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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第3章: カンバーランドの亡霊
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水色の兄妹①

「お兄ちゃんおかえり」


「ただいまアウラ、今日はそこそこ魔物を狩る事が出来たんだ!」


珍しい水色の毛色をした狼の亜人の兄妹。

兄のロキは、日々魔物を狩って生活を支えていた。決して裕福ではないが、妹を守れるのは自分だけだと思っていた。妹が幸せになってくれる事が何よりの生き甲斐だった。


「お兄ちゃん凄い、こんなに沢山のお金……」


「ああ、少しずつだけど強い魔物も狩れるようになってきたんだ! これからは今より少しは裕福な暮らしが出来るかもしれない」


「ゆ、裕福なんて……私はお兄ちゃんとこれからもずっと一緒に居られればそれで十分だよ……それに、強い魔物なんて……お兄ちゃんに何かあったら、私……」


悲しそうな表情を浮かべる妹。


「ア、アウラ……」


ロキは妹に近づき、そっと抱き締めた。


「大丈夫だ、にいちゃんはお前を一人何かには絶対にさせない! 何があってもにいちゃんがアウラを守ってやるからな‼︎」


「お兄ちゃん……うん……」


この世でただ一人の肉親であり、唯一信頼できる人物である兄の愛情を感じ、アウラは瞳を閉じた。

抱き締める兄の心地良い温もりをいつまでもいつまでも感じていたーー。




* * * * * * * * * * * * *



「あの色は不吉じゃ! 生かしては置けぬ殺してしまえ!」


「お、お願い致します。ど、どうか命だけは産まれてきたこの子達には何の罪もないのです。悪いのは、こんな毛色に産んでしまった私です……」


獣耳を生やした女性が地面に額を付けて土下座している。


ぎゃんぎゃん泣き叫ぶ、水色の毛の赤子が二人。

狼の亜人の大男の両手に掴まれている。


本来、狼族の毛色は、茶・灰色・黒・銀色稀に白の五色しか産まれない。

白い白狼は神の使いとされていて、産まれた瞬間から特別扱いされている。

実際にこの狼一族の村でも白狼の産まれた記録は一例しかない。それは、今土下座している女性こそが、この村唯一の白狼である。


飛び抜けた身体能力と、狼一族では珍しい魔法力を備えていた。

近隣の魔物や他部族との争いも白狼の活躍でこの村は守られてきた。


「ーーお前の今まで村を守ってきた功績を考えれば、この赤子を助けてやりたい……しかし、この毛色は災いを招くかもしれん。このまま村に置いておくわけにはいかんのじゃ」


「そんな……毛色だったら私も他の人と違います。人を見た目だけの判断だけで差別するのはおかしいと思います……」


「おかしいだと……儂らも人の命を預かる身、何か起こってからでは遅いのじゃ。過去に前例の得体の知れない者を、見過ごす訳にはいかんのじゃ!」


「……分かりました。ならば私たち家族がこの村から出て行けば良いのですね」


白狼は地面に視線を向けながら、呆れた表情でゆっくりと立ち上がる。


白狼に向かって周りにいた狼の男たちは取り囲むように一斉に近寄り、槍を向ける。


「ーーこれはどういうつもりですか⁉︎」


白狼は周りを警戒しながら、長老を睨む。


「見たままだ。お前にはこの村から出て行かれては困るのでな! おっと、余計な考えなんぞ起こさぬ事じゃ。我々の手にはこの忌々しい餓鬼どもがいるのじゃ」


長いあご髭を触りながら、フォフォフォと高笑いする長老。


狼の大男が長老の隣りに水色の双子の兄妹の赤子を置いた。泣き叫ぶ赤子。


「ーー私の子供に指一本触れてみろ!この村ごと全て消し去ってやるぞ‼︎」


白狼の余りの迫力に、槍を突き立てる狼の男たちは思わず後退りする。


「くっ……う、うろたえるな。 強がりだけだ、何も出来やしないーーーー」


長老が何かを言いかけた。

瞬きを一つする瞬間に白い閃光が走った。


「ーーなっ⁉︎」


スローモーションのようにコマ送りの時間が流れる。


長老が瞬きを終えて視界に入ったのは、狼の大男が倒れる瞬間と、大男の手に握られていた水色の赤子が白狼の胸に抱き抱えられていた。


「村の掟だと思い、下手に出れば……赤子に刃物を向ける貴様らを、同胞だとは二度と思わない!」


白狼と水色の赤子たちはそれ以降、狼一族の村から出て行き姿を見た者はいなかった。



* * * * * * * * * * * * *



人里離れた山奥の洞窟で、親子三人で仲睦まじく暮らしている狼の亜人がいる。


白い毛色の母親と水色の毛色の兄妹。


親子は決して人前に姿を見せる事は無かった。


人は差別をする、自分と少し違うだけで中身まで違うと決め付ける。


過去の村での経験から、母親は他人を信じなかった。

それは子供達にも口酸っぱく言い聞かせてきた。


信じられるのは家族だけ、他人は信じるな。

何があっても他の人に姿を見せるな。


この二つの約束を子供達は忠実に守っていた。



ある日ーー、


「カンバーランドの様子がおかしい。母さんは周辺の町や村、王都などの様子を見てくるわ。二、三日留守にするけど、兄妹仲良く留守番してるのよ。それと、約束は絶対に守る事いいわね!」


