無双するマシンギア
『一人』になったコックピットで竜人の少年が吼える。
「失せろ! 星に縛られた蟻がっ」
無数の砲撃を無傷で耐えたアージュのレゼルが攻撃を開始する。
万能機動兵装『ファミリア』
マナを刃にも射撃兵装にも切り替え可能なATが操作する自律型兵器。それが地上の四方に展開するファランクに向けられている。
正面には胸部の収束砲が、
左右には両腕の近接武装と射撃武装に切り替え可能なマナクローが、
さらにバックパックから分離して周囲に展開するファミリアが、
重厚な盾を構えるファランクに向かって三色の閃光が放たれる。
「アダマン製のシールドが意味をなさんだと……。各機、盾を放棄して回避せよ! 所属不明機の攻撃は防御を考えるなっ」
この基地の頭脳である地下司令部。そこには常勤のオペレーターと緊急事態を受けた指揮官と副官である将校達が揃っていた。
数十トンもある巨獣の突進すら受け止められる頑強な盾が呆気なく撃ち抜かれる。開いた風穴は圧倒的な熱量を押し付けられたかのように溶け出し、液化した金属が血のように滴る。
それに乗っていた統一軍パイロットが脱出する間もなく、動力コアを撃ち抜かれたMGは炉の暴走によって爆散した。炉の中に充満するマナが、ビームとなって撃ち込まれたマナに感化反応を起こしたのが原因であった。
これはギガントと呼ばれる人類の敵以外で撃墜されたことのない、対MG戦闘によって撃墜された数十年振りのMGになるだろう。
「観測班より敵MGの解析が――」
「さっさと内容を報告しろっ」
口角泡飛ばす勢いで、司令官が報告してきたオペレーターを急かす。今現在も自軍のMGは謎のMGに撃墜されているのだ。焦燥に駆られるのは指揮官一人ではなく、司令部全体である。
「はっ、敵MGが使用している魔術が軍の魔術と一致しないと魔術反応で確認されました。――おそらく亜人が所有する魔術系統と思われます。さらに動力炉に使われてるコアは純正コアではなく、疑似コアに似た観測データだと分析官から」
ギガント――それは地球本星だけで発生するモンスターであり、他所では産出されない最重要軍事物資。そして奴らの心臓部こそがマナの増幅装置である動力炉の素材であった。
疑似コアとはその純正動力コアを大きく劣化させた代わりに人工的に生産可能とした物なのだが。地球統一政府はその純正コアの独占に成功し、亜人達に軍事力で優位を取れてきた。
現場の兵士たちには知らされていないが、地球大気圏に展開される防衛基地も同様の襲撃を受けていた。通信妨害のせいか、襲撃の混乱のせいか、あるいはその両方で宙の状況は断片的にしか入ってこない。
そんな現状を知る将校たちはこの事件の本質を理解しつつある。疑似動力コア搭載MGで軍用MGが圧倒されるなんてことになれば、宇宙の勢力図は反転する。
今後どうなるか不明――いや、亜人種族全体が反旗を翻すのかもしれない。だからこそ、なんとしてでもあのMGの機密を暴く必要がある。
これはただのテロリストによる基地襲撃事件ではない、一方的な平和という夢から醒める時が来たのだ。
「疑似コアであんな魔術出力がでるはずが、」
「三つです。動力炉として使われてる疑似コアのマナ発生が三か所から同時に発生しています」
「動力炉の同時運用――わが軍でも研究中の最新技術だろうに、それも理論の足掛かりすら見つけられてないと聞くぞ。周辺基地に援軍要請を――、それから倉庫に保管されてる動力コアを歩兵隊に回収させろ」
動力コアの確保命令。本来なら真っ先に出すべき命令であった。
その遅れた代償なのか。重要な軍事物資が保管されている倉庫に突入した兵士が見たのは、だだっ広い空っぽの倉庫であった。