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白の魔女の世界救済譚  作者: 月乃彰
第一章 王国の騒乱
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第一章 エピローグ

 寒暖差の影響で体調を崩し、投稿が遅れました。すみません。

「バカっ! このバカっ!」


 エストの顔色はかなり悪い。冷や汗を尋常(じんじょう)ではないくらいかいている。喋ることさえ辛いはずなのだが、彼女はその罵倒(ばとう)をせずにはいられなかった。


「ごめんって。だから殴らないで!?」


 ロアが赤の魔女と自称した挙句(あげく)、エストの名とマサカズ達との関わりを全て暴露(ばくろ)したため、村はすぐさま騒がしくなった。なんとか全員を眠らせ、エストが記憶をいい感じに(いじ)り、事無きを得たが、今のエストに能力の酷使(こくし)は下手をすれば命に関わる行動であった。


「⋯⋯エスト、あなたは病人ですから、大人しくしてください」


 レネの言葉でようやくエストは冷静になる。


「とりあえず、(わたくし)の屋敷に行って、詳しく話を聞きましょう」


「そうだな。⋯⋯俺も治療を受けたいし」


 マサカズの全身はボロボロ。出血が酷く、今にも倒れそうだ。


「では行きますよ? 〈転移陣テレポーティングサークル〉」


 七人全員を対象とした魔法陣が現れ、全員をレネの屋敷内に転移させる。転移阻害の結界はどうやら本人さえ対象であるらしく、転移先は屋敷から少し離れた位置であった。

 屋敷に入り、話を終えた頃には、既に夕方であった。折角ということで三人は、今日はレネの屋敷に泊まることになった。


「ナオトも風呂か?」


「ああ。というか、この屋敷の風呂男女で別れているんだな」


「執事も居たからか。それでも男女で別れているのは凄いぜ」


 そして時間は過ぎ、現在は夜の八時。夕食も終えたため、あとは風呂に入って寝るだけだ。

 お風呂場はとても広く、銭湯にも匹敵する。流石に湯船は一つしかないが、これがもう一つあるのだから、この屋敷がいかに広いかがわかる。

 体を洗い終わり、湯船に入ると、体の疲れがどっと湯に流れ出て行くような錯覚を覚える。

 湯船に入って「ふぁー」と言うのは、日本人特有のものだろう。丁度よい湯の温かさは専用の魔具によって維持され、人が入る度に湯が浄化されるらしい。いつでも一番風呂が入れるというわけだ。


「やっぱり魔法は凄いよな。傷が消えた」


 マサカズの全身の傷はきれいサッパリ消え去った。元の世界に居た頃に負った刃物による古傷は消えなかったのは少々残念だが、魔法も万能ではないということだろう。


「でも⋯⋯しばらくは休まないとな」


 傷は治ったとはいえ、疲労までは回復しない。それに未だエストの魔毒は抜けておらず、どちらにせよ何もできない。


「⋯⋯なあ。折角だし、この世界の言語学ばないか?」


「いいよ。ボクはもう覚えたけど」


「⋯⋯え?」


 ナオトは平然とそんなことを言い出した。


「音声は自動翻訳されるから、全くわからない状態ではないしな。あとは単語と文法を覚えるだけだったし、文法は日本語に似ていた」


「⋯⋯ちょっと教えてくれないか?」


「そうだな⋯⋯まずは文字の種類からだ」


 この世界──というより、このあたりで使われている言語は『ローンル語』というらしい。それには『ナラヒ文字』と『ンカ文字』があるが、最悪『ナラヒ文字』を知っていればあとは何とかなる。


「なんで何とかなるんだ?」


「多分、日本語で言うところの漢字が『ンカ文字』に当たるからだろう」


 つまり、ベースは『ナラヒ文字』で、そこから発展したのが『ンカ文字』であること。しかし、幼児向けではない書体を読むならば『ンカ文字』の習得は必須である。


「とにもかくにも、言語を習うなら『ナラヒ文字』のマスターからだろう」


「わかった。英語の成績は良かったんだ。別言語なんてすぐにマスターしてやるぜ」


 思い立ったが吉日。マサカズは湯船から上がると、すぐさま自室にナオトと一緒に向かおうとするが、

 

