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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第3章: カンバーランドの亡霊
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水色の兄妹⑤

世界トップクラスのパーティー『 アリアカンパニー』


ギルド申請時のパーティーメンバー数約五十名。現在ではもっと多いとも言われている。


ラヴィ自身が〈代表〉を勤めて経営している企業でありパーティーである。

冒険者パーティーのリーダーであるラヴィは、のちに世界に名を轟かせる、〈雷帝〉〈爆炎の剣姫〉〈暴風の舞姫〉の名を持つ冒険者なのだ。


基本的に自分有利な条件の案件しか受け付けない。ラヴィは【勘】と言っているが情報力と分析力で、先の未来を見据えた【千里眼】を発揮している。


この力により有利な交渉を続けてきた結果、世界トップクラスの企業、パーティーに成長させたのだ。


「……お嬢、この者達も一緒に?」


「〈サザンビート〉まではさすがに連れては行かないわよ。途中でも別の〈仕事〉がありますからね」


「……では?」


「この世の中で生きる術を教えてあげるだけよ」


洞窟の前に白狼の墓を掘り埋葬したロキとアウラ。

最期の別れを惜しむようにいつまでも、その場を離れようとはしなかった。


ラヴィ達パーティーは、そっと目を閉じ静かに両手を合わせたーー。



☆☆☆


「オッちゃんもう少し高く買い取ってくれよ! 中魔結晶だぜ!」


「んん〜〜……じゃあ、三千だな」


「三千五百‼︎」


ロキのキラキラした真っ直ぐな眼差しに負けて、換金所の親父は観念した様子で、大きくため息を吐いた。


「はあ、三千三百が限界じゃ……ロキには敵わんな」


「オッちゃんありがとうな!」


白い歯を見せて店屋の親父からお金を受け取った。


「アウラちゃんに宜しくな」


手を振りながらロキは、交換所を後にした。


ロキは冒険者になっていた。


☆☆☆


ロキとアウラは、ラヴィの知り合いのカンバーランドのある地域の領主に預けられていた。カンバーランドの王族の血筋ではあるが、貴族としての地位は高くない。

そのため、領地の住人たちとも仲睦まじく、ラヴィもカンバーランドに来る度にこの領主に世話になっているのだ。


カンバーランド・フォルトゥナ地方フォートグリフ邸


「ただいま!」


「お兄ちゃんお帰りなさい」


邸宅の扉を開けると、メイド服姿の水色の少女が一目散にロキに飛びついた。


「アウラ、ちゃんと仕事してたか?」


「うん!」


アウラはフォートグリフ邸でメイドとして働いている。これもラヴィの計らいである。


「あら? ロキさんお帰りなさいなのかな?」


「ただいま、リムルさん」


ロキは深々と頭を下げた。

リムルはこの領主の娘で、アウラとは歳も近い事もありとても仲良くさせてもらっている。

金髪の腰まで届く長い髪と、吸い込まれそうな青い瞳、口元にある小さなホクロと、語尾の喋り方が特徴的な可愛い女の子だ。


「リムルと呼び捨てで良いと何度も言ってるかな……」


「そうよお兄ちゃん、リムルはリムルなのよ」


「アウラは少し遠慮しろよな」


その時、ロキ背後から肩に手を回された。


「よっ! アウラちゃんのお迎えか?」


「ヘレンズ⁉︎」


「ーーそうだ、ちょっと話があるんだ。俺の部屋に来いよ。リムルはアウラちゃんの相手をしてやっててくれ」


ヘレンズはロキに手招きしながら、階段を昇りながらリムルに叫んだ。


「わかったかな」


リムルとアウラはきょとんと、それぞれの兄の姿を見つめていたーー。



☆☆☆


「ーー何だよ、話って?」


セント・ヘレンズ・フォートグリフ。この領主の長男であり、いずれこの地域一帯を治めることになる人物である。


「俺も冒険者になる事にした!」


「はあ? ヘレンズはここの長男だろ?」


ヘレンズの突拍子も無い言葉に、呆れ顔で目を丸くするロキ。


「領主の息子とか関係ない。 俺は冒険者となって世界中を旅してまわりたいんだ!」


椅子から立ち上がり、胸を拳でドンっと叩くヘレンズ。


「ーーだけど、領主様が……」


ヘレンズの父は厳しい方である。

ロキとアウラもこの領主邸に来たばかりの頃は礼儀作法などを厳しく指導された。


「父は私が説得してみせる。ロキ、もし私が父から了承を得た際は、一緒に来てくれないか?」


何気無いその言葉が嬉しかった。

この家に来て、まず最初に思った事はとてもみんな優しかった。領主様は礼儀には厳しいがとても親切でロキとアウラはとても可愛がってくれた。


何よりもロキとアウラと同世代の兄妹がいた事だ。この領主邸にラヴィに連れて来てもらってから五年、本当の兄妹のように育ててもらった。


