静寂の夜明け
新章開始です。
目の前には薄紫色に輝く絨毯が一面に広がっている。
まだ明けきらない青い光と乾いたひんやりとした空気が肌を刺す。
身体いっぱいに光を浴びて、大きく深呼吸する。なんとも清々しい朝を迎える。
ローチェの国民はみんなそんな朝が好きだった。
目の前には雲を突き抜けて、そびえ立つ大きな筒のような建造物が『ロックマウンテンキャッスル』ローチェ国のシンボルだ。
その塔の最上階には、色とりどりの花が咲き誇る『天空の庭』があり、そこから毎日ローチェを見守る巨大な翼の影が見えた。
『銀翼の王者 イカロス』
この国を何度も災いから救ってくれた英雄。
ローチェが今も他国とは無縁の独立国として成り立っているのもこのイカロスと、この山岳地帯という地形のお陰で、他国の侵略から逃れてきたのだった。
ローチェの国民は争いを嫌い、国民の誰一人として武器を持ったことは無い。
国を守る兵士もいない。
この国を守ってきたのは紛れも無く、イカロスだったーーーー。
☆
眼下には輝く絨毯が広がっている。
今は誰一人として、見るものはいない。
雲を突き抜ける巨大な筒の先には、巨大な翼も無い。
有るのは、絶望という二文字だけがイカロスに代わりこの国を支配していた。
〈 天空の庭 〉
少女は蔦の生い茂る緑のトンネルに身を小さくして、膝を抱えていた。
ガチガチと音を立てる歯を必死に堪えていた。
数分前までは、少女はこの天空の庭でいつもと変わらず面倒を見てくれるメイドと、かくれんぼをしていたのだ。
少女は両手で口を覆い、溢れ出す笑みを堪えて隠れ場所を探していた。
花壇の後ろは昨日隠れた。
大きな向日葵の影はその前に隠れた。
ナンジャモンジャの木の下も隠れた。
少女はキョロキョロと隠れ場所を探す。
少女の目に留まったのは、蔦の生い茂る緑のトンネルだった。
少女は隠れて、メイドが探しに来るまで息を潜めて待っていたーーしかし、いくら待っても探しに来ない。
今日の隠れ場所は少し難しかったかな?と、緑のトンネルからちょこんと顔を覗かしてみた。
小鳥が囀り、蝶が舞う。
緑の葉と色とりどりの花が咲き誇っていた。
それが少女の知っている天空の庭だ。
少女の眼に映る景色はーー、
枯れ落ちた木々と、朽ち果てた花、
そして、その庭の中心に立つのは〈黒い三羽〉の鳥だった。
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ノイシュバンシュタイン城の最上階、王の間に二つの影。
一つは王冠を被り、紅マントを羽織っている。もう一つは黒いスーツに身を包み、短髪の髪を綺麗にセットしていて、とても清潔感のある紳士が王の傍にいる。
「魔物による被害は終息に向かっている。確実に被害が収まりつつある」
「雷帝の活躍と例の☆4爆炎の剣姫……それに、あの白銀の髪の少年……」
「マギの息子か……」
「気になりますか?」
アレフレットが深妙な面持ちの国王に向かって話しかけた。
「気にならんと言ったら嘘になるが、彼ら以外にも他の冒険者パーティーも魔物討伐に尽力してくれた」
「はい。水の国サザンビートの〈アリアカンパニー〉に〈ドレイクザック〉など数多の冒険者パーティーが活躍してくれています」
「……冒険者は国境を超えて、手を取り合ってくれるのだが、国の政治とやらはどうしてこうもこじれるのだろうか」
大きくため息混じりに呟く国王。
「どの国も〈帝国〉という名の世界の中心になり、思い通りの世の中を創りたいのですよ」
最上階の大きな窓から見える巨大な山脈を遠い目をしながら見つめる。
「ーー確かにワシもこの地位が欲しかった。
その為に人生の半分以上を費やした。人としての過ちもいくつも犯した」
窓に両手を押しやる。窓に王の冷やかな表情が反射する。
外が一瞬騒がしくなったと思うと、何者かが廊下をこちらに向かって来る足音が聞こえた。
「報告!ーー報告!」
勢いよく開かれる扉に視線を送る国王とアレフレット。
「騒がしい!王の御前だぞ!」
その言葉に兵士はおろおろと、一歩、二歩と後退りする。
「良い。何だ話してみよ」
兵士を睨むアレフレットの肩にポンと落ち着けと手を置く国王。
アレフレットもその言葉を受けて「中に入るようにと」兵士に頷く。
兵士は一呼吸置いてから受けて意を消したように叫んだ。
「〈緊急レイドクエスト〉がギルドより発令しました!」
「ーーーー‼︎」
顔を見合わす国王とアレフレット。
「アラートレベル5です‼︎」
「な、なんだと……」
「ば、場所と内容は……」
「ローチェ……三怪鳥討伐クエストです」
この日、蟲王ベルゼブブ以来の緊急レイドクエストが全世界に発令されたーーーー。
ご愛読ありがとうございます。
なかなか更新スピードが上がらないですが、気長に待って頂けたら幸いです。
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