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白の魔女の世界救済譚  作者: 月乃彰
第四章 始祖の欲望
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4−6 外見と中身の印象は全く違うことがある

 最近地の文マシマシで書くように心がけてから、一話に対しての物語の進行スピードが遅くなった気がする。

 にしても四章ももう六話ですか。第三章なら既にモートル撃破してるころですよ。

 夜。宿屋の食堂にて。

 皆寝静まっているというわけでもなく、食堂は宿泊客によって混雑していた。食器の音が響く中で、一切の食事も取らずに、ただ座っていたレザーローブを着た彼は、少し浮いていた。


「明日には出ていくんだな」


 その彼と同じテーブルに座っていた他六名はきちんと食事を取っていたことが、彼の異質さに拍車をかけていたのだが、当の本人たちはそんなは些細なことは気にしていないようであった。


「ああ。アンデッドの人間化については大した情報が得られなかったし、エレノアの事もあるしな。早めにこの国から出ていったほうがいいと思ったんだ」


 エレノアは現在、共和国の娼館勢力に狙われている。たかだか一人の小娘程度、見捨てれば良いと思うが、彼女の容姿は端麗で、年齢的にも『そういう趣味』の大人の場合、喉から手が出るほど欲しがるのも無理はない。しかし、理解はできない。


「そうか。⋯⋯じゃあ、行ってくる」


 マサカズたちは二人を残して夜の町に出ていく。その目的は言わずもがな、『始祖の魔女の墳墓』に行くことだ。

 そしてしばらく歩き、やがて『死者の大地』とモルム聖共和国とを境る国壁に辿り着く。やはり圧倒されるほど壁は大きく、重圧感がある。

 壁上を見上げるように確認すると、天に万別に輝く無数の星々と共に、聖共和国軍の兵らしき人影が居た。勿論その人影はライフルを持っていた。


「能力が使えたら一瞬なんだけどね⋯⋯さて、どうしたものか」


 エストの『記憶操作』は対象に忠誠心を植え付け、敵だと認識させないことができる。魔法でも似たようなことができないことはないのだが、半永久的に効果が持続する能力とは異なり、魔法のそれには時間制限がある。魔法の行使は、今は良くても、後々のことを考えれば愚かな選択肢と言えるだろう。


「⋯⋯私はエスト様の居場所を、いつでも感覚で分かることができます。なので転移魔法を使えば一瞬でエスト様のもとに帰れるというわけです。そこで提案なのですが──」


 少し時間が過ぎた頃。

 壁上で周り──主に『死者の大地』の方面を警備をしていた警備兵は、町側の壁の下に、一人の少年が居るのを見つけた。

 その少年の外見年齢は十代前後ほどだろうか。既に日は落ちており、普通の子供ならば家に帰っている時間帯だ。

 少年は周りを絶え間なく見回しており、まるで何かを探しているようだった。誰かとはぐれたのか、あるいは道に迷ったのか。ともかく、少年は態度に出てしまうほど、不安そうだった。

 共和国軍人、もとい大人として、夜の町を廻る子供は保護しなくてはならないし、それは手間にさえならなく、子供を見捨てる理由にはならない。


「そこの君、どうしたんだい?」


 警備兵は国壁に備えられている階段を下り、迷子の少年の元に向かう。彼と同じくらいの年齢ならば泣いていてもおかしくないのだが、不安そうな表情を見せるだけで、涙の一つも流していないことには気づくこともなく、警備兵は彼に話しかける。


「おじさんは⋯⋯」


「軍人さんだよ。それで、こんな時間に一人でどうしてこんなところに居るのかな?」


「えっと⋯⋯僕、友達と遊んでいたんだけど、帰るのが遅くなって⋯⋯急いで帰っていたら⋯⋯いつの間にか迷っていて⋯⋯」


「そうか。君はお家の場所は分かるかな?」


「うん。大通りに出たら分かる」


「なら、おじさんと大通りまで行こうか。さあ」


 少年の手を警備兵は取り、そのまま大通りまで出ていく。その道順は少しややこしく、道に迷うのも無理はないだろう。

 やがて大通りに着くと、少年は警備兵に礼を言って、大通りに沿って走って行く。

 しばらくして、少年は、警備兵の目が届かないところまで行くと、近くの路地裏に方向を転換して入り込んだ。

 そして周りに人がいないことを確認すると、


「〈不可視化(インヴィジブル)〉、〈転移(テレポート)〉」


 転移魔法を行使し、その場から消える。

 次に現れたのは砂漠だった。国壁を超えたところである。


「只今戻りました。エスト様」


 小声で、見えないがそこに居ると分かる自分の主に存在を伝える。


「ありがとね。⋯⋯とりあえず、国壁から見えない位置まで走らないとね」


 すぐ近くには大きな砂丘がある。その影で不可視化を解き、真っ直ぐに歩けば共和国軍に見つからずに『死者の大地』の中央に辿り着けるだろう。

 あと少しで砂丘の影に辿り着けるところで、五人は目の前に軍人を見つけた。

 その軍人は珍しく短い黒髪に黒目だが、顔つきは日本人ではない。身長もこの国では低めだし、筋肉もついているようには思えないというのに、彼は片手に持つサーベルで周りのアンデッドたちを一掃していた。


