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弱虫の剣  作者: 望月 まーゆ
第3章: カンバーランドの亡霊
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遊び場の全滅

くちゃくちゃと咀嚼音が響く。


口を真っ赤に染めた女性が、夢中になって屍に食らいついていた。


群がる〈女性の顔をした鳥〉は競うように死体を食い漁っていた。


その異様な光景は、まさに地獄絵図だった。


幾ら死体を捜しても見つからない筈だ。

みんなコイツらが食べていたんだ。


何羽いるんだろうか?

よく見ると、見覚えのある顔がたくさんいる。カンバーランドの女性達は、みんなこの姿に変えられてしまったのか……


「アウラ……あうら……あうら……」


ロキが一歩、一歩と水色の髪の鳥に近づいて行く。


「あれれ? まだ生きてる人間がいたの?

おかしいナ。ちゃんと確認したんだけどナ」


その声に振り返るヘレンズとロキ。

そこには〈烏の面〉を被った人物がレンガの塀に腰掛けていた。


「冒険者カナ? 迷い込んだのカナ?」


死体の山に群がる鳥の目の前で、振り返るロキ。


「……お前か……妹を……こんな姿に変えたのは……」


「妹?? 水色のことカナ? あたしの可愛いの大好き! 水色は最高傑作カナ!」


レンガの塀に腰掛け、脚をバタバタさせている〈烏の面〉の人物。


「キサマああああああああああああっっ!」


ロキは背中から大鉈を取り出すと、〈烏の面〉の人物に向かって飛びかかる。


「るああああああああああああああ‼︎‼︎」


怒りをぶつけるように、力いっぱい大鉈を振り下ろす。


レンガの塀は粉々に砕け散る。

その音に〈鳥〉たちはバタバタと非難するようにその場から離れる。


「野蛮、野蛮カナ。美しくないカナ?」


ロキの背後に首を傾げながら〈烏の面〉の人物は立っている。


「クソ! クソ! クソ! クソおおおお‼︎」


ロキは大鉈を振って、振って、振りまくった。


〈烏の面〉の人物はひらり、ひらり、舞うようにロキの攻撃を難無く回避する。


「あたしの可愛い子供達が怯えてるカナ?

あなたやっぱり野蛮カナ? 排除カナ⁉︎」


ロキが大鉈を振り上げた。


次の瞬間ーー、


すぱん!


ロキの目の前の風景が、宙を舞うように、ぐるりぐるり回る。


ぐしゃ……


鈍い音と、目の前に〈烏の面〉の足元だけが見えた時、ロキは初めて分かった……



俺、死んだんだ……



死を認識した瞬間、首を失った胴体が後方で地面に崩れ落ちた。



「人間なんて、呆気ないカナ?」


水色の髪を握り締め、取れたロキの首をくるくると回しながら〈鳥〉たちに向かって歩いて行く〈烏の面〉の人物。


「ーーほら、水色。餌カナお食べ」


ロキの妹のような、水色の髪の少女の鳥の目の前にロキの取れた首を置く〈烏の面〉の人物。他の鳥たちも餌だと分かると群がってくる。


「水色、食べないと他の〈子供達〉に食べられちゃうカナ? 良いのカナ?」


その言葉が引き金となり、水色の髪の少女は、ロキの首にガブリついた。


〈烏の面〉の人物のけたけたと笑い声が〈アイガー〉の街に木霊する。


「あれれれ、おかしいカナ? 水色なんでカナ?」






何で……目から水が溢れてるのカナ……






☆★☆★☆★☆



〈アイガー〉の街を監視していたサラの〈ロケーション〉からロキの生命反応が消えた。


噴き出る冷や汗を拭いながら、レグルスとシャルルに叫ぶ。


「い、今すぐここを離れるよ! ヤバイよ。

この前の〈蟲〉の非じゃない」


「ど、どう言う事にゃん??」


「ロキが……死んだ……このままだと……ヘレンズも……とにかくここを離れるよ!」


「……ロキが……そんな……」


シャルルは地面に膝をついた。


「……何かあったらギルド本部に連絡する手立てだったろ?」


仲間の死が受け入れられないシャルルに、レグルスがそっと手を伸ばす。

シャルルはその手の先にある、レグルスの必死に作った笑みを見つめた。


「……そうにゃんね……」


レグルスの手を握り返し立ち上がる。

シャルルは今、自分達に出来ることをやると心に誓った。


「あなた達、何悠長な事してるの⁉︎ 急いで!」


サラは焦っていた。

急がなければ〈鳥〉が来るかもしれない。


〈ローケーション〉で大量の〈鳥〉が固まっているのが確認出来たからだ。

それが〈鳥〉だと、認識出来た訳ではないので、推測になる。


そして、人間では無い謎の反応。

それが膨大な魔力を内に秘めていることが分かった。


それは〈蟲王〉が赤ん坊に思える程の桁違いの魔力量だ。


そんなレベルの魔物相手に出来るのは、この世界に一人もいない……

サラは、この能力を日頃から使っているから、大体の強さの基準が分かる。


強いと思っている人物でも、ロキを殺した人物に比べたら足元にも及ばないだろう。


そんな奴に目をつけられたら……終わりだ。



サラは必死で走った。

喉は枯れ血の味がする。


彼女は走りながら何度も後ろを振り返る。

ーーしかし、そこは何も見えない。


それでも、何度も、何度も、何度も振り返る。何もないはずなのに……


「……ヤバイ、ヤバイ!!」


山の中を全力で走り続け彼女の心臓はバクバクで破裂しそうだった。

とっくに限界なんて超えていた。

一瞬でも気を抜けば倒れてしまい、もう立ち上がる事は出来ないだろう。



走っていて、サラは気付いた……


『レグルスとシャルルがいない!!』


その瞬間、思わず足を止めてしまった。



ふんふんふんふん、ふん、ふんふん♪



サラの心とは、裏腹な陽気な鼻歌が何処からともなく聞こえてきた。


身構えるサラ〈ローケーション〉で相手の位置を探る。


ひょんひょん跳ねるように、こちらに向かって来る鼻歌の人物は、サラが瞬きをする度にその距離を一気に詰めて来る。


そしてーー、サラの目の前に〈兎の面〉を被った人物が現れた。


「急に仲間を置き去りにして、君だけ走って行っちゃうから、追いかけるの大変だよお」


ふうっとため息を吐き、ぱたぱたと手で扇ぐ仕草をする〈兎の面〉の人物。


「あ…あなた達は……何者なの……」


サラは歯の根が震える。

恐怖に縛られ、上手く言葉が出ない。

ローケーションを使っているサラには、この〈兎の面〉の人物もまた、バケモノだと分かっていた。


「〈あなた達〉って事は、やっぱり君が覗いていたんだね。イケないんだあ!」


サラは〈ローケーション〉を逆探知されていた事実に愕然とした。今まで魔法感知された事ないのに……


「いろいろ、君たちは知り過ぎちゃったみたいだね。 〈お父様〉からも排除命令が出てるので、先ほどのお仲間も残念だけど、死んでもらったので、君も残念だけどサヨナラだね」







目の前が真っ暗になり、ゆっくりとサラの意識が薄れて行くーーーー。



ふふふん、ふふふん、ふふふん♪



陽気な鼻歌だけが最期まで、脳裏に響いていた。

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[一言] うそ~眼鏡エルフ!!! Spielplatzのメンバ~!!!
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