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白の魔女の世界救済譚  作者: 月乃彰
第六章 黒
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6−18 憤怒

 バスターソードによる猛撃を躱しながら、カルテナはゲブラーに魔法で反撃する。

 だがしかし、油断をなくし、カルテナを敵としたゲブラーには、それら魔法は通用しない。

 振り下ろされる剣。迫る刃──死を避けることはもう続かない。


「が」


 バスターソードがカルテナの体を肩から割いた。即死こそ免れたが、致命傷なのは誰が見てもよく分かる。

 触れることさえできなかった。カルテナの能力を把握されているからこそ、そして実力差があるからこそ、ゲブラーはカルテナと接触せずにカルテナを滅する。


「〈治癒(ヒー)──」


 残り少ない魔力でその身の傷を癒そうとするが、ゲブラーは許さない。両手を一瞬で切り裂き、その断面から鮮血が吹き出る。

 痛みに耐えきることができずに、カルテナは地面に倒れた。


「終わりだ」


 心臓を目掛けたバスターソードの刺突。それは確実にカルテナの命を一撃で奪う。

 ゲブラーはカルテナを甚振ろうともしない。もしそうしたならば、サンタナを起こすチャンスを得られたかもしれないのに。ゲブラーは冷静で、確実に、油断なく、カルテナを殺そうとしている。

 怒らせることができたならば、ゲブラーからその冷静さを失わせることができれば、チャンスは、


「──クソッタレ黒装束の魔女、ボクの主、きっと、殺す。あんな、ゴミ、なんて」


「────なんて言った、今」


「何度、言う。雑魚。弱虫。死ぬべき。死んで当然。黒の魔女」


 その忠誠心を利用してやる。その狂信具合を活用してやる。怒れ、そして冷静さを失え。


「テメェ⋯⋯!」


 ゲブラーはバスターソードではなく、彼自身の足でカルテナの頭を踏みつける。そして即死させないように、じっくりと痛みを足合わせるようにする。


「俺らの主を罵倒した罪は死刑では償えないと知れ。下等生物!」


 腹を蹴りつけられ、内蔵を抉られるような痛みを感じる。胃の内容物を吐き、血反吐を吐いた。肋が幾本か折れて肺に刺さったようだ。呼吸がままならないし、魔法を使おうにもその隙がない。


「死ね。死ね。死ね。死ね」


 殺さないように殺されている。


「死んでしまえ!」


 ボールを蹴るように、カルテナの体をゲブラーは蹴飛ばした。壁に叩き向けられ、それはカルテナから意識を奪ったはずだ。


「⋯⋯⋯⋯」


 否、奪ってなどいない。カルテナは壁にこそもたれかかっているが、そのピンクの瞳でゲブラーを見ていた。

 ゲブラーは地面との摩擦による不快な金属音を鳴らしながら、バスターソードを引き摺り、カルテナに近づく。


「間抜け⋯⋯ガハっ⋯⋯主従、揃って」


 血を吐きながらも、カルテナはそう言い捨てる。

 頭に血が上り、ゲブラーは一瞬でカルテナとの距離を詰め、そのバスターソードをカルテナの頭部に突き刺す。

 カルテナの頭部は真っ二つに割れて、脳髄、大脳、脳幹などと外気とを接触させる。

 赤色とピンク色の半固形物質がボロボロの家屋を色鮮やかに装飾した。


「⋯⋯⋯⋯」


 ゲブラーは何も言わなかった。自らの失態に心の中で叱咤するだけだ。

 そうしてその場所から立ち去り、仲間たちと合流しようとしたときだった。


「なぜ、私はこんなにも弱い」


 声がした。


「どうして、私は仲間一人の命も救えない」


 瓦礫を振り払い、彼は立ち上がる。


「私が──弱いからだ」


 剣を携え、


「私が強ければカルテナは死ぬことはなかった。『憤怒の罪』は、この私の唯一の目的のための手段。だが、使えなくては意味がない」


 怒りの形相を浮かべた。


「カルテナ。どうかこの私を許してくれ。どうか、目の前の敵を滅ぼすことで、その憤怒を鎮めてくれ。私はそれを、確実に完遂する」


 西洋剣を両手に構えたサンタナは、ゲブラーと相対する。


「⋯⋯そうか。そういうことか」


 自分がなぜ、カルテナをサンタナのところへ蹴飛ばしたか──それは、カルテナがゲブラーの精神に干渉したから。しかも深く干渉すれば支配する前に気づかれるリスクを無くし、自らの命を犠牲にカルテナはサンタナを起こしたのだ。


「黒の教団幹部、『峻厳』、ゲブラー。この私がお前に引導を渡す」


 ゲブラーはバスターソードを薙ぎ払うも、サンタナは受け止める。そして刺突を繰り出すが、ゲブラーは回避。バスターソードを地面に突き刺し、棒高跳びの要領で跳躍したのだ。

