3−2 マサカズ、大人になる
プロセカにハマってて書いてませんでした。反省はしてます。でも後悔はしてません。
「⋯⋯わお」
マサカズたちが見た王城は、ウェレール王国で見た王城とは異なっていた。あちらがまさにファンタジーな王城というのであれば、こちらは、自然と人工物という真逆の要素が上手く噛み合い、独特な美しさを持つ遺跡のような王城である。
「ようこそ、我が城へ⋯⋯なんてな。まあ、気楽にしてくれ」
ドメイが王城に入ることを促す。彼に従い、王城内部の長い通路を歩く。通路には一定の間隔で高そうな絵画があり、それらを眺めつつマサカズは歩いていた。
「⋯⋯そんな絵に、なんの価値があるかは分からないな」
「ん? ドメイが買ったものじゃないのか?」
「ああ。これらは親父──前国王が買ったものだ。俺としてはこんな六百年前以上のもの、さっさと倉庫にでもぶち込んどけ、と思うんだがな」
六百年以上前の絵画。防腐の魔法がかけられたそれは、そただの落書きではない。芸術に関して、知識も理解もないマサカズでも、その価値がどれだけ高いかが分かる。
「⋯⋯気持ちはわかるが、そういうものなんだよ」
「そういうもの、か」
二人の会話が終わる頃には、目的の部屋の前に到着していた。
目の前に現れた扉には装飾といった装飾はないものの、独特で美しい模様が掘られていた。扉は見た目よりも軽いらしく、ドメイは軽々とそれを開く。
目の前に広がる光景は、まさに王家の晩食に相応しいもので、来客全員を満腹にできる量がある。
「お越し頂き、ありがとうございます。この度は私、フェリシア・シェルニフ・ヴェル・ローゼルクを助けてくれたお礼として、皆様を招待させて頂きました」
そう言ったのはエルフの国の王女。ドメイの妹に当たり、その美貌は他のエルフとでさえ一線を画す。
梔子色で、ストレートの艶のあるスーパーロングヘアには花の髪飾りがある。碧色の透き通るような瞳を持ち、オフショルダーの緑色の服に、白色のティアードスカートを穿いている。
ナオトとユナは、異世界に来てから容姿が整っている者しか見たことがないと、ふと思うが、マサカズはそんなことを考えるほど、冷静でなかった。
「──!」
日本にいた頃からずっと夢にまで見ていたシチュエーション。それが、御年16歳にして叶った。
異世界に来てから、ずっと彼はこの時を待ち望んでいた。コスプレなんかではない、正真正銘本物のエルフの美少女との対面。普通の人間にはない魅力を、彼女は持っていた。
「どうされました?」
「⋯⋯い、いえ⋯⋯なんでもありません」
その姿を目にするだけで、マサカズの生涯の悔いはなくなった。これ以上の高望みなど、してはならない。
嗚咽しそうなのを必死に我慢して、
──俺は、本物のエルフに出会ったぞ⋯⋯。
日本にいる親友に、彼はそう伝えた。
「⋯⋯?」
フェリシアはマサカズが自分を見たことで、急に押り黙り、俯き、身動き一つしなくなったことに驚いても、彼の気持ちを理解することはできず、ただただ困惑するだけだった。
食器の音だけが食堂に響く。会話は一切ないのが、マナーでは正しく、王家の夕食ではこれが当たり前だった。しかし、王家、ましてや位の高い人でもないマサカズたちからしてみれば、慣れないものだ。
「あ、あの⋯⋯」
そんな空気を和ませようと、フェリシアは会話を始める。
「赤髪のメイドと魔女様はどちらに?」
彼女が教会の牢獄から逃げ出したあと、出会った二人だ。
「メイドの方は私の屋敷に居ます。魔女の方は、今頃は他の大陸でしょう」
数日屋敷を開けるのであれば、メリッサは必要な存在だ。
「そうですか。⋯⋯ではこれを」
フェリシアはレネに、異空間から取り出した真っ赤な宝石の飾りが付いたネックレスを二つ渡す。
「⋯⋯魔具、ですよね」
「はい。私が作製したものです。見た目が良いものがそれくらいしかないので、お気に召すか⋯⋯」
「ありがとうございます。私から渡しておきましょう」
先程の異空間から取り出す魔法といい、魔具を創れる魔法といい、どうやらフェリシアは魔法に長けているようだ。元々魔法能力が高いエルフの王族だからだろう。
それからしばらく食事を楽しみ、マサカズたちはフェリシアに礼を言って、その場を去る。
「⋯⋯フェリシア、満足したか?」
