不思議な女性と涙
僕はあの日、涙を流さなかった。
とても悲しくて胸が裂けそうだったのに、
不思議と僕の瞳からは何も落ちなかった。
たくさんの冒険者の人たちが父さんの最期の姿を一目見ようと家を訪れて来たのを覚えている。
父さんの寝ているベットは数多くの色とりどりの花で埋め尽くされていた。
どれだけ多くの人に父さんは愛されてきたかが分かった。
父さんはやはり凄い人なんだ。
改めて勇者さまのパーティーで魔王を討伐したんだと確信したのを覚えている。
みんなが陰で哀れ地味た台詞を言っていたのは知っていた。
母を幼い頃に亡くし、父さんに男手一つでここまで育ててもらった。
父さんが冒険者を引退したのは僕を育てる為だったのを子供ながら分かっていた。
だからせめて、父さんには僕が冒険者になって、勇者さまのパーティーのメンバーになった姿を見せたかった。
父さんに「凄いな、エル!」と言って褒めてもらいたかった。
もう、その夢は一生叶わない・・・
* * * * * * * * * * * * *
「あなたがエル君?」
「・・・はい」
綺麗な女性だった。
銀髪の長い髪に吸い込まれそうな程澄んだ青い瞳が特徴的な人だった。
お腹が大きく赤ちゃんがいるのかな?と思った。
「そう、大きくなったわね。亡くなったお母様に顔は似てるわね」
優しく頭を撫でてくれるその手が凄く優しくてまるで母さんが撫でてくれてるみたいだった。
その瞬間に僕の中で堪えていたのもが、一気に溢れ出たーーーー。
「う、うううう・・・うううう・・・」
壊れたダムのように溢れ出した涙を僕はもう止めることは出来なかった。
「悲しい時は泣いて良いのよ。あなたは強い子ね。よくここまで我慢したわ。
今はいっぱい泣きなさい。
そして、強い男になりなさい。
あなたは大魔導士マギ・オルブライトの子なんだから」
「うううう・・・おどうざん・・・」
そのまま泣き疲れて僕は寝てしまった。
起きた時には毛布が掛けられて僕の部屋のベットの上で寝かされていた。
強い男の子になりなさい。
今でも覚えている。
不思議な女性との出会いだったーーーー。