 しかしサンタナはバスターソードを蹴りつけ、ゲブラーの体制を崩す。剣を逆手に持ち、空中のゲブラーを突き刺すも受け止められた、が、新たに武器を作り出し、その剣でゲブラーを斬りつける。


「ぐあっ」


 それぞれ地面に着地すると同時に、互いに距離を詰め合い、接触するとまたもや金属音が響き渡る。

 剣戟を剣戟で押し合い、弾き合う。しかし両手に剣を持っているサンタナの方が手数は多く、剣戟を重ねるほどにゲブラーは傷ついていく。

 しかしゲブラーは好機を待っていた──そして今、その時は来た。


「何」


 一瞬できた剣戟の隙を狙い、サンタナの足の関節をゲブラーは蹴りつけた。痛みと衝撃が走り、関節は砕ける。サンタナは倒れかけ、剣で体制を立て直そうとするが、ゲブラーがそれを許すはずがない。

 バスターソードが振り下ろされ、そのまま頭がかち割られる──


「──死ねるものかッ!」


 左腕を差し出し、サンタナはバスターソードを片手で受けた。剣はへし折れ、手の平は抉られ、腕の骨は断ち切られたが、筋肉で刃を止めたのだ。


「うおあああああああ」


 雄叫びを上げて、残った右手で握りしめた剣を、ゲブラーの首に突き刺す。刃は貫通し、首の皮で繋がっているも同然だ。気管、食道、脊髄⋯⋯首にあるほぼ全ての機能が文字通り断ち切られた。

 生首になって生きていられる生物は殆ど存在しない。ゲブラーの意識も同時に断ち切れ、操作機関を失った胴体は倒れ伏せる。

 サンタナはゲブラーの死体を見下ろす。


「──『憤怒』は、未だ消えない。お前たちを滅ぼすまでは」


 カルテナの死体に一瞬目をやってから、サンタナはすぐさまベルゴールたちの下へ向かった。


 ◆◆◆


「〈高圧電流束縛ハイテンションライトニングバインド〉」


 電流が鞭のようにしなり、ベルゴールの体にまとわりつく。そこから高電圧、高電流が対象に流れ込むはずであったが、しかし彼の口が電流を食し、無効化した。


「〈抉る砂嵐コアアウトダストストーム〉」


 直径二十メートルの砂嵐が発生する。だがこれも瞬時にして無効化され、ベルゴールが砂を突っ切ってくる。

 ビナーとダートはその場から消え去り、また別のところへ現れる。

 ──このままでは不味い。先程からずっとこうだ。時間稼ぎにさえならないかもしれない。

 遠距離攻撃の手段を持たないベルゴールでは、魔法使いとの距離を縮めることは至難の業だ。仮に接近したとしたも、ダートは転移魔法を行使してその場から逃げる。


「⋯⋯一か八かやるしかない、のか」


 ベルゴールの能力、『暴食の罪』には二つの権能がある。一つが物質、エネルギーなどを食らうこと。そしてもう一つが喰らった力を模倣し、己の力とすること。

 しかし、模倣と言っても完璧ではない。魔法だったはらばその威力はベルゴールの魔法能力に依存する。魔力もあるにはあるが、本職でないベルゴールの魔力のエネルギー変換効率は最悪そのものだ。フィルに「魔法使いとしての才能はからっきしね。むしろ逆に凄い。なんでそんなに無駄にできるの?」と言われたほどである。つまり、まともには使えない。普通に使ったところでビナーとダートほどの魔法使いには児戯にも等しい。あるいはそれ未満だ。

 ただし、一撃だけならば同格の魔法使いレベルの魔法にまで威力を引き上げることができる。これまで溜めに溜め込んだ魔力を全て消費すれば、それくらいはできるはずだ。問題はそれを必中させられる気がしないこと。


「くっ⋯⋯」


 『暴食の罪』の容量がもうすぐで限界になる。もし限界になればベルゴールはエネルギーに耐えきれずに自爆するか、吐き出すことになる。どちらになってもそれがビナーとダートがベルゴールを殺すチャンスになることは確実であった。

 可能な限り雷と地面属性の魔法を避け続け、避けきれないものは食す。

 限界は刻一刻と迫ってきているのを、文字通り体感する。


「ギャンブルは嫌いなんだがな⋯⋯!」


 ベルゴールは突っ走る。その間に魔法を何度も撃たれるが、彼はそれを意に返さなかった。

 一か八かの大勝負。それに勝てば最低一人は持っていけるが、負ければベルゴールの死は確実だ。

 決心し、助けが来るまでの時間を稼ぐことを諦め、自分でのその道を切り開く。


 〈魔法不能領域〉


 フィルの行使した魔法を取り込み、切り札とした、魔法を無効化する魔法。

 勿論、不能化する魔法は〈転移陣〉だ。

 わざわざダートがその魔法を使っているということは、ビナーは転移系魔法⋯⋯もっと言えば白魔法を使えない可能性が高い。〈転移〉を使えたならばそれはダートのみ。確実に一人(ビナー)は殺せる。