その義理の兄弟であるヘレンズから一緒に行こうと誘われたんだ。断る理由がない。


ただーーーー、


「アウラを……妹が……」


ヘレンズがロキの肩にポンと手を置いた。


「アウラちゃんは大丈夫だよ。リムルもいるし僕の両親もこの家にいるじゃないか。それにたまに帰って来ればいいだろ? さすがに行ってそれっきり帰れない訳じゃないんだ」


「そ、そっかあ……」


「ロキ、私は君たち兄妹に出会えて本当に良かったよ。この五年間、本当に楽しかったしこれからもずっと君たちと一緒にいたいと思う」


「……ヘレンズ……」


「共に世界中を渡り歩こう!」



その後、ヘレンズは両親を説得し冒険者となった。期限付きでいずれはフォルトゥナ地区に戻り領主になる事を約束した。


ロキとヘレンズのコンビの名はカンバーランド中のギルドに知れ渡る。


白狼から受け継いだロキの身体能力の高さ。

カンバーランドの王族の血を分けたヘレンズの魔法と剣術の腕前の高さ。


二人の噂を聞きつけたパーティーは数知れず、それでもロキとヘレンズは頑なに断り続けた。


「ヘレンズ、人数が多いのは悪い事じゃないだろ? どうして、パーティーを組まないんだ」


ロキは前から聞こうと思っていた事だった。


「……信用出来るかどうか分からないだろ?」


「…………」


「俺は一応、領主の息子だ。人を見る目も養ってきたつもりでいる。欲で俺たちと組みたいと思っている奴等も沢山いる。そんな奴等にロキを組ませる訳にはいかない。万が一の事でもあれば、アウラちゃんに顔向け出来ない」


その言葉でロキはようやく分かった。

パーティーを組まなかった理由。

ヘレンズは全部知ってたんだ。


「……ヘレンズ……俺たちのこと……」


ロキがそっと顔を上げた時、ヘレンズは顔を真っ青にしていた。


「どうした?」


ヘレンズが見つめる方向にロキも顔を向けると、まるで天まで届くかのような砂埃が大量に舞い上がっていた。


「ーーヘレンズ、あそこって!」


「フォルトゥナ……地区の方角……」


ロキとヘレンズが歩き出そうとしていると、近くにいた他の冒険者が呼び止めた。


「お、お前らあそこに行くつもりか? 辞めておけ、魔物の大群が押し寄せて町や村を破壊しているらしいぞ!」


その言葉に顔を見合わせるロキとヘレンズ。

聞いてしまったからには、もう誰にも止められなかった。


有り金全部払って馬を購入し、急いでフォートグリフ邸に向かったーー。


カンバーランドの中心部にいたロキとヘレンズは馬を全力で飛ばしても半日かかった。


着いた頃にはすっかり陽は傾いていた。


想像していたよりもずっと、現状は酷かった。


建物は何も残らず、人影一つない。


ただ瓦礫の山が積み重なった何もない世界がそこに広がっていたーー。


「アウラああああああああああぁぁぁっ!」


ロキの声は周囲に木霊するが返事が返ってくる事は無かった。


ロキが絶望に屈していると、ヘレンズは冷静に周囲を分析していた。


「ロキ、おかしいぞ。コレだけ大袈裟に建物が壊されていて、人が一人もいないのに、在るべきものがココには無い」


「ーー在るべきもの?」


「ああ。 その答えの先にはもしかしたら……」


ロキが身を乗り出すようにヘレンズに詰め寄る。


「その答えってなんだよ⁉︎」


「血痕と死体だよ‼︎」


その言葉にハッとなるロキ。

慌てて周囲を見渡す。


「……確かに……無い……これだけ建物が壊されているのに」


「ロキ、生きてるぞ! きっとみんな避難しているはずだ」


「そ、そうだよな。 ヘレンズのおかげで希望が持てたよ」


「……ロキ……偶然魔物の大群が押し寄せて町や村を破壊するものなのか? 未だかつてそんな話を聞いた事あるか?」


「……いや、俺が知る限りではないな」


「この謎を解かない限り、リムルやアウラちゃんには会えないような気がするんだ」


「……ヘレンズ……」



その後、カンバーランドには魔物の大群が次々に襲いかかり僅か一週間で壊滅した。



ロキとヘレンズはカンバーランドの真相を探るべくパーティーを結成したのだった。




妹たちは生きていると信じてーーーー。

弱虫の剣を書き始めた頃は、こんなに多くの方に読んでもらえるとは思ってもみませんでした。

あと少しでブクマも150件になろうとしています。

読者さまに励まされてばかりのまーゆです。

今後も応援よろしくお願いします。

カンバーランド編ラストスパートに入ります!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 〈爆炎の剣姫〉ってアイナ? そうすると、この時点で〈爆炎の剣姫〉がいるって言うのはおかしいのでは? ロキ達が先に冒険者になって、アイナがその後に合流したはずなので。それとも別の人なのか…
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