「⋯⋯ちょっと待てよ。エストの能力があれば簡単に『ローンル語』が学べるんじゃないか?」


 自分で学ぶよりも、簡単な方法があったことに気づく。今はエストに能力を使わせることは出来ないが、今急ぐべき事でもないのだ。後からでも問題はないだろう。

 マサカズは再び湯船に戻る。


「⋯⋯ナオト、魔法使いたくない?」


「突然何を言うかと思えば⋯⋯どうしたんだ?」


「特に理由はないんだがな、やっぱりファンタジー世界といえば魔法だろ? それを使いたくなるのが男ってもんじゃないか」


 現状では、エストとレイのみが魔法を使える。だが二人の魔法能力は化物であり、ただでさえあまり役に立たないマサカズらが魔法を使えるようになったところで、それほど恩恵はない。しかし、それでも使いたいと思わせるのが魔法であり、これは男の浪漫である。そこに実用性や必要性はなくても。


「⋯⋯でもまあ、自分の魔法適正か分からない以上、魔法の勉強をするわけにはいかないか」


 魔法能力の九割は才能とされる。残り一割が努力であることからわかるように、魔法において努力とはいかに無意味であるか。これが天才同士ならばその努力で勝敗が決するが、多くの場合では努力をしたかどうかなんて大した問題にはならない。


「そうですね⋯⋯マサカズさんには殆どの魔法の才能はありません」


「レイか。⋯⋯にしても、そうキッパリと言われると悲しいものがあるな」


 いつの間にか入ってきていたレイは、マサカズの魔法適正を視る。


「⋯⋯殆ど? ってことは、マサカズにも適正のある魔法があるのか?」


「はい。それは──」


 レイは言葉をためて、マサカズはその答えに期待する。


「──黒魔法です」


「⋯⋯マジで?」


「ええ。それに適正があるといっても、比較的です。十年それに打ち込んで、第五階級──三流程度がやっとかと」


「⋯⋯俺、魔法戦士になること諦めるわ」


 ◆◆◆


 夜中。皆が眠る頃、その眠りを妨げる轟音(ごうおん)が屋敷内に響く。音の鳴った所は屋敷の二階である。


「っ!」


 エストはその部屋が誰の部屋であるかを知っており、誰よりも早くそこへ向かった。

 この部屋で眠っていた人物は地面で倒れていた。死んでいるわけではなく、気絶しているようだが、彼女を気絶させれるほどの実力者にエストは警戒していた。


「情報通りでしたねぇ⋯⋯他の魔女が居るとは」


「キミは何者だ? ここに何しに来た?」


「私はお前達魔女──魔族を滅ぼす者。目的は──」


 神父服(しんぷふく)の男は、大きな十字架(じゅうじか)を剣のように構える。見ると十字架の一部は刃物のようになっていた。

 男は現地の人間で、異世界人でも、魔族でもない。だというのに男の身体能力はエストを超えるほどにあった。

 

「しまっ──!」


 反応に遅れ、エストは男の剣撃を避けることができなかった。しかし、エストに剣が突き刺さることはなく、むしろ剣は弾かれていた。今、それができる者は屋敷では一人。


「ロア!」


「赤⋯⋯」


 男は流石に魔女二人を相手するのは厳しいと判断したのか、二人と距離を取る。


「⋯⋯まあいいでしょう。目的は達成できましたし」


 レネを担ぎ、男は窓から外に出ようとする。


「させるか! 〈重力操作コントロールグラビティ〉!」


 反動に耐えて、何とか一度だけ魔法の効果を発揮させられた。しかし魔毒の影響でそれは弱く、更に男の魔法抵抗力もあり、意味はなかった。


「追いかけるな!」


 飛び出そうとしたエストをロアは静止する。今のエストでは、男を追いかけた所で何もできずに殺されるのが火を見るよりも明らかであるからだ。


「⋯⋯エスト」


 騒ぎを聞きつけたマサカズ達がやって来たのは、既にレネが(さら)われたあと。


「クソっ!」


 エストは近くにあった花瓶を殴る。それは一瞬で木っ端微塵になり、衝撃波が生まれ、場の空気が緊張する。──魔女の、圧倒的強者の威圧感。普通の人間であれば気絶してしまいそうなくらいだ。


