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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第3章: カンバーランドの亡霊
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一枚の絵

人の気配がどこにもなかった。

物音一つしない無音の世界に〈天使の翼〉のメンバーは迷い込んでいるようだった。


すべてのガラスを失った窓枠は変色し、壁は各所でくずくずに崩れ落ち、瓦礫の山を作っていた。


陽が頂点に立っているというに、人の気配が無いだけでこれほどまでに、空気が冷んやりと感じられる。



「……エル兄ちゃん、ここがカンバーランドの王都にあたる部分になります……」


ミレアの悲しげな声が周囲に響いた。


巨大な建造物が倒壊した無残な姿がそこにはあった。


きっと真っ白で素敵な城だったんだろうと思わせる、雪が降り積もったような白い崩れた壁が散らばっていた。


「……やっぱり噂通り、英雄碑も破壊されてしまっているみたいだね」


エルがティーガーから降りて、周囲を見渡していると、エリーナが荷台から降りて来るところだった。


エリーナは顎に手を当てながら、難しい顔をしていた。


「……エル……もしかしたら、私ここに来た事あるかもしれない……」


「えっ、そ、そうなの?」


思いもよらぬ発言。

彼女もまたカンバーランドに何か接点があるのだろうかと、推測するエルだった。


「上手く言えないんだけど、幼い頃に父と母に連れて来られたような気がするわ」


そう言うと、崩れた城の方へと歩み出す。


「ちょっ、ちょっとエリーナ、勝手に歩き回ると危ないよ‼︎」


エルがエリーナの後を追い、駆け出した。


「あっ! エル兄ちゃんとエリーナお姉ちゃんがーー」


獣車の荷台から覗いていたミレアの声に、クレアとアイナが慌てて顔を覗かせる。


「二人きりで何をしようってかしら?」

「抜け駆けは許さないんだから!」


二人は慌てて荷台を降りると、エルとエリーナの後を追いかけた。


「ちょっ、ちょっと待ってよお」




☆☆☆


幼い頃の記憶を頼りに歩いた。

脳裏に刻まれた映像は、崩壊前の白く美しいカンバーランド城と、レンガ作りの統一された城下町。

その町のシンボルとして建てられた英雄碑。


幼き日の私も確かにここでそれを見た。


あの大きな石碑。


私は母親に「これは何?」と訪ねた。


母親は私の頭を撫でるながら、こう答えた。


「あなたのーーーー」




「エリーナ!!」


エルの声で思わずビクッと、驚き声の方向に顔を向けた。


「急に固まっちゃったんで、ビックリしたよ。 大丈夫?」


心配そうに私の顔を見つめてくるエル。

ちょっと照れ臭い。


「だ、大丈夫だよ。考え事してただけだから」


「考え事? さっきのカンバーランドに来たことがあるって話のこと?」


「うん……その時私、英雄碑についてお母様に尋ねたと思うのよね」


何か思い出せないかと腕組みをしながら考えている。


「エリーナ、英雄碑があった場所はどの辺りか分かる?」


「それなら、覚えてるわよ。 お城が正面から見て隠れないように設置されていたのよ。

正面から見て右手、城下町に設置されていたわ」


崩れ落ち城跡を指差す。


「ーーなら、この辺りがその英雄碑があった場所になるのかな?」


エルの問いに私は辺りを見渡しながら、顎に手を当てる。


「そうよ! 英雄碑は確かにこの辺りに建てられていた」



何もないただ、瓦礫が散乱している場所。

この場所が本当に英雄碑があった場所なのかだろうか。


建物らしい物も何も残っていない。

ただの荒れた更地。


ここから崩れた英雄碑を捜すのはかなり困難だ。


エルとエリーナが絶望的な状況に陥っていると、背後から足音が近寄って来た。


「二人で何抜け駆けしてるのよ!」

「お兄ちゃんどう言うつもり⁉︎」


アイナとクレアがムスッとした表情で現れた。


この二人ははっきりとエルが好きだと公言してる。


ただ、そのことをエルが知っているかどうかは、正直分からない。


私は、エルの顔を横目で見つめた。

エルも私を見つめてる。

視線が合う。


「ち、違うよ。 二人で探索に……」


苦笑いを浮かべて否定するエル。


