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白の魔女の世界救済譚  作者: 月乃彰
第三章 エルフの国
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3−10 裏切り者の登場

 二度目の死。発狂していたからなのか、今回は死の不快感を殆ど覚えなかった。

 冷静になった頭で、マサカズは新たに生まれた疑問について考察する。


「どうして、襲撃タイミングが一週間後ではなかったのか⋯⋯」


 マサカズが前回死んだのは一週間後の襲撃時だが、今回は同じ襲撃でも時間が違った。今回は、前回の一週間前──『死に戻り』のすぐ後であった。


「襲撃フラグは時間経過ではなかったということか?」


 ドメイからエストたち魔女の睡眠をせずに活動できる期間が漏らされた、というのがもし仮に合っているのならば、今回、このタイミングで襲撃に来た理由が説明できない。それはつまり、襲撃時フラグはまた別であるということだ。


「だとしたら、その別のフラグは一体なんなんだ?」


 盗聴、もしくは遠隔で観察されているのではないか。実際、黄魔法には〈飛ぶ不可視の目フライング・インビジブル・アイ〉というものがある。イシレアの能力は魔法の完全上位互換であるというのが正しければ、そのような事ができてもなんら一切、どこもおかしくはない。


「⋯⋯いいや、まて。仮に盗聴、観察されていたとしても、だ。なぜ、あのタイミングで襲撃した?」


 前回はマサカズたち側の最大戦力であるエストとレネの二人が眠ったから襲撃した。だが、今回は起きていた。戦闘能力的に負けてるから、確実に安全に二人を殺すために、イシレアとメレカリナは眠ったところを襲撃したはずなのだ。

 もし盗聴、観察していたならばあの時に襲撃する理由はない。こちら側の状況を把握している手段は別にあるということであり、また、それは直接的な把握ではなく、おそらく間接的な把握だろう。


「別に操られている人物がいる⋯⋯ってのもおかしいし、俺があそこから離れたからってのも考えにくいよな」


 マサカズが一人居ようが居まいが、邪魔な蝿が居るか居ないかの違いだ。帝国戦争のときみたく、マサカズの『死に戻り』の情報が敵にバレており、脅威に考えた上での行動だったという可能性もあるが、そう考えると今度は、前回、彼を殺したことに矛盾が生じる。もし、イシレアとメレカリナが、マサカズは『死に戻り』という能力を持っている、と知っているならば、四肢でも捥いで無力化するなりすれば良いのだ。


「まさかあの二人が噛ませ犬ってわけではないだろうしな」


 虚飾の魔人と憂鬱の魔人は所詮、ただの確かめ要員であり、マサカズの『死に戻り』が本当かどうかを確かめるために死なせに行かせるだけの存在だ、なんてまず有り得ない。いくらなんでも、戦力の無駄使いである。


