驚きはしたものの、相変わらず泰然自若。


 神将はそれを見て、



「その余裕、強者の証か蛮勇か……よかろう。その化けの皮、黄金の槍にて剥がしてくれるわ!!!」



  ✴️ピカーン✴️



 三叉の(ほこ)



 ナイター照明より眩しく光り



 雷光のごとく、一閃ッ!!



 心臓へ、一直線!!!



   ガキィィィィィン!!!



 止まった!



 槍、完全に停止ッ!



 杜子春、圧倒的無傷!!



「……ば、バカなッ! こんな付け焼き刃の小僧になぜ……ええいお前たちもやれ!」



   ✴️ピカーン✴️



 空から、レーザービームが降り注ぐ!!!


 飛ぶ斬撃、飛ぶ突撃、飛ぶ正拳!


 虹色のビームが一斉に、杜子春へと襲いかかるゥ!?



   ボカァァァァァン!!




 やっぱり無傷!



「そ、そんな、そんなバカなぁぁあべしっ」



 ワンパン、杜子春、無言の顔面パンチ!



 神将、爆発四散!!



 そして残った兵士、逃げたッ! 煙のように消え去った!!



 雲は晴れ、朝日がキラリ、その下に、鉄冠子(テツカンシ)が時速700キロで戻ってくる!!


「杜子春、合格だ!! お主は筋肉の才能がありすぎる。ジムの利用許可は取ったから、行って好きなだけ筋トレするがいい。」


「やったぁ!!」



 こうして杜子春は筋トレに明け暮れ、3ヶ月も経たずにマッチョ仙人になってしまいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勢いのある、軽快なバトルですね。 福本……と言いますか、あの雰囲気が漂ってますよね。
[良い点] 一昔前の熱血ロボアニメを見ているようだ…( ☆∀☆) [気になる点] 「やったぁ!!」のかわいさたるや! [一言] いきおいがすごくて笑うのに必死です、なんてことしてくれるんですか、い…
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