「⋯⋯おやおや。まさかこんなところで生きている人間を見つけるとは思いませんでしたね」


 すると、その軍人はエストたちの方を見て、そんなことを言った。それなりに距離は離れており、足跡から判断したとは思えない。エストやレイの〈不可視化(インヴィジブル)〉を看破した、ということである。


「しまったね⋯⋯」


 諦めて不可視化を解くと、エストたちと軍人は相まみえる。だが、


「何。私も人は斬りたくありませんし、軍服は着てますが生憎、今は勤務時間外でしてね。アンデッドたちと戯れる許可を貰っただけのただの男です」


 その言葉はつまり、エストたちを見逃すということだ。


「まあとは言っても、ここから進むというのであれば、勤務時間外労働をすることになるでしょうが」


 しかし、それは『死者の大地』の中心に向かうことを許す、というわけではないようだった。


「分かった。⋯⋯そうだ。一つだけ、キミに聞いていいかな」


「⋯⋯何ですか?」


「⋯⋯キミ、一体何者?」


「⋯⋯クアイン・ドルフトと言えばこの国の住民であれば分かるでしょう。しかし、見た限りだと、あなたたちは外国の人のようだ。⋯⋯私は、ただの共和国軍参謀長官ですよ」


 参謀長官。この国においては、総司令官に次ぐNo.2の権力者だ。

 総司令官のマイと言い、この国の軍の権力者は実力も優れているという法則でもあるのだろうか。


「⋯⋯そう。じゃあ、これで」


 エストたちは転移魔法を行使して、その場から消える。


「⋯⋯カワニシの言うとおりでしたね。やはり、彼女は──」


 後ろから襲い掛かってきたアンデッドを、見向きもせず、サーベルで的確にそれの頭を貫く。


「⋯⋯いやはや。さてこれからどうしたものか」


 クアインは、サーベルに付いた鮮やかな血液を、剣を振ることで飛ばして綺麗にした。


 ◆◆◆


 エストたちが宿屋の前に、転移魔法で戻ってきた。

 食堂にはまだ人は居たが、数十分前と同じほどではなかった。


「今度はどうします?」


「⋯⋯さあ。どうしようか。⋯⋯まあ、今日は疲れたし、もう寝よう」


「そうだな。⋯⋯さっさと風呂入って、さっさと寝よう」


 この宿屋は二人一部屋だ。そのため、エストとユナ、マサカズとナオト、そしてテルムとエレノアと言ったふうに部屋を取っている。

 各々自室に戻ろうとしたときだった。


「テルム? どうしたんだ。そんなに慌てて」


 部屋の扉は勢い良く開かれて、テルムが現れた。被っていたレザーコートのフードが脱げて、彼の骨の頭部が曝け出される。

 それに気づけるほど、彼は冷静ではなかったようだ。フードで顔を隠すより先に、テルムは何があったかを話す。


「エレノアが居ないんだ! 部屋に居てろって言ったはずだから、きっと⋯⋯」


 エレノアは良くも悪くも従順だ。特にテルムの言葉に関しては、何があっても守るだろう。

 つまり、エレノアは自らの意思でこの宿屋から去ったのではなく、何者かに攫われた可能性が非常に高い。いや、そうだと断言しても良いだろう。

 テルムが目を離した瞬間に、しかもわざわざエレノアという人目の多い宿屋に居る少女を攫うということから、犯人は単なる人攫いではないだろう。そしてその犯人がどの勢力かなんて、火を見るより明らかだ。


「クソッ⋯⋯」


 テルムは少し冷静さを取り戻し、フードを被る。だが怒りと焦りは未だに残ったままだ。


「⋯⋯どこへ行く」


 マサカズが焦燥感に囚われたままのテルムの肩を強く掴み、どこかへ行こうとする彼を止める。


「娼館だ」


 いつもより低い声で、冷静を装った雰囲気で、彼は答える。


「どこにあるのか分かってるのか?」


「裏路地にあることは分かってる。だから全部探すし、そこらのチンピラを(しめ)て情報を吐かせる」


「⋯⋯もう少し頭を冷やせ。敵の力も分かってないんだぞ。危険だ」


「オレはスケルトンだ。アンデッドだ。それに暗殺者だった。今更たかが人間(ゴミ)の一人や二人や百人くらい、纏めて殺せる」


「だから頭を冷やせと言っているんだ。『たかが人間(ゴミ)』? その人間(ゴミ)と同族なのが俺たち異世界人だ。お前は転生者に勝てるのか?」


「⋯⋯転生者が娼館関係者に居るわけ──」


「居ないとも言えないだろ。それにこの世界には魔女に匹敵する現地の人間も存在する」


 ガール厶帝国の聖教会の神父、アレオス・サンデリスがそうであった。魔女二人でようやく殺せる実力者の現地人だ。今のテルムではそのクラスの実力者とは、正面から戦えば渡り合うことは難しい。