「前回と異なる点は──いや、これは⋯⋯共通点だ!」


 ──前回も今回も、とあることが共通していた。マサカズは、それに気づいた。


「ああ、そうか。なるほどな。そういうことか!」


 納得ができる。こう考えれば、前回の襲撃タイミングにも、今回の襲撃タイミングにも、どちらにも説明がつく。


「⋯⋯ったく、悪趣味な伝達方法だぜ」


 こんな方法を考えた奴は、本当に趣味が悪く、それに気づく方も色々とおかしい。狂人を理解できるのは狂人だけだということだろう。


 ◆◆◆


 王城のエントランスホールにて。つい先程まで、そこには大勢の避難して来たエルフたちがいた。だが、今、そこには五人しかいない。


「──!」


 王城の玄関から、コツコツと足音がしたのをそこに居る全員が聞いた。一瞬警戒するが、


「俺だ。⋯⋯そろそろ、襲撃に来るぞ」


 外に出ていっていた彼が帰ってきただけだった。

 エントランスホールに居る者たちは、また一人増え、合計六人となる。

 『操られているエルフ』を殺してきたからか、仄かに、彼からは血の匂いがする。


「大丈夫か?」


「ああ。最悪な気分だけど、まだ大丈夫だ」


 ──マサカズから、五人に伝えられたのは彼が知る未来の記憶、『俺が戻ってきたら、敵はすぐに現れるだろう』という情報であった。

 そして、その一言は、予言は、事実は、実際に起こった。

 突然、エントランスホールの天井を砕いて、巨大な岩石が降ってくる。それはエストとレネたちをピンポイントで狙っていた。


「〈重力操作コントロールグラビティ〉」


 岩石は白く輝き、空中で停止する。そして、王城の玄関に投げ飛ばすが、その時、岩石は何者かによって砕かれる。


「⋯⋯あれレぇ〜? イシレア、魔女のお二人さんは起きてるヨぉ〜?」


 暗い青髪で、青目の、黒い全身タイツの上に青と黒のチェック柄のロングケープを身に纏っている不気味で、痩せ気味な長身の男がそんなことを言いながら、悠々と、強者の雰囲気を醸し出しながら歩いてくる。

 そして、彼の横にはいつの間にか背中を全て隠すほど長い銀髪に水色の目の、白のゴシックドレスを着た美少女が居た。


「おかしいですね⋯⋯たしかに、合図はあったのに」


 暗い青髪の方が『憂鬱の魔人』メレカリナ。銀髪の方が『虚飾の魔人』イシレアである。

 二人は何やら予想外のトラブルがあったようで、現状をおかしいと思っているらしい。

 それもそのはずである。なにせ、その予想外のトラブルを引き起こしたのは紛れもない、


「おかしくないぜ。だって、その合図は俺がこの手で、たしかにやったからな」


 マサカズだからである。


「⋯⋯エぇ〜?」


「そう驚くなよ。言っただろ、メレカリナ。『俺は何度死んででもお前たちを殺す』と。これはその一段階目だ」


「君と僕は初対面のはずだけドぉ〜?」


「お前はな。だが、俺は、お前とはこれで三回目の対面だぜ?」


「⋯⋯妄想力が強いんだネぇ〜」


 メレカリナからしてみれば、マサカズの言葉は理解できない狂人の発言だ。彼は今、垂れ流された妄想を聞かされているような気分である。


「事実さ。あれが妄想、夢だとしたら、どれだけ素晴らしいか。早く覚めてほしい悪夢だ」


「⋯⋯それで、どうやって合図を知ったのですか?」


「二回も言わせないでくれよ。俺が前──いや、未来に、お前たちと出会って、その合図が何であるかを特定したからだ」


 合図。それは──あのエルフの死亡であった。

 あのエルフの自我が奪われる条件は、エストたちが眠ったとき。命令内容はエストとレネの殺害である。だが、ただのエルフがマサカズたちの居るこの空間で二人の暗殺なんてできるはずがない。ほぼ確実にそれが気づかれることなんて、誰にでも予想できる事だ。もし、仮に気づかれなくてエストとレネを殺害できたとしても、そもそもそれが目的であるため問題はない。どちらに転んでもイシレアとメレカリナからすれば都合が良いのだ。

 そして、暗殺しようとしていることがバレたのなら、エルフはどうされるか。普通ならエルフの支配を解除されるだろうが、能力による支配なので、できない。そうなると、あとは殺すか拘束するかの二択となる。それで、後者なら、エルフには自殺させるだけだ。現に前回、エルフは自殺した。だから、その直後にイシレアとメレカリナは襲撃に来たのだ。

 そして今回は、事前にマサカズがエルフを殺害していた。それを合図と誤認したイシレアとメレカリナは一週間後ではなく、そのときに襲撃に来た、ということであった。


「さあ、お前らの計画は俺が潰してやった。わざわざこんな不意打ちを考えるんだ。正面からの戦闘では、エストとレネを含んだ俺たち全員を相手取れないからだろう?」


「⋯⋯」


「どうする? 降参するか? 今なら命乞いすれば許してやるよ」


 マサカズは三下みたいな発言をする。だが、自分が有利になった瞬間、そうしたくなるのが彼の性だ。そして、仮に命乞いをしたとしても、哂って拒否するまでがテンプレである。

