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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第3章: カンバーランドの亡霊
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東洋の狐


いろんなモヤモヤを抱えたまま、朝を迎えた。


五人で一部屋、ダブルのベットが二つあるだけの部屋なので女子四人でベットを使い、エルはソファーに寝た。小柄のエルはソファーでも十分だった。


〈帝国〉に近づくにつれ、物価が上昇してきている。〈グランバニア〉と比べ〈アルデリア連邦国〉の一泊の宿の値段は、二倍になっていた。


「朝食抜きで、この値段はかなり厳しいな……」


「そうですね……この前のクエスト報酬、ほとんど貰えなかったですから……」


〈蟲討伐クエスト〉の報酬のほとんどは、〈月華の茶会〉が持って行ってしまった。

ギルドから直々に特別なミッション内容が通達されていて、その条件を全て満たしたらしい。その結果、エル達には、緊急レイドクエストの参加報酬しか手に入らなかったのだ。


「……あれだけ危険なクエストをやったのに、参加報酬だけって……」


エリーナは顔を膨らませて、小石を蹴った。


「実際に、ボクらだけでは倒せなかったのは事実だよ。名のあるパーティーにギルド連盟から依頼するには、それなりの報酬が支払われる。今回の〈蟲〉も〈アラートレベル5〉に引き上げられていた。ギルド連盟からすると、ボクらは巻き込まれた被害者なんだ。〈月華の茶会〉はそれを救出してくれた扱いになるので、仕方ない事なんだよ」


アイナは説明しながら、苦笑いを浮かべいた。アイナ自身も説明はするが、あまり納得はしていない様子だった。


「狐の亜人のパーティーだと、聞きましたが珍しいですね」


ミレアの問いにアイナは上目遣いに、


「確か……〈東洋のイデア〉の出身のだったと思う」


「〈東洋のイデア〉ですか……あまり聞いた事がない国ですね」


ミレアが首を傾げていると、アイナが前方を指を指して、


「東洋の国の人達は、みんなあんな感じの服装をしているんだよ」


アイナが指差した前方には、着物を来た集団がこちらに向かって歩いて来た。


「ねえ、あれって、今話してた狐のパーティーじゃない?」


クレアが言ったとおり、近づいて来た人物達には、頭に耳があり特徴的な太い尻尾が生えていた。


両者がばったりと鉢合わせしたーー。


「あら? この前の初心者パーティーの……」


ルビーの瞳の狐が目を丸くして、パーティーの面々を見つめた。


「……この前はどうも……」


エリーナは黒ローブを深く被り頭を下げた。


すると、少年の「ヘルプミー」と言うカタコトの声が聞こえる。


エリーナは、その声の方に視線を移すと両腕を掴まれた甚平姿の少年が涙目で助けを求めていた。


「た、頼む……助けてくれ! 僕は無理矢理この狐達に強制労働させられているんだ! 本当なんだ、信じてくれ! このままでは僕は過労死してしまう……」


エリーナは苦笑いを浮かべ、視線をルビーの瞳の狐に戻した。


「……も、申し訳ない。彼のいつもの発作だ。あまり気にしないでほしい……」


同じく苦笑いを浮かべるルビーの瞳の狐。


「た、頼む! 本当なんだ信じてくれ、このままでは死んでしまう!」


ごつん!(げんこつ)


「人聞きが悪いっス! 過労死するほど逆に働いてみろっスよ」


サファイアの瞳の狐が少年の頭に一撃をお見舞いした。


「ーーところで、こんな所で偶然ね。どうしてまた〈アルデリア〉に?」


「本当は〈カンバーランド〉に向かっていたのだけど、ちょっと訳あって今から〈ローチェ〉に……」


エリーナはルビーの瞳の狐に触り程度に簡単に説明する。まだ一人騒いでる少年が気になるエリーナ。ルビーの狐の背後を覗き見ると、サファイアの狐とエメラルドの狐に羽交い締めされていた。


