宙を舞う騎士
空を編隊を組んで飛行する一〇機の飛行型MG、オリオン。主に空戦や上空からの偵察、支援攻撃を目的に開発された物である。
空気抵抗の影響を減らすため、戦闘機に手足と頭が生えたような姿をしており、巡航時には手足を収納して戦闘機と同等の速度で部隊を展開可能としている。
「このご時世にテロって、どうせ疑似コアのMGモドキなんでしょ。あっちのMG隊だけで十分では?」
悠長にブリーフィングルームへ集まる暇があったら、さっさと出撃しろ。そう上官に尻を引っ叩かれた飛行部隊のMGパイロットたち。彼らは狭いコックピット内で情報の共有をすることになった。
「そちらはすでに壊滅したと報告があった」
友軍の壊滅と聞いて、胸に翼の紋章が付いた若造がヒューと口笛を鳴らす。敵に感心していると取れる不謹慎さに、隊長機のMGパイロットは生意気なエースを一発ぶん殴りたくなる。――が戦いを前に無駄な消耗は抑えべきだと、今はスルーすることにする。
「そりゃ運が無かった。俺が居ればそんなヘマしなかったんですがね」
そう、このいかにも軽そうな男であるマルコ=ホークが統一軍のエースパイロットなのだ。胸の紋章は定期的に行われる大規模演習において、一定の撃墜スコアを稼いだパイロットに送られる勲章。
性格に問題はあっても、その技量は本物であった。
「――油断するな、マルコ。敵のMGはこちらより性能が上。射撃兵装も通用しなかったと聞く」
「どうせ横流しで作ったか、買ったかしたMG如きがそんな性能をしてますかね……。どうせ基地を落された将校の責任逃れの誤情報じゃないですか」
長らく大きな戦争がなかったとはいえ、統一軍がMGに割いたリソースはその規模に応じたものだ。資金、人材、禁域と呼ばれるギガントとの戦闘データ、その他収集してきたMGの運用データは膨大。
それがぽっと出のMGに負けるとは思えない。それならMGを開発設計する軍需企業が営利目的で亜人に横流しした可能性の方が高いだろう。
もしそれで新型を襲撃者が入手していたとしても、マルコは敵が自分より操縦技能が上とは考えていない。
あれを見たら少しは警戒するだろう。MS隊の隊長は基地の上空に浮遊する敵の母艦を見て考え直した。まさか、未知の技術を見て突っ込むバカではない……と。
「あれを落せば、勲章の一つぐらい貰えそうだなっ」
「待て! 勝手に動くな――マルコ!」
「俺が敵の注意を引きます。援護は頼みます」
マルコが独断で前へ出る。敵の数が少ないと判断し、ここで自分の撃墜スコアを稼げると舐めきっていた。
「――敵マナ反応確認、我々の上空に一機」
「ちっ、輸送艦一機、MG二機。あと何機の敵がいる……。グレイ5までは俺と上空のMGに応戦する。他はマルコの援護に迎え」
隊長は上空のMGと母艦への攻撃に部隊を分けた。身勝手な奴だが、マルコは自分の部下である。それに見捨てるほど嫌われる人間でもなかったからだ。
「アージュ、先行してる奴はどうする?」
アルターリッターのパイロットがレゼルに通信を繋いだ。獣の耳を持つ少年、獣人のパイロットは笑いを堪えながら、マルコにどうするか尋ねる。
すでに基地の戦力は壊滅している情報が伝わっているだろう。そうにも関わらず様子見もせず突っ込んでくるなんて、だれも想定していなかった。
「こちらで引き受ける。お前までこちらに来たら、アルタスアルクの近くで乱戦になる」
「すまん、まさか迷わずそちらに突っ込むバカがいるとは思わなかった」
「はっ、お前にバカと言われるのは救いようがないな」
「俺は好きだぜ、ああいうバカはな」
そこで獣人の少年は耐えきれず笑い出した。どちらも血の気の多く気が合いそうで、アージュも勘弁してくれと思っているだろう。
そこにオープンチャンネルから音声のみの通信が入った。
『おら、テロリスト。統一軍のエースが相手してやるぜ。俺に撃墜にされるのを光栄に思えよ、地球圏最強のMG乗りに墜とされるんだからな』
特定のチャンネルではなく、オープン回線なのだ。当然それは獣人の少年にも届いている。彼はMGの操縦が困難なレベルで腹を抱え、高高度からの降下を自動操縦に任せるざる得なかった。今ほどのアルターに搭載されるAIが高性能だったことに恩恵を感じたことはないだろう。
「訂正、バカじゃなくて大バカだった。どうやらお前の相手は地球圏最高のコメディアンらしい」
「小人族よりもうざく感じる人間がいるとは思わなかった。――AT、オープンチャンネルの回線は閉じろ、不快なだけだ」
互いの交戦距離に入る直前、マルコのオリオンが巡航形態から人型に変形する。
変形中にレールガンで射撃するオリオンはそのままブレードによる近接戦闘の構えに入る。その操縦技術は傲岸不遜になるだけの技量はあった。
「確かに腕はいい――だが、それだけだ」
レゼルの腕部から撃ったビームがオリオンのレールガンの弾丸を撃ち抜き、レールガンを持つ腕すら破壊した。
「なっ、火力が違い過ぎる」
思っていなかった事にマルコの思考が止まる。いくら技量が高くとも精神がそれに追いついてなくては宝の持ち腐れだ。
マルコの未熟な精神が無様に晒した隙を、レゼルの二本の爪がオリオンを切り刻んでいく。
「なんだ……よ、オリオンと速度が違い過ぎる。くそがっ――、聞いてねえぞ。こんな化け物とは、」
マルコが援護に来ているはずの仲間を探すと、目の前のMGとは別のMGが仲間を翻弄している姿があった。
もう一つのMGは全身のスラスターを吹かして、まるで宇宙空間で戦っているかのような三次元戦闘をしている。
このMGは多様な兵装を持つレゼルとは反対に、剣一本の騎士がコンセプトとなっている。銃の形をした射撃武装を持たず、唯一の遠距離攻撃はマナソードと呼ばれる近接武器でマナの刃を飛ばすしかない。
速さと近接戦闘にのみ重点を置いた乗り手を選ぶアルターリッター。
それを駆るのは亜人の中でも反射神経や動体視力にすぐれる獣人。
その二つが合わさった結果が機動性を売りにするオリオンを速さで圧倒する青い騎士だった。
「ヒューマンのMGはこの程度か」
腕、足、頭部。
母艦の傍で、動力炉を不用意に破壊できないアージュはオリオンを達磨にしてから蹴り飛ばした。
「俺は勲章持ちなんだぞ! 機体の性能差で負けただけ――実力で負けたわけじゃねえんだ!」
白い推進剤の弾道を残してマルコはパイロットシートと一緒にオリオンから射出された。
敵を生かして帰す必要もなく、アージュは内蔵の機関銃をマルコに合わせるが――
「マスター、炉を緊急停止しました」
「――運がいいやつだ」
さすがにパイロット一人殺すために、爆散のリスクを犯す必要ないだろう。
完全に停止したレゼルを換装の終えたアルターに運搬を頼み、アージュはパイロットシートに体を委ねた。
レゼル=汎用仕様
リッター=近接仕様
レギオン=ファンネル山盛り
テンペスト=遠距離支援機
をイメージしています