 だが、彼の余裕は次のイシレアの言葉で砕かれる。


「⋯⋯私たちが、この計画しか立案していないとでも思っていたのですか?」


「⋯⋯え?」


 三下の発言のあとには、大どんでん返しがある。これは大抵の物語に共通するある種のお約束と言えるだろう、しかし、その大どんでん返しをするのが主人公ではなく、敵であるとは誰も思いもしなかった。


「⋯⋯よう、一週間ぶりか?」


 突然、彼は現れた。

 梔子色の髪、碧色の瞳、整った顔立ち。王族であるというのに、並以上に鍛えられた体を、彼は持っている。そして、髪からはみだしている長い耳が、彼の種族を表していた。

 大樹の森の調査で行方不明になり、売国奴ではないかと結論付けられた男、エルフの国、ローゼルク王国の現国王、ドメイ・シェルニフ・ヴェル・ローゼルクだ。


「お前⋯⋯!」


「そう怒るなよ、エスト」


 彼を見て真っ先に激情したのはエストだった。おそらく、彼女がこの六人の中で最もドメイを恨んでいるからだろう。

 無詠唱で展開された赤色の魔法陣がドメイの方を向いていた。


「⋯⋯で、第二の計画ってこれか? ドメイ、お前は何か勘違いしているようだが、今更俺たちがお前を殺すのに躊躇があるとでも思うのか? ⋯⋯あるわけないだろ」


「そうだろうな。俺はたしかに強いが、この戦闘に加わろうとしたら、瞬殺だろうよ」


 ドメイはたしかに、普通のエルフと比べれば魔法能力も近接戦闘能力も、最高峰である。しかし、ここにいるメンバーは普通のエルフなんて何人、何十人、何百人、何千人、何万人と単体で虐殺できるような存在だ。

 最高峰であっても、それは小さな範囲の中では、だ。世界的に見たとき、ドメイは弱者だ。


「なら──」


「だが、俺にはエスト、お前をこちら側の味方になるように説得できるんだよ」


「──は?」


 ドメイが何を言っているのか。いや、言葉なら全員理解できる。しかし、その意味を誰も理解できないのだ。

 殺意しかないエストを、どうやって味方にするというのか。


「⋯⋯エスト」


「分かってる。聞く耳なんて持たないよ」


 そもそも、話し合いすら拒否されているというのに、どうやって話し合いに持ち込むのか。


「⋯⋯だろうな。まずは、俺の話を聞かせるところから始めないとな。⋯⋯イシレア、メレカリナ、あとは頼んだ」


「全く、使えませんね。⋯⋯ですがいいでしょう。協力してくれたのですし、今回は大目に見ましょう」


「分かっタぁ〜。白の魔女を死なない程度に弱らせればいいんだネぇ〜?」


「ああ」


 イシレア、メレカリナ、ドメイの三人の目的は、エストを仲間にすること。この六人の中でおそらく最強の存在である彼女を仲間にすることができたとすれば、まともに相手にできるのはレネだけになる。しかし、イシレアとメレカリナを含めた三人の相手をできるほどの力を、彼女は持たない。


「⋯⋯私を弱らせる? キミたちごときが、できるの?」


「私たちはこれでも大罪の魔人の中では、ある一人を除けば他の誰より強いんですよ?」


「そうそウぅ〜。まアぁ〜? その一人も対策方法は知ってるかラぁ〜、勝つこともなければ負けることもないんだけどネぇ〜」


 イシレアとメレカリナは、大罪の魔人の中では第二位と第三位の実力者である。第一位は能力が凶悪なだけであり、実質的な戦闘能力だけであれば第一位と第二位といって構わないだろう。

 ──場の緊張が一気に高まる。威圧感と威圧感、魔力と魔力がぶつかり合い、空気は異常に重苦しくなった。


「⋯⋯〈爆裂(エクスプロージョン)〉っ!」


 そして、その緊張の糸を最初に切ったのは、エストだった。

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