「わかった!」「うん!」


母親は二人の頭を撫でると、消えるような速度で二人の前から姿を消した。


洞窟の中には食べ切れない程の果物や木の実があり、母親が洞窟から出なくても過ごせるように配慮していた。


実際に外で遊んだり、散歩するもの母親が周辺を偵察し安全だと判断してから、洞窟から出してもらっていたのだ。


自分達自らの判断で外に出た事は一度も無かった。


今回も母親が帰ってくるまでは、洞窟にいようと当たり前のように思っていた。



☆★☆★☆★



母親が周辺の偵察に出て行ってから二日目の朝を迎えた。


今日辺り母親は帰って来るだろうと、二人は予想していた。


「ねえ、ねえお兄ちゃん、お母さんお疲れだと思うの。何かご馳走を用意して驚かそうよ。きっと喜んでくれるよ」


目をまんまるに輝かせて兄のロキを見つめる妹のアウラ。


「えっ……けど、母さんは絶対に洞窟から出ちゃダメだって言っていただろ?」


妹の発言に戸惑うロキ。

母親の発言は絶対だと分かっていた。


「いつも散歩とかしてる所までは安全だよ。いつも何も起きないじゃない。それに散歩の途中で私、木苺が生えてるの一昨日見たのよ。母さんあれ大好きじゃない」


母さんの大好きな木苺の言葉に、喜ぶ母親の姿を想像するロキ。親孝行の一つもした事のないロキには母親に喜んでほしいとこの時思ってしまった。約束よりも母親の笑顔が上回ってしまったのだった。


「じゃ、じゃあ……本当に木苺だけ採ったら直ぐに帰るんだぞ! いいな?」


「うん!」


二人は手を繋ぎ、初めて洞窟から二人だけで出かけた。



まるで、冒険だったーー。


ドキドキが止まらなかった。

いつもの散歩コースなのに、違った風景に見えた。


木の葉っぱの緑も、降り注ぐ木漏れ日も、花の香りも何もかもが新鮮だった。


目の前に広がる風景が二人にとって初めてに変わった。


自然と笑みが溢れて、飛び跳ねるように走った。


あっという間に、木苺の場所まで辿り着いてしまった。


二人は持ってきた籠いっぱいに木苺を積み終わると、直ぐに現実に引き戻された。二人の大冒険もここまで終幕を向かえた。


帰り道はいつもの散歩コースだったーー。


洞窟から出た余韻に浸りたくてわざとゆっくり歩いて洞窟まで帰ったのだった。

母親の大好きな木苺を籠いっぱいに積んで。


喜ぶ母親の笑顔が二人の脳裏に浮かんでいた。



☆★☆★☆★


その日の夕暮れ、母親はぐったりとしながら帰って来たーー。


今まで見たこともない悲壮感漂う表情だった。


「か、母さんおかえり……」

「おかえりなさい」


二人にも何か良くない事があったのが分かった。


「……このままこの国にいるのは危ないかもしれないわ。近いうちにここを離れる事も考えなきゃならないわ」


「何かあったの?」


ロキは母親に尋ねる。


「……今は詳しいことは何も言えないけど、この国……いいえ、この世界にとって良くない事が起きているわ」


「…………」


母親の話に不安で顔を曇らせる兄妹だった。


そんな兄妹を気遣うように母親はいつも通りの優しい笑みを見せる。


「大丈夫よ。あなた達には母さんがついてるから、何も心配いらないわ」


その一言で兄妹の顔もぱあっと明るくなった。母さんの優しい笑顔が何よりも大好きだった。


二人は顔を見合わせ、隠してあった籠いっぱいの木苺を母親に見せた。


「あのね、あのね私とお兄ちゃんでお母さんにプレゼント! お母さんの大好きな木苺だよ」


二人はどんなに母親が喜ぶだろうと期待で胸を膨らませていた。


母親の唇がわなわなと震えている。

斜め下を向いている為表情は分からない。


暫くの沈黙が流れる。


兄妹は目をまんまるにして反応を待っている。










雷が落ちた。


木苺の籠が宙を舞った。

紅い実が舞う。


「どう言うつもりなの! 母さんの言うことを何で守れないの!」


バチーーン!

バチーーン!


初めて母親に叩かれた。


左の頬が焼けるようにじんじんして痛い。


アウラの瞳からはぼろぼろと涙が溢れていた。


「あれだけ言ったのにどうして、洞窟から出たの! 何かあってからでは取り返しがつかないのよ!」



母親の怒りようは相当だった。

生まれて初めて怒られたような気がする。

ロキは何も言い返さなかった。

悪いのは約束を破った自分だからと自覚していたからだ。


しかし、アウラは違った。


「ーーだって、だって……お母さんに喜んでほしかったんだもん。いつも、いつも私たちの為に頑張ってくれてるお母さんに喜んで欲しかったから、大好きな木苺を採りに行こうってお兄ちゃんを私が誘ったんだよ!」


ぼろぼろと涙を流すアウラ。

地面に散乱する木苺を見つめる母親は、しゃがむと落ちている木苺を一粒摘んだ。


そしてそのまま一粒口に入れて、弾けんばかりの笑顔を二人に見せた。


「うんんん〜〜甘くて美味しいわ。こんな美味しい木苺食べたの母さん初めて!」


「おかあさん……」


呆然とする二人に母親は近づいて、二人を抱き締めた。


「お願いよ。もう二度とこんな真似はしないで、母さんが一番嬉しいのは木苺よりもあなた達二人が無事にこの洞窟で待っていてくれる事よ。お願い……母さんを悲しませないで……」


母親の涙を初めて見た……



「……ごめんなさい……」




木苺を採りに行った代償は余りにも大きかったーー。

レビューと感想を頂けたおかげだと思います!

久しぶりにちゃんと書けた気がします。

本当に作者にとって読者様の感想やレビューは活力になります。是非、感想等頂けましたら宜しくお願いします。また下記の☆☆☆☆☆より評価も宜しくお願いします!

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