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亜人のパイロット

 基地上空に突如現れた所属不明機。地球統一軍のMGはこの緊急事態に、巣を突いて飛び出す兵隊蟻が如く集結し始めた。


 細身なレゼルとは正反対な統一軍のMG『ファランク』。深緑の迷彩塗装と重厚な装甲は鈍重な亀を思わせ、重すぎる自重を魔術によるスラスターの強引な加速で包囲を作る。


 その後ろには支援機である肩に二門のキャノンを背負うMG『星嵐』が狙撃体勢へ入っていた。


「周囲のマナ反応を複数感知。推定30機のMGが起動したと思われます」

「AT、その数に問題は?」

「ありません」

「ならいい。何十来ようが関係ない。俺とお前――それにアルターレゼルが揃ってれば薙ぎ払える」


 コックピットでそのようなやりとりをしていたのはアルターレゼルと呼ばれたUnknown機のAIとそのパイロット。


 単純に三十倍もの絶望的な戦力に臆することなく、それどころか自分たちの力を誇示するには物足りないと言いたげな自信を見せたのはまだ少年と呼べる若い男。


 彼は地球統一軍の大半を占めるヒューマンという種族ではなかった。頭部の左右に立派な角が生えた竜人と呼ばれる亜人種である。


 年齢は見た目通りで、意気昂然としているのも若さゆえだろう。


「ワタクシがいるのをお忘れなく。あまり派手に動き回りますとコックピット内を汚してしまいますよ?」


 少年が座るシートの背後。コックピットに急遽作られた、仮設の座席には少女が一人座っていた。


 彼女もまた亜人である。耳は長く肌も陶器のように美しい、エルフと呼ばれる種族だ。


 これから戦いが起きる緊張を和らげるためのジョークなのか。あるいは純粋にエチケット袋を忘れていたのを遠回しに伝えようとしているのか。


 いささかマイペースなエルフの少女は戦場に在ってもその気品は失われなかった。


「そうなったら追い出す。お前なら単騎でも行って帰ってこれるだろ」

「――そこは我慢するか、姫に負担がかからないように操縦してくれたまえ」

「ギルバート……、ここは俺の聖域だ。本来ならメカニック以外何人たりとも入れるつもりは無かったんだ。それを――」


 統一軍側が通信妨害で混乱している中、少年たちの無線通信は問題なく機能していた。マナ通信と呼ばれる魔術による通信手段は、空間に存在するマナ濃度が規定値を超えると使用できなくなる。


 少年たちが問題なく通信できるのは、魔術通信ではなく科学的な機器を使っているからだった。統一軍もすぐにそちらへ切り替えるだろうが、通信妨害で大きく混乱していたのは平和ボケであるとしか言いようが無い。


 さて、少年たちに送られてくる通信は大気圏傍で待機している母艦からだ。


 通信越しに聞こえる男の声はギルバート=スタイナー。


 少年と共にレゼルへ乗り込んだ少女のお目付け役でもある、年齢不詳のエルフだ。


「わかってる。無理を言ったのはこちら、感謝はしてるさ。それよりも大気圏の防衛部隊は排除した、敵の混乱が収まる前に任務を遂行せよ」

「了解した、指揮官殿。アージュ=ドレッド、アルターレゼル――有象無象を排除する」


 レゼルがウィングを可変させ大きく広がる。


 その動きに地上のMG部隊も過敏に反応した。重要拠点の防衛を任されるだけあって、練度はそれなりらしい。宇宙のならず者のような統一宇宙軍とは違い、待てぐらいはできる。


「所属不明機! そちらの所属と目的を述べよ。応答が見られない場合は撃墜する」


 将校からの問い掛けをアージュは鼻で笑う。


「たかが一機なら脅威にならないと思っているのか? ヒューマン如きが調子に乗るなよ」


 武器の放棄すら要求されない。その呆けた思考にアージュは熾烈なモーニングコールを叩きこむ準備を始める。


「ファミリア起動、胸部マナ収束砲チャージ開始――AT、マルチロックシステムを適応

「了解――敵機より攻撃反応」

「『DSA発動』――」


 所属不明機であるレゼルの胸部にマナが収束する光を見た統一軍の司令官はMG部隊に攻撃を命じた。


 平和ボケしているとはいえ、攻撃の前兆を認識してただ眺めるほど愚かではないのだ。


 稲妻を発射するエレキライフル。マナを爆発で発射するブラストガン。あとは荷電粒子砲と言われるレールガン。MGが携帯する射撃兵器の主流となる弾幕の雨がレゼルを襲う。


 棒立ちのまま攻撃を食らったレゼルの姿を爆炎が隠した。


 誰もが思っただろう。こんな集中砲火を受けて、たかがMG一機に耐えられるはずがない。


 司令部の将校達の頭には不明機を拿捕して、その技術や出所を調べるべきだったか――、と早すぎる反省会が行われていたぐらいだ。ただし、この生産基地に保管されているMGの動力コアを失うリスクを乗せて天秤がどちらに傾くか。彼らには判断がつかなかった。


 しかし、一人の将校が違和感を感じた。


 いつまで経っても不明機の爆散した破片が落下してこない。


 その疑問は煙が晴れたのと同時にわかった。


 襲撃者の機体は無傷。傷の代わりに鱗のような模様が全身に浮かび上がっていた。


「そんなぬるい攻撃じゃあ、龍の鎧は貫けねえ。次はこちらの番だ」

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