「そうなの……あら? 彼女は確か……☆4の子じゃなかったかしら?」


ルビーの瞳の狐が見つめる先に、アイナがいた。アイナは、ルビーの狐と目が合うと、エリーナの隣に歩み寄った。


「ーー今は、こちらのパーティーにお世話になってるんだ」


ルビーの狐は、眉間にシワを寄せ何事か考えるような表情を見せた。


「君たちこそ、どうして〈アルデリア〉に?」


「私たちは、ある〈ミッション〉を依頼されてここに来たのよ」


「〈ミッション〉……ですか?」


エルが余り馴染みの無い〈ミッション〉と言う言葉に首を傾げた。

クエストは誰でも依頼を受けることが出来る。ギルドホールに貼り紙をされていて、受付で申請すれば参加条件を満たした事になる。


〈ミッション〉は、依頼主より指定されたパーティーにのみ与えられた〈討伐〉〈護衛〉〈探索〉など条件指定のある〈クエスト〉である。



「あなた達にもかーー」


「こら! 余計な事は言わない!」


エメラルドの瞳の狐が、アメジストの狐の口を後ろから塞ぐ。

狐達とエル達の間に気まずい雰囲気が流れる。





この雰囲気を嫌ってか、頭をくしゃくしゃにしてルビーの狐がため息混じりに口を開いた。


「ああ、もう気弧は! 何でもかんでもしゃべっちゃうんだから」


「……天ちゃんごめんなの……」


もじもじとしょんぼりするアメジストの瞳の狐、気弧。


周りをチラッと見つめるルビーの瞳の天狐。

さすがに、狐の亜人の集団は目立つため、他の冒険者や商人たちの視線を集めていた。


「ーーさすがにここだと話辛いわね。ギルドホールの会議室を借りて話ましょう」


「……そんな重要な話なんですか?」


天狐は真剣な眼差しでエルを見つめた。


「機密事項……トップシークレットの話です」


その言葉に、エルは生唾をごくりと飲み込んだ。




☆★☆★☆★☆


〈 ギルドホール会議室 〉


「空狐、傍受されてないか調べて」


「はいっス! 狐火〈炎陣〉」


ギルドホールの外で微かに、男の悲鳴が聞こえた。


その声にエルは胸がどきりと音を立てた。

エリーナや双子姉妹も驚きの余り、大きく目を見開いていた。


「ーーやはりな、誰かが情報入手の為にトラップ魔法を仕掛けていたんだろうね」


ルビーの狐はふんっと、鼻で笑っていた。


「……さっきの悲鳴は?」


エリーナが恐る恐るルビーの狐に尋ねると、

空狐が微笑みながら答えた。


「ここを盗聴しようとしていた奴っス! この会議室内のトラップ魔法の相手を逆探知して、懲らしめてやったっス!」


「ーーさて、これで誰にも話を聞かれる事もないから本題に入ろうかしら」



ーーすると、会議室にノックの音が二回響いた。


エメラルドの狐がドアを開けると、アメジストの小さな狐がお盆に湯のみをいくつも置いて持って来ていた。


「みんなのお茶持って来たの」


「偉いわよ気弧」


エメラルドの狐は気弧の頭を撫でた。


「嬉しいの、ありがとうなの仙弧」



☆☆☆


「私たちの〈ミッション〉の依頼主はズバリ、ノイシュバンシュタイン所謂〈帝国〉よ」


「ーーーーーーーーーー⁉︎」


「〈帝国〉の〈アレフレッド〉と言う男から依頼を受けて【☆4パーティーの生存者確認】と【エリーナ姫の所存の確認】を依頼されていたのよ」


「……アレフレッドが……」


「あれれ? おかしいな、アレフレッドをまるで知っているような素振りですね?」


仙弧がにやにやしながら、エリーナに近づくと黒いフードを捲りあげた。

「あっ!」と言う声とともに、可愛いらしい顔があらわになった。


「エリーナ姫ですよね? もう既に〈蟲〉のクエストの段階で私たちが〈帝国〉に情報を譲渡させて頂いていましたのよ」


「え? じゃあ私が今、冒険者って事は……」


「はい、陛下様も存じております」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


気の抜けた顔をして俯くエリーナだった。


「☆4パーティーの生存者確認って事はやっぱりまだヘレンズとロキは生きているんだよね?」


アイナは身を乗り出すように、椅子から立ち上がる。


天狐はアイナを見つめながら首を横に振る。

それを見たアイナは顔からサッと血の気が引いて行く。


「……生存者確認はあなたよ。アイナ・アウグスタ・ロレーヌの生存確認がまだしっかりと取れてなかったので、至急確認が必要だったのよ。万が一でもあなたが死亡したとなれば世界の一大事となるわ」


「ーーなら、パーティーを全滅されたのは誰?」


アイナの口元がわなわなと震える。


誰?


その言葉で会議室内はしーーんと静まり返る。

少し気温が下がったような、張り詰めた緊張感が漂う。


天狐は救いを求めるように、お人形のように黙って、三味線を持って座っている少女に視線をおくった。少女はこくりと頷く。

三味線を構えると、べんっと奏でた。


「ーーあなた達は、この世界の成り立ちをどこまで知っているの?」


透き通るような透明な声に、息をするのを忘れたーー。


日頃より「弱虫の剣」をご愛読くださりありがとうございます。この度、総合評価が700達成致しました。これもいつも読んでくださる読者さまのおかげです。本当にありがとうございます!

これからも是非応援宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 大きく物語が動いていますね。 ハルトくん、主役食いそうなほど好き!
[一言] 狐PTなんともうらやま(ゲフン) Twitter企画でタイトル見て、割と私好みの作品かな?と思い拝読させて頂きました。 話の流れも(私の作品と違い)スムーズでとても読みやすかったです。
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