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アルタスアルク

 統一軍のMG、星嵐をレゼルの爪が貫いた。ギガントとの戦いを主眼に置いたMGを流用している統一軍が、最初からMGと戦うことを想定したアルターレゼルに勝てる道理はなかった。


「敵機、動力炉の停止を確認。――敵機全滅」


 ATと呼ばれたレゼルの制御AIが無慈悲に敵MGの全滅を告げる。


「さすがに疑似コアじゃあ、ぎりぎりだったか」


 アージュはモニターに表示される残存マナを確認して、軽く空気を吸い込む。


 一方的な虐殺に見えていたが、その実情は危ういモノであった。レゼルの鉄壁ともいえる防御力は魔術によるもの。燃料である疑似コアから供給されるマナが途切れれば、離脱すら困難に陥っていたはず。


「疑似コアは既に使用限界を迎えています。早急なコアの交換が必要だと警告します」


 計器から鳴るアラームを止めて、アージュは眉を寄せて考え込む。元々アルターと名付けられたMGシリーズは純正コア三機で運用するのを想定している。それを疑似コアで無理やり動かしている現状は本来レゼルが発揮するはずの出力や稼働時間に遠く及ばないのだ。


 これ以上の負荷を与え続ければ、今度はこちらが爆散してしまう。――しかしアージュは止まれない。ようやく動き出した彼らに弱みを見せられない理由があった。


「わかっている。だが間もなく作戦はフェーズ3に移行する。テンペストとレギオンが疑似コアから純正コアへ炉の換装を終わらせるまで、俺らはここを死守する必要がある」


 フェーズ1がアルター二機による防衛網の破壊、フェーズ2がアージュの純正コア奪取、最後フェーズとなるフェーズ3が撤退だ。


 本来ならアージュの役目はここで終わりなのだが、後退を始める気配はない。


「あとはリッターに任せるべきでは?」

「疑似コア搭載MGが短時間しか戦えないと知られるには時期尚早だ。奴らがクーデターを警戒してコロニーに部隊を広く分散すれば、それだけ今後の俺たちが動きやすくなる」


 宙からはアージュ達の母艦であり、ギルバートの乗る万能艦が大気圏から降下しているところであった。


 アルターの母艦、超高速輸送艦『アルタスアルク』。船首に白い塗装の上に竜人、エルフ、小人、獣人を示す四種族の紋章が描かれ、後部には四機のMGを格納するドッグと出撃用のカタパルトデッキが左右に二つ伸びている。


 そしてこの艦の大きな特徴はレゼルと同じ技術、重力魔法で浮遊しているがためのデザインであった。大気圏で飛行しているにも関わらず、航空力学を無視した姿をしているのだ。


 浮力を得るのに必要な翼の類はなく、姿勢制御用のバランサーとスラスターしか見当たらない。背面には大型スラスターが四機並んで火を噴いているものの、なぜ大気圏飛行が可能なのか。専門家は頭を抱えることになる。


 真っすぐにこちらへ降りてくるアルタスアルクを見守りっていると、レゼルのAIがまだ苦言を呈する。


「まずは足元を見て歩くべきです。ここで墜とされれば全て台無しとなりますよ?」

「黙れ――AT。そう無茶を通すつもりはない、テンペストとレギオンが動けるようになるまででいいんだ」

「……了解、マスター」


 ATはまだ何か言いたげにしていた。それを遮るようにアルタスアルクから映像通信が入る。


 相手はギルバートではない、それはさっきまでコックピットに乗っていたエルフの少女のように見える。


 しかし先ほどの少女より髪が伸びている。別人と言い切るのが難しいほど似通った彼女は双子の妹であった。


「アージュ、お疲れ様です。こちらは無事純正コアの回収が完了しました。現在レギオンとテンペストの換装作業に入ったところです」


 少女の顔は少し青白く、声にも怠そうな色が見える。これほど疲労しているのは彼女の――ハイエルフの魔術である空間魔術を使ったからだった。


 空間魔法とも呼ばれる魔術(技術)ではなく魔法(奇跡)の領域に片足入り込んだ空間を操る秘術。


 それを純正コアの強奪のため、この双子の少女たちは使った。アージュと一緒に居た姉はマナの使い過ぎで、今は医務室で寝ていると妹は伝える。


「そうか。こちらはこのまま睨みを利かせるため、この場で待機する」

「レゼルもリッターに任せて、一度後退する手はずだったのでは?」

「ここで弱みを見せるわけにはいかん。そうだろ、ギルバート」


 悪い予感はよく当たる。ギルバートは思っていたとおりなアージュの行動に渋い顔をしている。


「それはただの言い訳だ」

「それの何が悪い。俺らは牙を抜かれた戦士じゃない。目の前の敵に背を向けろというつもりか」

「誇りと無謀を履き違えるな――と言っても、お前が聞くわけあるまい。ただ竜人の誇りに誓え。お前は控えだ、後方で待機するのは認める。それ以上は許さん」


 半ばギルバートが折れる形でアージュの独断を追認する。


 さらに彼はオペレーター席でぐったりしてるエルフの少女に、最後の大一番に備えて医務室で休むよう伝えた。


「誓おう、リッターに何か無い限り俺は手を出さない」


 レゼルは基地の上空に停止したアルタスアルクのカタパルトデッキに着地し、各所から煙の上がる基地を見下ろした。



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