「はい、お兄様。『恩には恩で返せ』⋯⋯お母様から、幼い頃ずっと言われ続けたことです」
ドメイは神妙な顔で、どこか遠くを見つめていた。
「⋯⋯お兄様の言うことも間違ってはいませんでした。ですが、私はこうしたかった──まだ怒っていますか?」
「⋯⋯いや」
最初、フェリシアがレネたちをエルフの国に招待しようと提案したとき、真っ先に、そして唯一反対したのは現国王であるドメイだった。その理由は『黒の教団の一件があり、忙しいだろう』であったのだが、結局、彼の意見は通らなかったのだ。
開けていた窓から、冷たくて、心地よい夜風が入ってくる。
「フェリシア」
「何でしょうか?」
「──もし、この国に何かあったなら、お前だけでも逃げてくれ。お前さえいれば、エルフは根絶されない」
「⋯⋯え? それはどういう⋯⋯」
「⋯⋯もしも、の話だ。いつメ──黒の魔女がこの国を襲撃するか分からないからな」
「分かりました。⋯⋯ところで、お兄様は『黒の魔女』の名前を知っているのですか?」
先程、ドメイは『黒の魔女』という前に、『メ』と言った。それがフェリシアの中では引っかかったのだ。
「⋯⋯さあな」
「⋯⋯そうですか」
ドメイは答えようとしない。だが、知っていると肯定することも、噛んだと否定することもしない。それはつまり、話せないということ。
「⋯⋯部屋に戻る。あまり夜更しするなよ」
「おやすみなさいませ、お兄様」
窓の外から見えるのは、真っ暗な空。先程まで見えていた星空はそこになく、代わりに厚い雲が夜空を覆っていた。
「星、見えませんね⋯⋯」
◆◆◆
マサカズ・クロイは見た──そう、俗に言う『大人の夜のお店』というものを。
彼はたしかに、三次元には興味がなかったのだが、それでも、男の本能というものは働く。日々、誰にもバレないように、自室のベッドで、一人でゴソゴソとする夜だって何回もあった。そうしなくてはベッドを汚すことになるからだ。
女性陣、特にエストにバレるのは避けなくてはならないことだった。彼女はきっと、いつまでもそれをネタに弄ってくるだろうからだ。性格的に、絶対にないとは考えられない。そうだと、マサカズはエストに偏見を持っている。
「⋯⋯まだお腹空いてるからそこらで飯食ってくる」
「え、あ、はい。分かりました。宿屋の場所はわかってますよね?」
「──ああ。じゃ」
少々ユナには怪しまれたが、マサカズは何とかその場から抜け出すことに成功した。
「⋯⋯」
マサカズは飯屋に足を進めつつ、己の感覚をフル活用して、ユナたちが離れるのを察知する。しばらく歩いたところで、気配が完全に消えたのを確認すると歩いてきた道を戻り、路地裏に入り込む。
「ここが⋯⋯」
路地裏にまるで見合わない、ピンク色の看板には店名と何かを注意するマークがあった。おそらく、それは未成年入店不可のマークだろう。
現代日本の法律では、マサカズはまだ未成年だ。しかし、この世界では16歳から成人扱いされるため、お酒も飲めるし、このような『夜の大人のお店』にも入れるわけだ。
「⋯⋯よし」
意を決して、マサカズは店の扉を開ける。
「──!」
「いらっしゃいませ!」
彼の視界に飛び込んできたのは、美女、美少女のエルフたちだ。体のラインがくっきりと現れている際どい服装で、男の本能を刺激する。
この時点でマサカズの頭は沸騰寸前だ。
「お客様、嬢はどうされますか?」
受付の人がマサカズに、写真ボードを見せて聞いてくる。
写真という技術があるのか、なんて考えるほど彼の頭は冷静ではなかった。
「えっ、えと、あのー、お任せします」
「分かりました。ではこちらに」
マサカズは個室に案内される。その間に料金などについて説明された。その料金は一時間で金貨一枚。日本円にして約一万円だ。これはフリーだからであり、指名ならば少しだけ料金が上がるのだが、今の彼には関係ない話である。
勿論、彼の財布にはそれを十分に支払えるだけの余裕がある。
個室でマサカズは緊張しつつ待っていた。そして、すぐに嬢は来た。
「初めまして。ネラーノです」
色気のある声。年上の魅力を持った容姿。大きな双丘は衣服には収まりきらず、ピチピチのその部分の頂点は少しだけ立っている。
「は、初めまして。マサカズ・クロイです」
金色の髪は肩くらいまであり、空色の目には固まったマサカズが反射する。