「⋯⋯」


「⋯⋯分かったか? 今は状況を整理すべきだ」


「⋯⋯ああ。そう⋯⋯だな。⋯⋯少し、いやかなり混乱していたようだ、オレは」


 テルムは深く、より深くフードを被る。影で彼の顔がいつも以上に見えなくなったが、そこには二つの白い光が灯っていた。


「⋯⋯これは⋯⋯」


 マサカズとテルムの二人が言い争っている間に、エストはテルムとエレノアの部屋に勝手に入って、勝手に漁っていた。

 すると、部屋の机の上に手紙のようなものがあった。


「テルム、これは?」


 エストはテルムにその手紙を見せる。


「⋯⋯なんだ、それ? ⋯⋯部屋に入ってからは焦っていて、そんなのがあったなんて気にも留めなかったのかもしれない」


「そう。⋯⋯えっと、ナニナニ⋯⋯」


 エストは手紙を読む。そして読んでいるうちに、彼女の顔は呆れ顔に変わっていた。


「⋯⋯何が書いていたんですか?」


 未だこの世界の言語が読めないユナが手紙を覗き込んでエストにそう聞いてきた。


「──私に一人で来いってさ」


 手紙の内容は、『白髪の女、エスト、お前一人だけで娼館に来い。もし他にも連れてきたら、エレノアは二度と戻らないと思え』だ。

 明らかに、罠。犯人はどこかでエストを見かけて、エレノアのついでに彼女も誘拐してやろうとなったのだろう。普通に行けば、即効で気絶させられるなりして娼館の『商品』に成り下がることになるだろう。


「⋯⋯行き過ぎた欲は身を滅ぼすのに。いやほんと、強欲が大罪に数えられるのはこういうことなんだろうね」


 何事にも許容範囲というものがある。当然、欲に関しても同様のことが言える。

 『欲望』を持つ魔女だからこそ、その罪も、その危険性も知っている。特にエストは、その傾向が強かったため、どれだけ『欲望』は身を滅ぼすかを、文字通りその身で味わったことがある。


「⋯⋯魔女は異形の存在。姿形は人間そのものでも、精神は違う。だから私は人間一人が死のうが生きようが酷い目に遭わされようが、どうだってよかった。でも⋯⋯今の私は魔女じゃなくて人間。だからなのかな、こんなにも⋯⋯」


 ──不愉快なのは。


 エストはいつものように人間(下等種)が行った児戯に嗤うわけでもなく、ただ目を細めてその下劣で非道で冗談にさえならず、無知ゆえの弱者の傲慢さ、強欲さに覚えた明らかな不快感を顔に出した。


「⋯⋯で、どうするんだ?」


「そこのスケルトンに怒られるのも癪だし、エレノアを見捨てるほど今の私は残酷じゃないよ」


「大丈夫なのか?」


 先程マサカズに指摘されたように、娼館勢力の敵の力量は不明だし、情報も足りない。だが、


「手紙には私一人で来いと書かれている。それで私は超絶美少女。男が百人いたら百人振り返るほどのね。なら娼館側の目的は一つだけだし、それを達成するには、私に傷を加えてはいけない」


 娼館にとっての女、つまり『商品』に傷があれば、当然客からもクレームが来るだろう。

 影は光の中では目立つように、異端者は健常者の中では目立つように、元の容姿が端麗であるほど、傷というのは目立ちやすい。ことエストにおいては、それの代表例と言っても過言ではないだろう。


「それにノープランってわけでもない。対策も考えてある⋯⋯というより、今思いついたから、心配ないよ」


「今思いついた、って⋯⋯」


 ナオトはそう言うが、エストの脳内は常人のそれとは全く異なる。その知能も、その発想力も、その回転力も、常人の数倍以上はあるだろう。


「まあ、最悪、エレノアだけ救って娼館焼き払えばいいでしょ。何かあったらあとから考えればいいし」


 だが、その天才さも、彼女の考え方の前では無意味に還る。圧倒的な力を持つがゆえに、対策法など大体力尽くで済ませて来たし、それが最善でないと知りながらも面倒だからの一言で実行に移すのが、彼女の悪いところである。


「⋯⋯最悪の場合だよな、それ実行するの」


「うん」


 不安だ。だがしかし、今はエストに任せる他ない。手紙の言いつけを破って娼館に全員で襲撃することも選択肢にあるが、それはエレノアの身に危険を及ぼすだけだ。


「さーてと。さっさとエレノアを救って、もう一度『死者の大地』に侵入する方法を考えないとね」

 聖共和国の裏社会が垣間見えてきましたね。

 私、実は女の子が酷い目に合う作品って嫌いなんですが、どういうわけか作者の立場だと書ける書ける⋯⋯。

 まあ多分、結末を知ってるからこそなんでしょうが。

 もし私が作者ではなく読者なら、きっとこの話は苦手になると思います。

 ⋯⋯R−15指定にはしてるけど、これ18じゃないよね? なろうってこのあたり厳しいから怖いです。

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