「──っ!」


 この『暴食の罪』は当然、生物を食らうこともでき、それを攻撃として転用できる。全身凶器といっても構わない。

 だからベルゴールは最優先でビナーを狙った。予想通り、彼女は〈転移〉を使えない。

 一か八かの賭けには買った。後は、この領域が破壊される前にビナーを殺すだけだ。


「──良い判断でしたね。ですが、無駄です」


 ビナーとベルゴールの間にダートが入って、彼女を突き飛ばした。まさか助けに入るとは思わなかったが、ならばダートを殺すだけ。

 ベルゴールの手の平がダートの頭を触り、そして抉るように食らう。咀嚼もせずに、頭蓋骨ごと飲み込んだ。

 確実に殺した。だが──そう思ったのもつかの間。

 倒れるはずだった体は倒れなかった。

 頭は抉られたままで、再生していない。血も流れ、脳は露出しているし、普通なら確実に死に至っている。しかし、ダートは倒れないし、


「痛いですね。しかし、ケテルと違って私は再生しない代わりに、例えどんな姿になっても生きていられるのですよ。それが私の加護、『フシ』ですから」


 ダートはベルゴールの口のない部分──目に指を突っ込む。眼球は破裂し、ベルゴールから光を奪った。

 ベルゴールは呻きながら後ずさる。


「助かったわ」


「いえいえ、お構い無く。司教として正しいと思ったことをしたまでですよ、ビナー」


 ベルゴールへ掛ける声とは違って、ダートがビナーに掛ける声は随分と優しい。同じ口調でも、同じトーンでも、含まれる感情がまるで違った。


「では、そろそろ終わらせましょうか。黒の魔女様をお待たせするわけにはいきませんから」


「だね」


 ダートとビナーは魔法を唱える。ありったけの、ベルゴールの腹を破裂させられるだけの魔法を。

 このままベルゴールは──


「なっ!? 司教!」


 行使され、魔法を撃ち込まれたベルゴールは、その魔法を喰らわなかった。能力を自ら制限し、わざと魔法に直撃したのだ。しかし、それによって絶体絶命のピンチが変わったわけではない。破裂して死ぬか、外傷によって死ぬかの違いでしかない。

 それでも、ベルゴールは傷んで死ぬことを選択した。


「俺は、喰らったものを消滅させられるんだぜ⋯⋯!」


 どんな状態というものが、仮に虚無であっても、動く体がないのであればそれは死と同義。どうせ死ぬのであれば、最期に一仕事しなければ、ベルゴールは自らの主に顔向けできない。

 限界寸前の胃袋に、ダートの全てを詰め込む。そうして隔離もせず、取り込んで、自分諸共粉々にしてやるのだ。

 ベルゴールは口を大きく開き──、


「ベルゴールっ!」


 助けに来た仲間の声を聞きながら、ダートを喰らった。

 

「────」


 ベルゴールの体は次の瞬間、風船のように破裂し、内臓をぶちまけた。それはサンタナとビナーを赤く染め上げた。


「────」


 怒りが、込めあげてくる。

 こんな短時間で二人もの仲間を目の前で失った。どちらも助けられたはずだった。

 己の弱さが、こんな結果を招いたのだ。もっと強ければ、もっと上手く立ち回れたならば、カルテナとベルゴールは死ななかった。

 サンタナは、自分自身に『憤怒』した。


「────」


 司教と同僚の死を受け入れ、その意志を継ぐ。

 黒の魔女、仕える主のためにその命を犠牲にした尊敬に値する仲間だ。

 しかし、まだ何も終わっていない。その犠牲を無意味にするのかしないのかは全て、ビナーに託された。

 ビナーは二人のために、そして何よりも黒の魔女(メーデア)のために何もかもを捧げなくてはならない。

 ビナーはそれをこの瞬間(とき)、『理解』した。


「────」


 両者は互いの得物を相手に向けた。


「仲間を守れなかった私の罪、お前のその命で償わせてもらう」


「来てみろ、怒れる大罪の魔人。ダート司教とゲブラーの死を無駄にはしない」

 二時間ほど早いですが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 いやはや、もう新年ですか。これを書いているときはまだ2021年ですがね。

 一年経つのは本当に早いですよ。私まだ十代なんだけどなぁ⋯⋯もうこの前が二月くらいに思えてきます。

 やだ⋯⋯年取りたくない。

 友達と電話して年越しすることも考えましたが、誘われない限りしないと決めました。なぜかって? アニメ版のSAOをこれから見るからです。アンダーワールド編でしたっけ? 某絶剣の話のあとです。

 2022年はオーバーロード四期、それに進撃の巨人のファイナルシーズンが来ますし、楽しい一年になりそうです。

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