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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第1章: 出会いの奇跡、ここから始まる軌跡
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パーティー

「れ、れ、レベルが上がってる!!」


エルの冒険者カードを持つ手が震えている。

感動の余り、目が潤んでいる。


そのあまりにも大袈裟な仕草に、

「そんなに騒ぐこと?」と言った風に目を細めてじっーとエルを見つめている。


「ーーっでレベルいくつになったの?」


「レベル2だよ!ダブルスター冒険者になったんだ」


大はしゃぎするエル。

ギルドの他の人からはクスクスと笑い声が聞こえてくる。

エリーナはキョロキョロと見た後、下を俯き頬を赤く染め少し恥ずかしくなる。


この世界でのレベルは最大現在確認されている最高レベルはファイブスター(五つ星)

謂わゆるレベル5である。

このレベルに達したのは世界で三人だけ、つまり勇者と呼ばれた人物だけである。

レベル4でも限られた人物のみしか存在しない。


1レベル、1レベルの熟練度の差が大きいのがこの世界の特徴でもある。


冒険者のほとんどはレベル2とレベル3だが、

レベル2とレベル3では、大人と子供程の差がある。


「エリーナは冒険者カードの更新しないの?」


「私は・・・冒険者じゃないのよ」


「え?そうなんだ。登録しないの?」


「う、うん・・・登録してもパーティーを他の人と組みたくないっていうか・・・」


「あ、あ、あの・・・その・・・」


エルは頬を赤く染めながらいつも通りもじもじしている。


そんなエルをじっーと見つめるエリーナ。

エリーナと目と目が合う。

エルは生唾をごくりと呑み込み覚悟を決める。


「え、エリーナ、もし良かったらぼ、僕とパーティーを組んでくれないか?」


「え?」


思い掛けない言葉に声を失う。

これでお別れだと思っていた。

素直に嬉しかった。


「め、迷惑かな?こんな弱い僕だと」


「うんん。そんなことないのよ。嬉しいありがとう」


素直に彼女に感謝を告げられ、少し照れ臭くなる。短い、ほんの数時間一緒にいただけの関係だったが、エルにとって冒険者になって初めて隣にいて欲しいと思った存在だった。

彼女が可愛いくて、異性として好きとかそういった事を抜きとしても素直にこれからも同じ時間を共有したいと思ったのだった。


「その・・・パーティー申請には冒険者カードが必要なんだ・・・」


「・・・うん。分かった、作るよ」


少し間を置いてエルの言葉にエリーナは頷く。


エルを一度だけ見つめて瞬きを一つすると、ギルドの冒険者申請の窓口へと向かって行ったーー。


エリーナは戸惑う理由があった。

それは、冒険者申請欄に自分の名前を書くことだ。

エリーナ・フォン・ノイシュヴァンシュタイン。これを記入した瞬間に帝国の兵士がこのギルドに大量に押し寄せて来て彼女を城へと連れ帰るだろう。

そして、今後二度と城から出られぬように、二十四時間厳重な監視体制を敷かれる事となる。まさに鳥籠の中の鳥だ。


それだけは、何としても避けたい。

彼女は冒険者申請の名前の記入部分でペンが止まる・・・。

普通の人ならそこはスラスラとペンが走る部分だろうが、彼女は固まり真剣な表情で何事かを考えていた。


思い立って記入した名前は、

エリーナ・ヴォルフスブルク。

ヴォルフスブルクは母親の旧姓だ。

もしかしたら分かってしまうかも知れないが、今彼女が出来る精一杯の偽りだった。


書き上げた申請書を受付の窓口の女性に渡し、しばらくすると冒険者カードを手渡された。


「私・・・冒険者になったんだ」


本当は、ただの家出だった。

勇者って人がどんな人間なのか一目観れればそれで良かったーー。


「エリーナ、登録終わったの?」


「うん。冒険者カード作ったよ」


「じゃあ、パーティー申請をしよう」


「うん!」


ーーけど、彼女は知ってしまった。

冒険への探究心と何かを成し遂げる達成感を。


こうして、エルとエリーナはパーティーとして共に行動することとなったーーーー。



☆ ☆ ☆


ーー 翌朝 ーー



英雄碑(えいゆうひ)ってどこにあるの?」


「英雄碑は勇者さまが生まれた街にそれぞれ建てられるんだ。そしてその街の名前も勇者さまの名の名前になるんだ」


「あんたのお父さんの英雄碑のある街は何て名前なの?」


「三人目の勇者さまは自分の名前を出すのを恥ずかしがって母親の名前にしたらしいよ。

フレデリカって言う街にあるって聞いた」


「恥ずかしがってて、随分シャイな勇者さまなのね。あんたと一緒だね!」


エリーナは悪戯に笑いながらエルの頬をつんつんと人差し指で突いた。


エリーナと出会ってまだ二日目。


昨日はオークキングを討伐した後、

オークキングのドロップ品などを売ってお金にして、シンラの森から一番近いこの街で一泊したのだった。


エリーナに「エリーナは今日どうするの?宛はあるの?」と聞いたら、「私、お金無いの」と笑いながら返事がきた。


結局、同じ部屋で一緒に寝ることになった訳だが、エリーナはエルの事を異性として見ていないのか平気で服を脱ぐし、一緒に一つのベットで寝る始末だった。


ドキドキしてなかなか寝付けなかったのはエルだけだった。


「そのフレデリカって街はどこにあるの?」


「馬車に乗って二、三時間の距離だよ」


「結構近くて良かったじゃない。

それじゃあ馬車に乗ってーー」


「その前に」と、エルは手を前に突き出し、


「馬車代と今日の宿代を稼ぎに一つのミッションをこなしてからだよ」


「げっ!そうなの?」


「前のパーティーだと正直ほとんどお金貰えなかったから、お金全くないんだよ。

昨日のオークキングを倒したドロップ品の換金代が今の全財産だと思っていいよ」


「そ、そうなんだ・・・」


エリーナにとって今は別次元の生活である。

何不自由なく育ってきた。

欲しいものは何でも手に入った。

食べたい物は何でも食べれた。

ふかふかのベッドと広いお風呂、生活において困る事なんて何一つなかった。


エリーナは正直、お金という概念が無い。

要は、買い物をした事がなかった。

お金自体、手に持った事がほとんどなかった。

お金を使う環境にいなかったからだ。


エリーナにとって、昨日の出来事全てが新鮮で初めての体験ばかりだった。


そう、私は鳥籠の中の鳥だったーー。


箒に乗って城から飛び出して見た広い世界、

まだ自分が見た事もない物、触れたことのない物に出会えるかもしれない。

そう思うと胸がワクワクする。

お城に閉じこもっていたらこんな気持ちになる事なんてなかった。


白銀の髪の小さな少年にも出会うことはなかった・・・。


「ーーどうしたの?」


真っすぐ澄んだ瞳で見つめるエル。


「うんん。何でもないよ」


「さあ、ミッションに行こう!」


「うん!!」


私は君の背中をいつまで追いかけていられるのかな?


どこまでも私を引っ張って行ってねエル。








その日、全世界に帝国より号外の通達があったーーーー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初は高飛車な印象があったエリーナでしたが、意外と早くに二人の目線が合いはじめましたね。エリーナは世間知らずですけど、素直な子ということですね。応援したくなる二人で良いですね。
2020/09/17 15:05 退会済み
管理
[良い点] まーゆさま、いつもTwitterにてありがとうございます! 作品、気になって読みにきてしまいました。 七話まで読んでブクマさせていただきます。 とても可愛い作風ですが、キャラクターの背景や…
2020/07/30 21:40 退会済み
管理
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