「そのワザとらしい否定の仕方がますます怪しい!」


クレアが目を細めエルに詰め寄る。


「エル、真面目にここで何をしてたの?」


アイナが真剣な表情でエルに問いかける。


「壊れた英雄碑の破片を探そうと思ってたところなんだ」


「英雄碑がどこに建ってたなんて分からないじゃない」


「私、前にここに来たことがあるかも知れない……うんん。 来たことがある」


アイナの言葉に私は指差した。


「ーーこの場所に最初の英雄碑は建てられていたわ」



何もない場所を指差した。

そこの地面は確かに何が建っていたような跡があった。


「みんな速いですよ……置いてかないでください」


遅れて、ミレアが息を切らしてみんなの所へ合流した。



☆☆☆


英雄碑の欠片は、煉瓦や城の白い城壁に比べて黒曜石で造られていた為、見分けがつきやすくわかり易かった。


しかし、集めてそれを元のように並び変えるのはまるで、難度の高いパズルのようだった。


「えっと、えっと〜〜〜〜っわかんない!」


みんなが集めた欠片の組み立て役のクレアが頭から煙を上げて、役割りを投げ出した。


「もお、だからお姉ちゃんには無理だって言ったのよ! やりたいやりたいって駄々をこねるからみんなが譲ってくれたんだよ」


ミレアが呆れてため息を吐いた。

クレアは口を尖らせて、そっぽを向いている。


これはテコでも動かないなと、エルはクレアに見切りをつけた。


「じゃ、じゃあ、ミレア代わりにお願い出きるかな?」


エルが申し訳無さそうにミレアにクレアの代わりをお願いした。


「はい、お任せ下さい!」



ミレアは組み立てるスピードは段違いだった。砕けた英雄碑は粉々になっている物もあれば巨大な岩の塊の物もある。


全てが復元出きる状態ではない。

三時間程の作業でようやく、一文字読める事が出来た。


「フの字だね」


不恰好だが巨大なフの文字が完成した。

一つを完成させるのにとても労力を要した為、みんなくたくたである。


「ねえ、これ全部の文字を復元するの無理だよ! 何週間もかかっちゃうよ」


クレアは悲痛な叫びを上げながら、地面に倒れこんだ。


「……確かに、効率が良いとは言えないですね」


ミレアも辺りを見渡しながら肩を落とす。


「あの城に何かヒントになる物がないか、調べに行こうよ?」


アイナが崩れた城を指差しみんなに問いかけた。


エリーナはアイナが指す方向に目を向ける。


エリーナの脳裏に懐かしい風景が流れ込んでくる。まるで映画のフィルムを観るように、コマ送りのようにエリーナの目に浮かんでは消えていく。


その鮮明な映像に、エリーナはここに来た事があると確信した。


そして、徐々に思い出して行くーー。




エルたちは、城の瓦礫の下を物色していた。

壊れた椅子、埃まみれの絵画、割れた骨董品などいろんな物を発見したが、どれも英雄碑のヒントに繋がる物は未だ発見されなかった。


「ふう、なかなかヒントに繋がる物は見つからないね」


汗を拭いながらエルが呟いた。


「城の敷地も広いし、瓦礫を全部ひっくり返す事なんて出来ないから仕方ないよ」


アイナは眉を下げ肩をすくめてみせた。


「ねえ、いつまでこれ続けるの?」


飽き性のクレアから早速、文句が口に出る。それと同時に手が止まり、地面に腰を落とした。


「ああ、もう疲れ……ん?」


手をついたところに一枚の絵に触れた。

クレアがそれを拾って絵を覗く。


クレアの目が丸くなるのが分かった。


「お姉ちゃん、何サボってるのよ!」


ミレアがクレアに近寄り、怒鳴り声をあげながらクレアの見つめている絵を覗き込む。


「こ、これって……」


「た、多分、カンバーランド城と英雄碑だよね?」


その声に、エルとアイナが駆け寄る。


「そ、そうだよ……初代勇者の英雄碑……」


エリーナがゆっくりと何かを思い出しながらエルたちに歩み寄る。


「英雄碑の書いてある文字は小さいけど、何となく読めそうだぞ……えーっとーー」




「……フレデリカ……」



エリーナが呟いたーーーー。

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これからも是非ご愛読よろしくお願いします!

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