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白の魔女の世界救済譚  作者: 月乃彰
第四章 始祖の欲望
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第四章 エピローグ

「エスト様、ご無事ですか?」


 イザベリアがエストの魂内に入り込んだ直後、レイが駆け寄ってくる。治癒魔法で彼は自身の体の傷を完治させているが、服はボロボロだ。時間魔法で直すにも、綺麗な状態から時間が経ちすぎている。買い換えるべきだろうか。


「うん。無問題さ」


「良かったです⋯⋯」


 胸に手を当て、安堵するレイ。彼のエストへの忠誠心は日に日に強くなっている。それが良い傾向なのか、悪い傾向なのかは正直半々だ。悪い方面としては、先程の無為な突撃。あれはイザベリアが相手だから良かったが、彼女以外では死んでいただろう。

 まあ、それだけ想っていてくれているということでもあるのだが。


「それで⋯⋯キミは、これからどうするの?」


 エストが目を向けたのは、黒髪に赤メッシュの入った竜人だ。イザベリアの会話やレイの対応から、彼はおそらくイリシルだろうと分かる。


「我の使命はイザベリアから外を守ることだったが、今、その使命は達成できなくなった。それが悪いわけではないが、言ってしまえば今の我はすることがないドラゴンだ。しかし」


 イリシルは人化を解き、元の、本来の姿へと戻る。

 そこに、漆黒の六脚の古竜が現れた。彼はテレパシーを扱い、話を続ける。


『我は、ここで主を待っていよう。それは使命ではないが、我の目標には違いないからな』


「そうですか。⋯⋯主と再開できると良いですね」


『ふむ。そうだな』


 レイとイリシルは、互いを尊敬しあっている。それが、この短いやり取りで分かったエストはそれ以上踏み込もうとしなかった。


「今度会うときは、続きをしましょう。それまでにもっと強くなっていますから」


『ではその時を待っているとしよう。我の寿命は長いからな。十分強くなってから来るが良い』


 別れの挨拶は済ませた。それだけすると、レイは自分とエストを対象とした転移魔法を行使する。

 床に白の魔法陣が展開され、それの範囲内に居た二人はその場から次の瞬間には消え去った。


『⋯⋯行ったか』


 一匹残ったイリシルは、改めて墳墓を見回す。イザベリアが去った今、ここに残っているのはイリシル、ただ一匹だけである。少し寂しい気もするが、


『さて、寝るか』


 どうせここにはほとんど誰も来ないし、来たとしたら自然と起きられる。だから、その時までしばしの休眠だ。

 イリシルは体を丸めて、意識を暗闇の中へと放り投げ、長い、長い夢の世界へと飛び立っていった。


 ◆◆◆


 『始祖の魔女の墳墓』──既に魔女は居なくなった封印地──から直接モルム聖共和国の大都市、アセルムノへ転移することは、然しものエストでさえ厳しい。不可能と言い切ることはできないが、それも万全だったらの話だ。万全でも、選択外になるのだが。


「あ、エストさん。⋯⋯ってことは」


「うん。無事、戻れたよ」


 墳墓上層部に転移し、エストたち四人は合流を果たす。ここへ来た目的も達成できたし、あとは帰るだけである。

 現在の時刻は昼。本当ならば朝に出発したいのだが、現時刻からでもかなり進めるだろう。

 夜、『死者の大地』を歩くことは危険だ。ただでさえ多いアンデッドがより多くなり、活発になるのが日が落ちてからの時刻。

 今から出発すれば、二日後の早朝ほどに到着するだろう。急げば翌日の夕方くらいに着くことはできるが、それをするにはあまりにも四人は消耗しているし、砂竜にも無理を強いることになってしまう。始原の吸血鬼の脅威もあるのだ。可能な限り、体力は温存しておきたい。


「さあ、そろそろ出発しようか」


 ナオトとユナ、そして砂竜四体が水と食料を補給し終わったことを確認してから、エストは出発の合図を出す。

 数時間しか経過していないというのに、外の世界と日光がひどく懐かしく感じる。時間感覚が狂っていた弊害だろうか。常に気を配る必要があった墳墓内では、体感時間が長くなっていた。

 太陽によって熱せられた砂漠はとんでもなく暑く、遠くには揺らぐ影がいくつか点在している。それらはおそらくアンデッドであり、長時間同じところに居座っていたらこちらの気配に気が付き、襲ってくる。だから、極力移動し続ける必要があった。

 度々遭遇してしまうアンデッドを容易く屠りながら、四人は進む。暑いが死ぬことはない。ただ辛いだけだ。それに終わりだって見えているのだから精神的にもまだ余裕があった。


「⋯⋯居ないね」


 エストは主語のない言葉を発した。何が居ないのか、何て野暮なことを、他三人は聞かない。

 ──始原の吸血鬼は、墳墓に到着する約一日前に遭遇し、撃退した。ああいう高位のモンスターは嗅覚なんかも鋭く、エストたちを追うことができるはずだ。

 もし仮に、墳墓周辺に魔物避けの結界が張られていたとしても、既にエストたちはその結界を超えているはず。だから、始原の吸血鬼がいつ襲ってきても可笑しくないのだが、その予兆が一切ない。

 まさか潜んで、好機を狙っているわけではないだろう。あの怪物にそんな知能があるとは思えない──いや、知能はあるだろう。だが、それを塗り潰すだけの渇望がある。生者を襲い、その血を、肉を、命を、(すす)り、(むさぼ)り、(ほふ)りたいという渇望が。


「ですね。でも、仮に現れたとしてもエストさんとレイさんなら、簡単に撃退⋯⋯いえ、倒しちゃうこともできますよね」


「簡単には流石に無理だけど、まあ、苦戦はないね」


 始原の吸血鬼は、今のエストとレイの力であれば、容易く殺害することはできなくても、負けることも苦戦することもない相手だ。

 エストたちはゆっくりと砂漠を歩く。休憩も十分取りつつ、着実に。

 少し長くなった第四章、これにて終了。

 そして、物語もいよいよ佳境を迎え始めるところです!

 ちなみに、予定では第六章で終了しますが⋯⋯多分、五章も六章もめっちゃ長くなると思います。

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