「こういうのは初めてですか?」
「は、はい⋯⋯」
「そうですか。そうですよね。では、私がリードしましょうか?」
「是非、お願いします」
大人というより、お姉さんと言ったほうが正しい。外見年齢も、人間で言うなら二十代ではなく、十代後半くらいだ。
しかし、マサカズからしてみれば彼女、ネラーノは外見年齢よりも大人らしかった。
彼女は服を脱ぎ、彼の体の上に乗りかかり、彼のズボンと下着を一緒に下げて──。
「⋯⋯ふぁ」
一時間が経過した。
所謂賢者タイムというものが、どういうわけか今回は訪れず、何回戦かすることができた。
ネラーノは服を着つつ、マサカズに話しかける。
「⋯⋯マサカズさんほど若い人の相手をすることは久しぶりでしたが、どうでしたか?」
「最高でした。俺、またこの国に来ることがもう一度利用します」
「ふふふ、その時を楽しみに待っています。⋯⋯そういえば、マサカズさんはどうしてこの国に?」
エルフの国に、異種族が来ることは珍しい。そのため、ネラーノは気になったのだろう。
「⋯⋯フェリシア王女様に招待されまして」
「王女様が⋯⋯ってことは、マサカズさんは王女様を救出した御人だということですか!?」
「あ、そういうことになりますね。⋯⋯まあ、俺は直接は関係していないんですけども」
「そうだったのですか⋯⋯」
彼女は少々驚くも、納得、と言った顔だった。エルフは魔力を感じられる。そして、転移者であるマサカズも、魔法職でないとはいえ、普通の人間よりも魔力量は多い。だから、ネラーノはマサカズが只者ではないと最初から気づいていた。
マサカズも着替えて、大人の夜のお店から外に出る。火照った体には、夜風の冷たさは丁度良く、心地良い。
──突然、目の前に白髪の少女が現れる。
「エストっ!?」
「やあやあやあ、怪しいから後をつけてみれば⋯⋯キミもやっぱり男の子だね〜?」
今一番会いたくない人物に出会った。
「さーて。どうしよっかなー。言いふらしてあげようかなー」
「お、お前、言いふらそうものなら死んでやるからな!?」
「戻る前に蘇生してあげるから大丈夫だし、そもそも阻止してあげるよ」
「コイツ──っ!」
折角余韻に浸っていたというのに、エストによってマサカズの調子は狂う。
「⋯⋯なんてね。言いふらすわけないでしょ? キミの名誉に関わることだ。久しぶりに人をからかえて、愉しかったよ」
「⋯⋯」
本当に、エストの性格は悪い。
だが、これで安心してはならない。彼女なら、嘘をついていてもおかしくないのだから。
「⋯⋯いやー、にしても凄かったね。あのエルフの子、あれはテクニシャンだよ」
「だよな。本番ありなら、俺、絞り取られ──待て、お前今なんて言った?」
「え? 『あれはテクニシャンだよ』って言ったけど」
つまり、エストはマサカズとネラーノの行為を最初から全て見ていたというわけだ。
「──」
ついに耐え切られなくなり、マサカズはエストに剣を振るが、しかし、当然ながら避けられる。
「あはは! ごめんって、見たのは謝るからさ」
「お前⋯⋯っ! 殺してやる! 絶対にだ!」
煽られながら、そのあとマサカズは剣を振り続けたが、何回戦かした彼の体力は少なくて、すぐにバテてしまい、エストに余計煽られたのは言うまでもない。
「『死に戻り』したい⋯⋯」
──死んだ方がマシなほどの羞恥心というのを、マサカズは経験した。
実は、官能描写を入れようとしていたんですが、小説家になろうだとその辺厳しかったはずなんで丸々カットしました。まあ、私は童貞の未成年なんでそんな上手い官能描写が書ける気はしませんけども。
そういう描写学ぶために、官能小説読もうかな⋯⋯。
にしても『風俗店 何する』で検索をかけることになるとは、小説を書き始めたころは思いもしませんでしたよ。私にはちょっと刺激が強かったです。
ちなみに、エストはマサカズとネラーノの行為は見てません。というか見ようものなら魔力を感じられるエルフたちに即効でバレます。
で、今回、こんな話を書いた理由ですが、マサカズたちの性欲ってどうなってるの? という疑問を晴らすためです。ぶっちゃけると、伏線はあまりないです。
冷静に考えたら、エストは言わずもがな、ユナもかなりの美少女なので、そんな二人と同居していたマサカズとナオトの理性強すぎでは⋯⋯?