「レイ、私はレネ⋯⋯姉さんを助けに行く」


「今のエスト様では無理です。魔毒が抜けるまで待ちましょう?」


 そうだ。今は待つしかない。相手の力がわからない以上、こちらの最大戦力を持ってして攻めなくてはならない。もしあの男並みの存在があちらにもう一人いれば、ロアだけでは対処はできないし、レイとマサカズ達がいた所で邪魔なだけだ。

 それらを理解できないほど、エストは馬鹿ではない。先程自分がやろうとしていた事がいかに無謀(むぼう)で、(おろ)かな行動であったかなんて完璧に理解できている。しかし、せずにはいられなかった。合理性よりも感情を優先してしまうのは、やはりエストは元人間であり、レネとの関係が友人以上──家族のようなものであったからだ。


「⋯⋯少し頭を冷やしてくる」


 いつもは、どこか余裕そうな態度をとるのが彼女であった。だが今はその態度をとることは出来ない。余裕なんて一切ないからだ。


「⋯⋯ロアが見ておく」


 エストが何かしでかさないか、また、あの男から守るためにロアは彼女の後を追う。

 残された四人は、これからのことを話し合う事にした。


 ◆◆◆


 青の魔女、レネ。彼女は六人の魔女で唯一人々から怖れられておらず、特にウェレール王国からは信仰さえされていた。その理由は彼女が人間に対して極めて友好的であり、力を貸してくれる存在であるからだ。

 ⋯⋯当然、そんな女神にも等しい彼女が攫われたとなれば、王国はすぐさまその事実を知り、国をあげた捜索を実行するだろう。


「⋯⋯なんだって? レネ様が攫われた!?」


 王城に急遽(きゅうきょ)集められた王国軍の『神人部隊』は、その事実を知るやいなや取り乱す。その中でも特に騒いでいるのは神官(プリースト)のアンジェラ・ゼータ・チェンバースである。


「落ち着けアンジェラ。⋯⋯それで王様、その話は本当ですか?」


「ああ。⋯⋯今朝、レネ様のメイド様より伝えられたことだ」


 国王ともあろう者が、たかがメイドにも様を付けるほどにレネの立場は高い。国王は冷静のように見えるが内心ではとてつもなく焦っていた。

 王国軍の最高戦力である『神人部隊』が招集されるのは至極当然のことである。だが魔女を攫えるような存在を相手取るには少々戦力不足だ。それを分かって、部隊長のアキラ・アルファ・サイトウは国王に質問する。


「⋯⋯我々はどの部隊と共に行動すれば?」


 王国軍の特殊部隊は『神人部隊』含めて主に六つある。その中でも今回の作戦に適しているのは『神人部隊』の他に二つだ。しかし国王の答えはそれら二つ以外のものであった。


「⋯⋯お前達と共に行動するのは──召喚者三名だ」


 国王の言葉に、『神人部隊』の六人全員が驚く。

 それと同時に王室内に四人の人間が転移してくる。そのうちの一人は王国軍の魔法使いであるが、その他三人は全く知らない人物であった。だが、彼らの顔立ちから、彼らが何者であるかは瞬時に理解できた。


「⋯⋯え?」


 突如国王からの招集を受けて、転移した先には見知らぬ六人が居た。状況が一切理解できず、三人──マサカズ、ナオト、ユナは混乱していた。


「⋯⋯まずは、現在の状況から説明しよう」

 これにて第一章完結! これから第二章、『ウィッチ・キラー』が始まります!

 本当はレネは攫われず、ティファレトが逃げるって形で始まる章だったんですが、あの状況からティファレトが逃げれるとは思わなかったんでレネさんには攫われて頂きました。結果、エストの殺意が増大したんですけど⋯⋯。

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