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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第3章: カンバーランドの亡霊
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セント・へレンズ

私とロキは家族を捜す旅をしていた。

魔力と剣技を幼い頃から鍛えていた私と、腕っぷしの強く身体能力の高いロキは周囲から一目置かれる存在だった。


故郷カンバーランドを滅亡へと導いた事件。

消えた家族、友人……国民……未だ死体一つ見つかっていない。


私とロキは少しでも手かがりと情報を得る為に必死に冒険者レベルを上げた。

気付けばトップクラスの冒険者となっていた。


それでも得られる情報は乏しく同じような内容ばかりだったーー。


冒険者や商人には知り得ない情報……人的に魔物を誘導し国を襲わせ、国民を連れ去った。

私とロキの憶測だ。

それを立証する確かな情報が欲しかった。


私は秘密裏に貴族の人脈をつかい、カンバーランドの真相を調べた。



踏み込んではいけない、知ってはいけない情報。


遡るは、世界大戦。世界の中心『帝国』を決める人々が血を流した争い。


勝利を手にする為に国と国は吸収し合い、世界は七つの大きな国へとなった。


『魔剣』を手にして猛威を振るい、惨虐無慈悲に暴れまわったノイシュバンシュタイン。


人間同士の醜い争いで、手に入れた世界の中心と『帝国』の名。


敗れ去った国々は今尚、虎視眈々とその地位をまだ狙っていた。



冷たい廊下に靴音が響く。

ゆっくり靴音が大きくなってくる。

ほろ暗い廊下に僅かに蝋燭の炎と影が揺らめく。


「……お父さまに何の御用?」


黒の空間から浮かび上がるように猫の面の少女の声が聞こえた。


「ファウストの人形か?」


口元の髭を触りながら背後を振り返らずニヤリと笑みを浮かべ、そのまま歩みを進める。


その背後をぴったりと猫の面を被った少女が後をつける。


「ふふんっ、そんなに私が信用ならんかね?」


その問いに迷いなくコクリと頷く猫の面の少女。

髭の男はピューッと口笛を吹いて肩をすくめる。


響き渡る靴音が冷たく閉ざされた扉の前へとたどり着いた。


それと同時に鈍く軋む音と共に扉が開く。

出迎えたのは兎の面を被った少女だった。


「……ずいぶんと遅かったな。お父様がお待ちかねだ」


「これでも私は忙しい身なんだよ」


兎の面の少女の言葉に肩をすくめて見せた。


「御託は良い、中に入れ!」


髭の男は眉を上げながら、扉の中へと入って行った。それと入れ替わるように兎の面の少女は扉の外へと出ていった。


「……良いの?」


猫の面の少女は扉を指さした。


「うん。お父様が二人だけにしてくれって」


「そ」


二人は淋しそうに扉の前でぼんやりと炎の揺らめく光を見つめていた。



☆★☆


「ずいぶんと遅かったな。それなりのモノは用意してくれてるんだろうな?」


「ふっ、わざわざこんな辺境の地まで来させておいてお釣りが出るぞ!」


扉の向こうは相変わらず薄暗く沢山の書物と巨大な魔法陣が壁に描かれていた。

部屋の奥には四つの石作りのベットが有り、三つは何も無いが、四つ目のベットには黒羊の面を被った人物が横たわっていた。


中央の石作りの四角いテーブルを挟んで、ファウストと髭の男が向かい合っていた。


髭の男は黒スーツから茶封筒を二つ取り出すと、ファウストに向かい合ってテーブルの上を滑らせるように飛ばした。


「いずれお前の前に現れるだろーよ!」


その言葉と同時に一つ目の茶封筒から中身を取り出す。


「……白銀の髪……まさか……」


「名前はエル・オルブライト。ここまで言えば分かるだろ?遅かれ早かれいずれお前の前に必ず現れる!」


ファウストは身震いしながら、口元を緩めた。

そんな彼の表情を見て髭の男も不敵な笑みを浮かべた。


ファウストは二枚目の茶封筒の中身を取り出す。


「……これは……」


「ああ、コイツは今世界トップクラスのパーティー【Spielplatz】〈シュピールプラッツ〉のセント・へレンズって男だ。かなり頭のキレる男で、どうやらお前さんたちの事や世界大戦の真相にまで辿り着いた可能性がある。

それに、オルブライトと手を組んでいる。早い段階でここまで辿り着く可能性があるぞ」


髭の男は満遍な笑みを浮かべファウストに語りかけた。


「ずいぶんと嬉しそうだな、パウロ!」


その言葉にパウロは更に口元を緩めた。


「この前久しぶりに良い記事が書けたんでね。金になる男を久しぶりに見つけたよ」


「オルブライトの事か‼︎」


ファウストは奥歯をキリキリと鳴らしながら叫んだ。


パウロはその言葉に表情は変えずに立ち上がり、ファウストに背を向けた。


「……お前が何を企んでいるのかは、大体の察しはつくが私には興味が無い。私が興味があるのは人々が食い付きそうな情報(ネタ)だけだ」


パウロはそれだけ言い残すと立ち上がり再び扉へと歩み出した。


「パウロ、報酬がまだだが……」


「ああ、おかげ様で取材の最中にいろいろネタを手に入れたんで結構です!」


パウロは振り返らずに片手を上げ扉の向こうへと消えて行ったーー。


「オイッ!」


ファウストの呼び声にビクッと即座に反応した面を被った少女二人は直ぐに扉の向こう側の部屋に駆け込む。


「ハイお父様!」


ファウストの前に片膝を付く面を被った少女二人。


「カラスと協力してそこの小僧を始末しろ!」


面の少女二人の前に茶封筒を投げ捨てるファウスト。


「カラスは今どこに……」


恐る恐るファウストを見つめながら問いかける猫の面の少女。隣の兎の面の少女もファウストを直視していた。


「カンバーランドだ!行け‼︎」


「「はい‼︎」」


返事と同時に少女二人は消えるように研究室を飛び出して行ったーー。


「……マギ……死しても尚も私の邪魔をするのか……」


ファウストは一人薄暗い部屋の中で、パウロから貰った精巧に描かれた白銀の髪の少年の絵を握り潰した。


ファウストの怨みの炎が今、音を立てて燃え上がったーー。


長編になってしまったのと間が空いてしまった為に物語が繋がらなかったりして申し訳ないです。

あと1話でカンバーランド編が終了です。

新章は今まで通りのテンポ良い展開にしたいです。

今後もお付き合い宜しくお願いします!

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