宙へ
「我々は安逸に過ぎたようだ」
落ちていく近隣の基地から送られてきた援軍のオリオン。
司令官は包囲の為の時間稼ぎを進言したが、その言葉は届かなかったようだ。
さらに純正コアを奪われた可能性もあるという、気が重くなった報告も届いているのか怪しいものである。
「包囲は間に合いませんか」
「少なくともこの基地だけで押しとどめるのは無理だろう」
MGに対抗する手段を失った基地は要救助者の救助作業に入っていた。どうやら敵はMGと兵器以外には手を出すつもりはないらしく、二次被害は報告されていない。
「あの母艦が単独で宙に上がれるとしても、軍の追跡を撒くのは不可能。いずれどこかで力尽きる」
戦争において何より重要となるのが補給だ。軍に追われながら補給手段を得るのが困難である以上、どこかで首が回らなくなるのが軍略の道理であった。
懸念となるのは新たに母艦から姿を見せた二機の新手であると指揮官の男は見た。
一機はドレスのような装甲板を纏ったMGの武装は見当もつかない。しかしもう一機は簡単に予想できる姿だ。あれは星嵐と同じ支援砲撃をする機体であることは、背部に背負う長大な砲門を見れば予想ができる。
「すぐにデータをまとめて上に送れ。さすがに宙の防衛基地の状況も併せて考えれば説得力は十分だろう」
「無駄死にを増やせば、死んでいったあの者達に合わす顔がありません」
意気消沈とした空気の司令部にオペレーターが再び異常を報告する。
「司令、敵母艦周辺のマナ濃度が急激に上昇を始めました」
さらに疑似コアから純正コアに反応が変わったと付け加えられた。母艦を浮遊させながらどうやって……と疑問は残るが、観測データから導き出された紛失した純正コアの行方に司令は大きくため息をつく。
「……宇宙へ逃げるか」
一般的に、MGを運用する宇宙艦は専用の発射場で宙に打ち上げる補助をするのが普通である。
いくら比較的小型の輸送艦であっても単独で大気圏を突破するのは困難なはず。
未知の技術を持つとはいえ、どのような手段で宙へ逃げるのか。一同が注視する中、アルタスアルクは動きを見せた。
「今度は一体……空間が揺らいでる?」
アルタスアルクの前にゲートとでも呼称すべきだろうか、円形の扉のような空間がズレて見え、その先は光が点在する闇が広がっている。
「空間魔術、ハイエルフが所持すると言われる秘術なのか。まさかハイエルフの旧王家が関わっているのか」
こうなると自然とMG達が浮遊する種は割れてくる。空間魔術と同じ秘匿魔術に分類される重力を操る魔術であれらは浮いているのだと。
浮遊する母艦は宙へ上がるのではない。――虚空へ消えていくのだった。
これでは追跡するための痕跡を期待するのは無理だ。司令官の将校は再び大きなため息をついて、肩を落とした。
アルタスアルク艦内。
ブリッジは星々の輝きに囲まれていた。そう、ここは星の海――宇宙である。
宇宙で何度も試運転を行った空間転移であるが、非無重力下、それも地球から宇宙に転移するのは初めてだった。
そんな初運転の緊張から解放されて、ブリッジには小さな安堵の声が漏れる。
「空間転移完了。――テンペスト、レギオンの動力炉が休眠状態に移行」
本来のオペレーターである猫族の少女が、エルフの少女に代わってオペレーター席に座っている。
戦闘の緊張から解放されて気が抜けそうになるも、ギルバートの笑顔と威圧を受けて自分の仕事を思い出した猫の少女は報告を再開した。
「今襲われたらお仕舞ですね」
そう口にしたのは艦の指揮をする艦長と部隊の副長を兼任する女性。そんな彼女の縁起の悪い言葉を砲撃士の小人族が軽い口調で嫌がってみせる。
「そう思っても口にしないでよ、副長。言葉には言霊が宿るっていうじゃん」
「冗談ですので、お気になさらず。この宙域に監視の目がないことは何度と偵察したのです。発見されることはありえません」
「――アルターのパイロット達は?」
冗談を言い合う部下を横目に、ギルバートはオペレーターに尋ねる。
「レゼルのパイロットはコックピットに引きこもり、リッターは暴れ足りないとトレーニングルームへ直行。レギオンとテンペストは転移魔術にマナを提供した疲労で医務室です」
医務室組は仕方ないとして、レゼルとリッターのパイロットの勝手さにギルバートの目は鋭くなる。
「双子姫様も医務室か。メカニック班には悪いがアルターの整備を急がせろ。さすがに一機も動かせないのはまずい」
「そう思って指示は既に出しています」
「部下が優秀だと仕事が減って助かる」
どこかの誰かさんに聞かせたいものだ。ギルバートは独断で任務を変えるか、増やすかする竜人の少年に頭を抱えたまま、事後処理を済ませることになった。
というわけで衝動のままに登場人物の名前すら付けずに書き上げました。色々不十分な部分も多々ありましたが、パッションを発散するには十分かな。
ここまで読んでいただきありがとうざいました。
本音を言うともっと書きたいところですが、あんまり同志がいないのですよね。メカはいいぞ